499神猫 ミーちゃん、み~とみ~?を間違える。
夜が明けた早朝に神猫商会本店の壁に横断幕とまではいかないけど、大きな紙に『ネロ男爵、辺境伯に陞爵記念! 全品半額セール!』とデカデカと書いて張り出した。
各ギルドにも同じことを紙に書いて、本店開店前に配ってきている。
俺は店の横に神猫屋の屋台を持ち出して、豚汁とうどんを茹でる用の鍋をコンロにかけ準備万端。
屋台にも『辺境伯陞爵記念! 豚汁無料提供! トッピングの麺は百レト頂きます。無くなり次第終了』との張り紙を目立つように張っている。
本店が開店すれば張り紙の影響か、早朝だというのに長蛇の列ができる。並んでくれたみなさんに豚汁を木製のコップに入れ配って行く。さすがに捌ききれないので、渡すのはカヤちゃんに応援を頼んだ。
それでも人が足りないので宗方弟を返却された食器洗いに、半額セールでてんてこまいの神猫屋の助っ人に宗方姉をバイトとして雇っている。
そして思ったとおりうどんの売れ行きも好調。依頼に出る前に朝食代わりにと注文するハンターさんたちが多い。そして、食べてその美味さに驚愕する様を見て、ほかの人も注文してくるといういい相乗効果の流れができている。
うどんはさすがにコップではなく、木製の深皿を用意して対応。こちらの世界にどんぶりはない。特注で作ってもらおうか?
そんな屋台の横のお立ち台の上で、ミーちゃんはいつもの会頭兼マスコットとして握手会。クオンとセイランもそのお手伝いだ。
「み~」
「「かう」」
ペロとセラはルーくんとラルくんをお供にプリンの調理場につまみ食ぃ……もとい、品質管理検査に出向いている。仕事熱心だね……。
「ネロくんが辺境伯!? どんな悪いことをしたら辺境伯になるのよ! ちゃんとお姉さんに説明しなさい!」
いやいや、、悪いことはしてません。王様に賄賂……もとい、献上品をしたせいでこのざまなんです。パミルさん。
「パミルくん。うるさいぞ。しかし、この豚汁と麺は疲れた体の五臓六腑に染み渡るのう」
「ギルド長!? こんな所で何をしているんですか!」
ゼストギルド長は屋台の後ろで、俺が用意した椅子に座って豚汁うどんを啜っている。俺の奢りだ。
「君こそ、この朝の忙しい時間帯に、なにをしとるんじゃ?」
「いえ、あのう……そ、そうです! みんなが職務をよく遂行してくれているので、たまにはその行為に報いようと思いまして……」
「だそうじゃ。パミルくんが奢ってくれるそうじゃぞ」
「「「「ゴチになりま~す! お姉さま!」」」」
「えっ!?」
パミルさんの後ろにハンターギルドの受付嬢が並んでいる。パミルさんが神猫屋に連行されて行ったね。みなさん、仕事はどうした?
「しかし、ネロくんが辺境伯とはのう。男爵でも驚いたが、さらに出世するとはのう」
「したくて、したんじゃないですけどね」
「出世してそんなことを言うのは、ネロくんくらいじゃよ」
疲れた顔のゼストギルド長に呆れ顔で見られる。
ゼストギルド長が疲れているのはハンターギルドの本部がやっと決断して、ロタリンギア王国からハンターギルドを撤退させることを決めたからだ。俺はさっき聞いた。
ルミエールとヒルデンブルグ側の国境は封鎖されているので、まだロタリンギアと国交のある北の国経由で退避させるそうだ。北の国ともいつ断交するかわからない状況の今、ことは早急に運ばなくてはならない。
そのせいで、ゼストギルド長は寝る暇もなくギルド長室に泊まり込みで仕事をしている。そんなギルド長からお金は取れない。好きなだけ食べてください。
それにしても、ハンターギルドのなくなるロタリンギアはどうなるのだろう? おそらく、多くのハンターもロタリンギアを見限って国を出るだろう。
まあ、俺の国じゃないからどうでもいいか。
「ネロくんは飛ぶ鳥を落とす勢いじゃが、多くの貴族から妬みを買っておるようじゃぞ? 闇ギルドも活発に動いておるようじゃ」
話を変えてきたのはゼストギルド長なりの忠告。だけど、それは王妃様にも言ったけど想定済み。
「今はわざと泳がせています。そのうち一網打尽に釣り上げます。この町がさらに住みやすくなりますよ」
「すべてはネロくんの手のひらの上というわけじゃな。ネロくんは怖いのう」
怖い? こんなに優しい人なかなかいませんよ?
「み~?」
ミーちゃん、そこは『み~』でいいと思います!
開始から二時間で、あれだけ用意した豚汁はなくなった。うどんも完売だ。食べられなかったお客さんからブーイングが出たくらいだ。ごめんね……ここまでとは思わなかったんだ。
それでも、訪れてくれた人は、頑張ってくださいとエールをくれる。お酒じゃないよ? 応援だからね!
辺境伯自らが豚汁をよそう姿はシュールに見えるかもしれないけど、町の人々に寄りそう気さくな貴族として、ほかの貴族とは一線を画すのだ。
俺は貴族だけど神猫商会の副会頭でもあり、庶民の味方だよとのアピールだ。お馬鹿な貴族共と一緒にされてはたまらない。
「み~」
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