483神猫 ミーちゃん、破壊神になる~?

「では始める」



 両手に二本の棒を持たされる。こちらの世界の文字一文字を普通に書くのと、逆の手で鏡文字に書くのを両手で同時に行うという修行だ。


 難しいが慣れればなんとかなりそう。なんて思っていたら、これは序の口で鏡文字と逆さ文字を両手で同時に書くのが本番らしい。


 うがぁー、頭がこんがらがるー!


 イライラして何度も棒を叩き折りながらやっていると、



「おっ、どうやら会得したようだな」



 えっ!? そうなの? 鑑定して見てみるが何も増えていない。


 首を傾げていると、不意にミーちゃんが姿を現す。


 目が死んでるね……。それにフラフラしている。



「みぃ……」



 少し歩いて、バタリと倒れる。なんだけど、なんか、ミーちゃんの毛艶がよくない? 今までも銀糸のような艶々な毛並みだったけど、今のミーちゃんの毛は更に輝いている。光の当たり具合で虹色にも見えるんですけど?



「ヤバ、やりすぎた……」


「な、なにがヤバいんですか!?」


「格が上がっちまった……こんなはずではなかったのに。まずったな……」


 ど、どういうことか意味がわからない。珍しくオロオロしている烈王さんにエールを飲ませながら話を聞く。


 ミーちゃんは神猫とはいえ、向こうの神様の眷属。言わば従属神という位置づけになる。こちらの世界では客人神ってところかな。


 それが、烈王さんの修行のせいで。向こうの神様とこちらの神様と同格になったらしい。


 本来ならミーちゃんは格が上がる素質はなかったそうだ。だけど、古代の神々の神力の渦の中で死んでは生き返りを繰り返すことで、本来ではありえない転生を繰り返したことと同じ経験を積んだことで格が上がったと思われるらしい。



「恐るべし……不老不死スキル」



 それに、古代の神々の神力の渦の中で格が上がったことで、少しだけど古代の神々の力を吸収しているそうだ。



「やっちまった……世に出ることを防ぐのが俺の役目なのに……」



 まだ顕現はしていないので、どんな力かはわからないらしい。



「みぃ……」



 いや、確かにジュゴンのオカマはいないと思うよ? でも、そこなのか!? ミーちゃん!


 ぐったりしたミーちゃんにミネラルウォーターを飲ませてあげる。力なくチロチロと飲むミーちゃん。満足したミーちゃんを抱き上げて抱っこするとすぐにスピスピと眠りについた。


 よほど疲れていたらしい。陽当りのいい場所に毛布を敷いて寝せてあげる。



「ミーちゃんはどうなるんですか?」


「いや、どうにもならないと思う。ただ、どこかの世界の主神になれるようになっただけだ」



 ミーちゃんが主神の世界……とても興味がある。住んでる住人はケットシーか猫科の動物だろうか? 平和なモフモフパラダイスに違いない。間違いない!



「あるいは、この世界で新たに神の一柱となるかだな」



 神猫教の主神かぁ。じゃあ、教祖は俺だな。司祭はペロやセラにさせるか。いや、駄目だな。あいつらは司祭ではなく魔人なのだ。そう、腹ペコ魔人だ。神とは相反する存在なのだ。


 などとくだらないことを考えても意味がないな。



「まあ、やっちまったものは仕方ない。眷属殿に自重してもらうしかないな」


「軽っ!? それに丸投げですか!?」


「しょうがないだろう? 眷属殿と戦ったとしても万に一つも勝ち目がないんだぞ。逆に下手に突っついて古代の神の力に目覚めでもしたら、それこそ本当に手が付けられなくなる」



 要するに、触らぬ神に祟りなしってことだね。烈王さんとミーちゃんは懇意の間柄。わざわざ、その間柄を崩すこともない。



「古代の神の力ってどんな力なんでしょうか?」


「さあな、世界を破滅させるだけの力があるんだ、少しとはいえ想像がつかないな」


 役に立つ力ならいいけど、破滅や破壊だけの力は迷惑だな。まあ、ミーちゃんだからどんな力だとしても、悪いことには使わないだろう。


 破壊神ミーちゃん……似合わないな。


 そんなミーちゃん、へそ天に鼻ちょうちんで爆睡。酔っ払いのオヤジみたいな寝相だ。神の威厳もあったもんじゃない。それでも可愛く見えるのミーちゃん故だろうね。


 結局、ミーちゃんは起きずじまい。俺の修行も今日はこれまで。並列思考スキルはまだ覚えていない。当分は修行だな。


 一度、家に帰りミーちゃんをムニュムニュ姉妹と一緒にソファに寝せて、俺は本店に行ってみる。


 レーネ様のお店との相乗効果で売上は良好。レーネ様のお店は長蛇の列ができている。レーネ様のお店でプリンやシュークリームを買って、神猫屋でお茶などの飲み物を買う人も多いようだ。


 調理場も確認しに行ってきたけど、さながら戦場の様相を呈している。見て見ぬふりをして余っている卵白をもらって家に帰った。


 卵白を何に使うかって? そりゃあ、かまぼこ作りに使うためだ。そのために朝、魚市場に行って魚を仕入れたんだからね。


 作り方はおそらく大丈夫。宮城のばあちゃんは笹かまぼこやかまぼこを自家製で作っていた。それを、手伝ったことがあるから作り方は覚えている。


 さあ、食の伝道師ネロの出番ですよ!


 あっ、ミーちゃん寝てたね。


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