481神猫 ミーちゃん、神気の修行を始めます。

「いいか、偽勇者は神界を通る時に自然と再編されるが、本物の勇者やネロは違う。ネロの体は神が一から造っているんだぞ。神気の塊みたいなもんだ。まあ、眷属殿の足元にも及ばないがな」



 あらやだ、怖いわぁー。能力普通で神気だけ持っていてもなんの使い物にもならない、魔王にプッチっとされるだけじゃないか。



「取りあえず、偽勇者の予備として覚えろ。それにネロが偽勇者に使い方を教えればいい」


「俺は時空間スキルの修行がしたいです」


「よく言った! 両方同時で修業したいということだな。ネロはなかなかやる気と根性がある。さすが俺が見込んだ奴だ。その気概に応えようじゃないか!」


「み~!」


「へっ?」



 誰もそんなこと言ってないよね? ねっ?



「時空間スキルは何を覚えたいんだ?」


「……転移か迷宮の神人が使っていた時間を引き伸ばす能力? 一定の空間の時間を操る奴ですかね」


「転移も時間を操るのも、今までやってきた自分の作った空間に入る修行の延長線だぞ?」


「み~?」



 そうなの?



「前に言ったろう? 自分の空間にここから入り、出る場所を別の場所にするだけだ。入った瞬間にほかの場所に出るのが転移だ」



 そういえば、そんなこと言っていたな。ということは、



「自分の空間に入れた物を、まったく別の場所に出すことも可能ということですか?」


「可能だな。だが、転移もそうだがその場所をはっきりと認識できないと失敗する。俺がネロにやった転移装置はその部分を本体と札で繋げているから、簡単に転移ができる。転移陣も同じだ」



 なるほど、ミーちゃんバッグもミーちゃんが見える範囲なら出し入れ自由なのはそういうことか。



「もう、自由に出入りできるんだろう? なら、やってみろ。ここから入って、そこの木の横に出るんだ。ちゃんとその場所を認識しておけよ。さて、眷属殿は神気の修行だ」


「み~!」



 ミーちゃんの修行も始まるようだし。俺のほうも始めますか。


 出入りはもう自由にできるようになった。でも、この空間はとても息苦しい。何もない閉鎖空間だ。入れている荷物も見当たらない。


 精神を鍛えるにはいい場所かもしれないけど、俺はこの空間が嫌いだ。長くいると頭がおかしくなりそう。早く出よう。


 出る場所はさっき見た木の横。全体をイメージするのか? それとも一部を強くイメージすればいいのか?


 いろいろ試すが出ることができない。


 いつものように同じ場所に出るときは、そこまで深くイメージしていなかったよな。イメージは関係ない?


 そういえば、烈王さんはイメージしろとは言っていなかった。認識しろと言っていた。イメージを認識するんじゃないのか?


 いや、場所をイメージできなければ転移なんて無理だ。なら、何が違う? 


 逆に考えてみよう。俺はあの場所を完全にイメージとして認識できていたか? おそらくできていない。写真でも撮ったように頭にインプットできなければ無理だ。


 強烈なシンボルでもあれば別だが……シンボル? 象徴? 目印!?


 目印か!


 転移装置の札にも幾何学模様に印が描かれている。そういうことでいいのか? 取りあえず、やってみよう。


 いつものように入った場所に出る。これは入った場所がインプットされているから出られると考える。



「なんだ、諦めたか?」


「いえ」



 木の横に丸をイメージで描く。全体はそこまで重要じゃない。この丸が重要なんだ。丸がこの場所にあることを頭にインプットする。


 よし、やろう。


 また、さっきの場所から空間に入る。何も変わっていない。精神的に参る場所だ。


 さっさと出よう。出る場所は丸の場所。全体は曖昧にしか認識できていない。でも、丸は俺自身が考えその場所に置いたもの。


 出れた! 自分の横に木がある。 成功だ!



「ほう。もう習得したか。意外とネロは優秀だな」



 意外とは余計です!



転移は一度行ったことがある場所限定だ。少しずつ距離を伸ばして訓練しろよ。最初から無理に転移しようとすると失敗するか、ヤバいと変な所に転移するからな。普通の転移スキルと違って、時空間スキルの転移は熟練度に応じて距離が延びると覚えとけ」


「普通の転移スキルは制限があるんですか?」


「才能がある奴が熟練度を上げれば、一度に転移できるのは町二つ分くらいだな。時空間スキルの転移は事実上無限だ」


 町二つ分だとだいたい四百キロ前後。熟練度を上げ、尚且つ魂の器が大きい人は三回くらい転移できるそうだ。一人の場合ね。人数が増えるとそれだけマイナス要素になる。


 ちなみに行ったことのない場所に転移する方法もあるそうだが、ドラゴンクラスの絶対強者じゃないといろいろ無理らしい。さっき烈王さんが言ったってやつだ。



「今は一度空間に入ってから出ているが、空間を薄くして入ると同時に外に出れるようになれば完璧だ。使い方によってはこんなこともできる」



 烈王さんが手を伸ばしたたかと思うと、頭に衝撃が!? い、痛いんですけど?


 見上げれば腕が浮いている!?


 ミーちゃん、お化けだよ!


 ん? あれ? ミーちゃん、どこ?



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