465神猫 ミーちゃん、試食会に参加する。

 あんな冗談を言ったばかりに翌朝までミーちゃんに避けられ続けた。冗談なのに……。


 でも、朝になればケロッとした顔をで、顔をペロペロして起こしてくれる。そんなミーちゃんが大好きです!


 腹ペコ魔人のいない静かな朝食を食べながら、イルゼさんたちから本店の状況を聞く。



「売り上げは順調です。温かいものも取り入れたので客層が増えました」


「み~」



 ベールナもすっかり寒くなってきた。買い物に出た主婦層が、冷えた体を温めるために神猫商会に寄ってくれているらしい。そして、ついついお団子などのお菓子にも手を出す。狙いどおりの展開だ。



「西側に面した店舗がもったいないですね」



 クリスさんの言うとおり、そっちはまだあまり活用していない。



「来週辺りからそちらの店舗も稼働を開始しますので、相乗効果で売り上げが上がると思います」


「み~」


「何に使うつもりかしら? 何かをするのなら、今の人数では手が足りなくなるわ」


「店の一角を貸し出すので、みなさんにご迷惑はおかけしません。ペロとセラがオーナーのお菓子屋が入りますので」


「み~」


「お菓子同士で被って大丈夫でしょうか?」



 まあ、当然の心配だね。



「客層や売るものが違うので大丈夫です。それに、売り上げに便乗するのはうちのほうだと思います」


「神猫商会より売り上げを上げると?」


「み~!」



 コンラートさんはこちらに来たばかりなので知らないけど、レーネ様は市中では人気がある。総売り上げでは負けないけど、向こうは数が限定されているから夕方前に売り切れる可能性もある。



「向こうはネームバリューも神猫商会以上です。いいライバルになると思いますよ」



 さてララさんの淹れたお茶を飲んでから、そのライバルとなるお店のプリンとシュークリームの試作品作りを、義賊ギルドの用意した調理場ですることになっている。


 三日後が『パティスリ プランセス レーネ』のオープン日なので正直ギリギリだ。銃関連のことがあったから延期されていたのだ。


 義賊ギルドが調理場として借りた場所はうちの屋敷と中央広場のちょうど中間くらいにある。閑静な住宅街の一角にあった。元は小さな食堂だった場所を改装したみたい。


 ミーちゃんとレティさんと歩いてきた。馬車で来る距離でもないからね。グラムさんは自主練。宗方姉弟はゼルガドさんと研究させているので連れて来ていない。


 人はもう集まっていた。王宮から来てくれた料理人三人に、義賊ギルドで雇った男女のパティシエ候補三人だ。


 王宮の料理人さんとは王宮で見知った顔なので軽く挨拶。ほかの三人には挨拶と共にこれから作るお菓子の説明や、今後の展望も話して聞かせる。


 おそらくこの三人は義賊ギルドの関係者だろう。このお店が有名になれば真似する人も出てくる。俺は秘匿するつもりはまったくないけど、義賊ギルドはできるだけ秘匿していたいだろう。


 始める前に、着替えと手洗いをしっかりとする。これは大事なこと。見習いパティシエの三人にもしっかりと説明して守るように言っておく。


 ちなみにミーちゃんとレティさんは、休憩場所となる部屋で仲良く日向ぼっこしている。


 まずは、設備と材料の確認。さすが義賊ギルド、王宮にある大型の冷蔵庫が二台設置されている。一台は材料用、もう一台はプリン用なのだそうだ。


 オーブンも大きなものが三台設置されている。今は一台で十分だけど今後を考えれば必要になる。その他の道具も全部そろっていた。


 さっそく、王宮の料理人さんとプリン作り。何種類か作るつもりだ。牛乳を使うもの使わないもの、水飴、ハチミツ、砂糖でも分けるので六種類。特注でバニラビーンズを入れた一種類。


 それに、カラメルソースを入れるか入れないか。クイントのサイクスさんのお店で作っていたプリンのように、カラメルソースの代わりにビスケットを敷くのも作る。


 冷やしている間にシュークリームのシュー作り。見習いパティシエの三人は必死にメモを取りながら、俺や王宮の料理人さんから技を盗もうと必死だ。


 焼き上がるまでにカスタードクリーム作り。これも水飴、ハチミツ、砂糖の三種類にバニラビーンズのあるなしを作る。


 そして、どうしても余ってしまう卵白。なので、簡単に作れるメレンゲクッキーの作り方を伝授。王宮の料理人さんも興味津々だった。王宮だといくらでも使い道があるから、わざわざメレンゲクッキーなんて作らないだろうからね。


 ここで役に立つのが手動回転ミキサー! 卵白を立つまで攪拌。少しずつ水飴を混ぜて絞り器で、小さく絞り焼くだけ。簡単でしょう?


 全部出来上がったところで試食会。その頃になると、ミストレティシアさんとフレアさんも集まっていた。



「随分、作ったのね?」


「基本の材料は同じですが、高級な砂糖を使うか使わないかなど変えています。貴族向けと庶民向けの検討をするというのもありますね」


「み~」



 この中で高いのはもちろん牛乳と砂糖とバニラビーンズを使ったもの。バニラビーンズは王宮にも卸していないので、ロイヤルファミリーでさえ食したことのない逸品だ。


 ミーちゃんも食べてみる?



「み~」



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