459神猫 ミーちゃん、新兵器発表会に出かける。
この炭は肉を焼くわけじゃないので問題ない。これは火薬の材料になるのだ。
火縄銃の火薬である黒色火薬より褐色木炭を使った褐色火薬は燃焼率がわざと悪く調整している。
理由は火薬に火が点き燃え尽きるまでの時間が銃の威力に関係するからだ。早く燃え尽きる黒色火薬より、燃え尽きるまでの時間が長い褐色火薬はより多くのガスを発生させる。ガスが多く発生すればより弾を押し出す圧力が強まる。圧力が強いということは、より速く、より遠くに飛ぶということだ。
実際に黒色火薬と褐色火薬でどのくらい違いが出るのかは実験してみないと何とも言えないけどね。長く燃えるといっても一瞬のことだから見た目でわかるかもあやしい。
「グラムさん、帰りますよ」
「か、帰るのか?」
「み~」
歩くのも辛そうだが、強くなりたいと言ったのはグラムさんだ。ここは心を鬼にして無視しよう。
「なんか凄く老けた感じがしません?」
「燃え尽きた、燃え尽きちまったぜ?」
「今日のところはこのくらいにしておきますか」
「み~」
「し、死んだ……」
ルーくん、ラルくん、グラムさんにケリケリするのはやめてあげて。疲れているから。マジで。
「がう?」
「きゅ~?」
えっ!? ルーくん、ラルくんもやってみたいの?
「がう」
「きゅ~」
じゃあ、重力二倍でやってみようか。
「が、がう……」
「き、きゅ……」
数歩歩いてぱたりと伏せの状態になり、ごめんなさいととばかりに俺を見上げてくる。しょうがないから重力スキルを解いてあげる。
ルーくん、ラルくん、グラムさんの所に歩いていき、グラムさんの肩をテシテシ叩く。頑張れよってところかな?
「軽い……体が軽い!」
やっと復活したグラムさん重力スキルが解かれた状態に驚いている。
「これを毎日続ければ、必ず強くなりますよ」
「目指せ百倍!」
「目指すは限界突破なのだよ」
「み~」
「おぉー!」
単純な人でよかったよ。でも、単純だけに一度波に乗ってしまえば化ける可能性は秘めていると思うんだよね。単純って怖いわぁ。
明日の準備をゼルガドさんとして、翌日馬車で王宮に向かう。今日は汚れ作業になるので、ゼルガドさんとおそろいのつなぎ服を着ている。ルーカスさんはいい顔をしていなかったけどね。
王宮に着いてモフモフ軍団はレーネ様の所へ、俺とミーちゃんとゼルガドさん、そしてグラムさんは練兵場の一角に建てられた大きな天幕に連れてこられる。
天幕には王様、王妃様、宰相様、第一騎士団の団長のウィリバルトさん、薬学機関のパトリック所長、秘書のヒルデさん、その他大勢の職人、研究者、書記官がいた。
「此度は新しい武器の開発を見せてくれるということだが、ブロッケン男爵期待しているぞ」
「お任せください」
俺とゼルガドさんは膝を付き首を垂れる。ゼルガドさん顔色が真っ青でガチガチ。緊張しているのだろうか?
しかし、正直期待されても人殺しの道具作りだから嬉しくはない。でも王様にそう言われてしまえば、こう答えるしかない。
王様たちはそう言ってから奥の天幕に移動する。準備に時間がかかるから奥でティータイムのようだ。エレナさんと一緒の動きやすい男装した王妃様に頑張ってねと一言声を掛けられ、ミーちゃんを奪われる。デフォルトだね。
「グラムさんは重力四倍で練兵場をひたすら走ってね」
「よ、四倍でか!?」
「強くなりたいんですよね?」
「ぐっ、やってやるさ!」
グラムさんが天幕から走り去った後に、パトリック所長が木箱を抱えた人たちとやってきて、木箱を置いていく。
「これが発色剤だ。見せてもらおうか新兵器の実力とやらをな」
木箱の中に入った麻袋の中に白い粉が入っている。鑑定すれば硝酸カリウム。間違いないね。
「見せて差し上げますよ。時代が変わる瞬間をね」
「そこまでなのかね? ロタリンギアでも同じものを開発していると聞いているが」
第一騎士団のウィリバルトさんだ。
「そこまでのものですよ。辺境伯領のほうはもういいのですか?」
「防備は固めてきた。第一騎士団の半分が常駐している。今起ち上げ中の第四騎士団を送るつもりだよ。今の時点でロタリンギアが攻めてくることはないだろう。奴らの目はヒルデンブルグに向いているからね」
「そのヒルデンブルグの援軍に駆り出される羽目になりましたよ」
「貴族として武勲を積む機会を与えられたのだよ。陛下からの信頼の証、並びにほかの貴族へのけん制だろう。甘んじて受けたまえ。君が上手く立ち回れば君の貴族としての立場が確立するのだからね」
「はぁ、そんなものですかね?」
「そんなものだよ。それでは期待して待つとしよう」
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