449神猫 ミーちゃん、良心の呵責に苛まれます……。

 時刻は九の鐘が鳴った。最後のお客さんが残りを買ってくれたおかげで完売。最後なのでだいぶおまけしたけどね。


 いやー、売ったね。売りまくったね。売った量だけなら過去最高だ。売上金は半額ということもありそこまでではないけど。



「み~」



 カヤちゃんとモフモフ軍団は先に家に帰して、閉店作業と掃除と仕込みを手分けして行う。昨日、あれだけ仕込んだ材料がもうない。明日からの分を作らなければならない。


 俺はマロングラッセと栗きんとん作り担当。栗の皮むきって意外と面倒。一番手間がかかる。餅はコンラートさんとクラウディアさんがいるからお任せ。ドラゴンパワーで高速で餅をついていくのですぐに終わる。もし俺が手を出したら複雑骨折どころか粉砕骨折だろうから手を出さない。


 イルゼさんは、ミーちゃんが注視する中での餡子作り。手の空いている時にくるみ餡とみたらし餡作りもしている。ミーちゃんの餡子を作っている鍋を見る目力が強すぎて、イルゼさんはやりにくそうだ。


 なんとか仕込みを終え家に帰ると、宗方姉弟から一リルほどの瓶詰されたエタノールを渡される。頑張ったじゃないか。



「さすがに疲れました……」


「酔っぱらいそうだったよ~」


「み~」



 酔っぱらいそうって室内でやっていたのか? ちゃんと換気してやらないと駄目だぞ? 薬品を使う場合の常識だからな。


 しかし、一日で一リルか……。これを量産するのは、やはり蒸留器を大型化しないと無理だな。それに材料となるエールやワインの増産も考えないといけない。エタノールと蒸留酒にする分が必要になってくる。


 フォルテで造られている密造酒も合法化して、領主が買い占めることにしようか? グレンハルトさんやシェーラ商業ギルド長と話しをする必要があるな。


 取りあえず、このエタノールは薬学機関のパトリック所長に渡して検証してもらおう。


 俺や宗方姉弟は知識で殺菌効果があることは知っているけど、それをどう説明すればいいかわからない。こちらの世界にも顕微鏡はあるので、少しは研究しているだろうから菌というものに関する知識少しはあると思うけど、研究が進んでいるとはいいがたい。


 実際に使って実験して検証して、有効性を確認してもらうしかない。でも、この研究が進めば失われなくてすんでいたはずの命が多く救われることになる。そこから、科学や医学の発展に繋がればいいね。



「み~」



 次の日、朝食を食べた後、ゼルガドさんが長い筒を持ってきた。



「簡易だが造ってみたぜ」



 火縄銃だ。さすがゼルガドさん、仕事が早い。


 こちらの世界の火薬も用意したようなので、試し撃ちしてみてデータを取ることにした。


 ペロやルーさんたちも興味があるようで、ハンターギルドに行かず火縄銃の試射についてくるそうだ。


 西門から外に出て風の影響を受けにくい防壁沿いで、試射を行う準備をする。火縄銃の固定台を置き、的になる大きな板を五十メル先に設置する。


 ゼルガドさんの造ったものは、前装式の火縄銃。マッチロック式の火縄じゃなくてフリントロック式の火打石でもよかったんだけど、実験用だから簡単な火縄にした。もちろんライフリングも刻んでいない。丸い弾を使うただの滑空砲だ。だからそこまで頑丈な金属は使っていない。


 そして、この世界の火薬はエナジーコアの大きさを加工した時に出る、削った粉末をほかの発火剤と混ぜたもの。少しだけ石の上に置いて火を点けてみたけど、ねずみ花火程度の火力に見えた。


 その火薬を先端から、実験用の中で一番少ない量のものを入れ弾を棒で詰める。それを台に固定して火薬皿に火薬を載せ、棒の先に付けた火縄に火を点ける。


 ゼルガドさんが耳栓をして、こちらに準備はいいかと目で問いかけてくるので頷く。


 ゼルガドさんが火薬皿に火縄を近づければ、火薬に引火してドーンっと爆音とともに銃口から火を噴き、すぐに的の板を弾が貫く音が聞こえた。



「す、すげぇな……」


「音は凄いけど、ネロの銃と同じくらいかにゃ?」


「それでも、成功ですね。カオリン博士」


「喜ばしい成功ではないのだよ……トシくん」


「みぃ……」



 そうだね、カオリン博士の言うとおりだ。でも、実験は成功。火力がないというこちらの火薬でも、少ない火薬量で俺の使う銃と同等の威力が出ている。


 筒の中を掃除して、さっきより多い量の火薬で次弾を装填。準備ができてゼルガドさんが点火。先ほどより大きな音と大きな火を噴く。



「今度はネロの銃より凄いにゃ……」


「にゃ……」


「こいつは予想以上だぜ。間違いなくネロの銃より威力がありやがる。大抵のモンスターには十分にダメージを与えられるな。次弾の装填が面倒なのが難点だが、やりようはある。本当に戦い方が変わりそうだぜ……」


 黒色火薬を作れるかはわからないけど、おそらくこれと同等のものをロタリンギアは造ってくるだろう。なので同じものを造ってもしょうがない。向こうより高性能で圧倒するものを造らないといけない。黒色火薬はその一つだ。


 その後もいろいろと条件を変えたり、衝撃実験もしたりと試射を続けてデータを取る。



「これがあれば僕でもモンスターを倒せますね!」



 ヤンくんの無邪気な反応が心に刺さる。それって、子どもが戦争に駆り出されるってことなんだよね……。



「みぃ……」


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