443神猫 ミーちゃん、倍返しだぁ!
「しかし、あれだけ露骨に敵意をむき出しにする者たちがいるとは予想以上に釣れたものだ……悪の根は深いな」
「みぃ……」
今までの代官のように甘い汁が吸えると思っていたのだろう。この地方の商人だけじゃない、ほかの地に本店を持つ商人もあの会場を出て行った中にいる。
「それだけ、ここの地は旨味が多いのでしょう。ひとつずつ潰していくしかありません。その最大がお酒です。確実に我々で全てを押えなければなりません」
「強権を発動するべきかな?」
「そうですね。酒は全て領主が買い取る。代わりに税を軽減しましょう。領主に出さず個人で飲む分は無課税ですが、ほかに売った場合は重課税を課しましょう」
「強気だな」
「み~」
「フォルテの主な産出品は穀物類と酒類です。どちらもいい加減な納税具合なのですが、特にお酒は脱税が多すぎます。そこに群がる闇ギルドを駆逐するためにも、早急に押える必要があるでしょう」
「多くの反発が起きるぞ」
「み~?」
そうだね。おそらく、いや確実に起きるだろうね。大店などはフォルテ地方に荷止めを行うなどして、嫌がらせをしてくることも考えられる。
「覚悟の上です。従う生産者には負担を強いません。反発するのは、今まで甘い汁を吸っていた連中でしょうから」
「この地から商人が手を引く可能性もあるが?」
「そうなれば逆に願ったり叶ったりですね。それこそ神猫商会の出番です」
「み~」
北からの荷は入りづらくなるけど、うちはブロッケン山の街道を押えているんだ。北に行くより南のヒルデンブルグと商いを強めればいいだけのこと。
そして、ブロッケン男爵に喧嘩を売る商会には、ブロッケン山の街道を使わせない。また、商業ギルドが泣きついてきそうだけど知らない。売られた喧嘩は買う。そして倍返しだ!
「み~!」
「子猫くんがなにやら興奮しているようだが? ネロくんも悪い顔をしているぞ」
悪い顔? そうさせているのは奴らが悪い。必ずや、倍返し以上で意趣返ししてやるんだからな!
エールはフォルテ以外でも造られている。でも、ルミエール国内では最大の産地だ。蒸留酒に限れば、ドワーフの国が造っている以外ではフォルテだけ。ドワーフの国で造る蒸留酒は地産地消でほとんど国外に出回らない。
酒は人にとってなくてはならないものではない。なくても生きていける。元の世界で彼の大国がアルコールは神からの贈り物であるが、乱用は悪魔の仕業として禁酒法を発布したがものの見事に失敗している。
そう無理なのだ。人からお酒を取り上げることなどできるはずがない。そんなことをしようとすれば暴動が起きる。
だけど、俺は取り上げることはできずとも、実質コントロールすることができる下地を持っている。
フォルテのお酒を全て押さえればこの国のお酒をコントロールし、俺は酒王になれる! ならないけどね。
「集めたお酒はブロッケン山に保管しましょう。この町に置いておくより安全です。保管場所にも考えがあります」
「白狼族かね?」
「そうですね。 保管場所の護衛は白狼族に任せれば間違いないでしょう」
「み~」
ほかにも妖精族の村で蒸留酒造りが始まれば、いろいろ手間が省ける。ブロッケン山には多くの洞窟や鍾乳洞があるらしい。保管場所にはもってこいだ。
今日のプレゼンの議事録を後日ニクセに送ってくれるように、グレンハルトさに頼んでおく。ゲレンハルトさんの足元にいる白狼を使者に付ければ、ブロッケン山を安全に抜けられる。なんでもかんでも自分でやっていたら体がもたない。
それにしても、今回の議事録をリンガードさんが見たらなんて思うだろうか? 憐れむ? 呆れる? 今度会ったら聞いてみよう。
「死んでる、死んでいることすら忘れる地獄……」
「鬼畜ババァ……この恨み晴らさでおくべきか!」
死んだ魚のような目をした宗方姉弟が、ゾンビのようにヨタヨタと戻ってきた。
やだ、怖い……。
「みぃ……」
それに引き換え、ローザリンデさんは艶々なんだが……宗方姉弟の生気を奪ってないよね?
「み~?」
「いいわ~さすが勇者になる素質があるだけのことはあるわぁ。鍛えれば鍛えるほど強くなるもの」
強くなるのはいいけど、闇落ちしてないよね? 若干、不安だ。その宗方姉弟はにへら~と白狼とコルネをモフモフして癒しを享受している。大丈夫そうだね……。
「あのクロスボウもいいわ~。二射目を撃つのに時間は掛かるけど、それを補っても余るほどの命中精度と威力よねぇ。ボルトっていう矢が足りないから作らせているけど、矢はいいのよね?」
「ボルトは構いませんよ。クロスボウ自体はまだ駄目です。修理部品程度なら作らせてもいいですが、本体は絶対に見せないでください。部品を作る時はバラして持って行ってください」
「了解~。クロスボウのおかげで早めに兵が仕上がるわ~。おかげで警備隊と守備隊の訓練も始めているのよぉ」
残していく兵も鍛えておけば、有事の際に安心できる。なんといってもフォルテは闇ギルドという爆弾を抱えているからね。でも、くれぐれも適度にお願いしますね。
「み~」
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