442神猫、ミーちゃん、魚を捌けませんよ?

「さて、残っていただいた方々は、賛同していただけたと思ってよろしいでしょうか?」


 あたふたしているシェーラギルド長をよそに、会議室に残っている方たちは頷いている。オドオドしている人、ふてぶてしい表情をしている人、ニヒルな笑みを浮かべている人いろいろだ。



「ブ、ブロッケン男爵様!? な、なにをやっているんですか! せっかくの出資者になっていただけるはずだったのに……」


「えっ? この場で振り分けをするものとばかり思っていましたが違うんですか? 今出て行った奴らはもう我々の敵ですよ?」



 わざと知らぬふりをして、シェーラギルド長をこちらに引き込むための一芝居だ。ここで話に乗れないシェーラギルド長ならそれだけの人物だったということだ。クイントのハルクと同じで、ご退場していただくことになるだろう。



「……恐ろしい方ですね。ハンターギルドの統括主任といい、クイントのハルクギルド長を追い出したことといい。邪魔する者は排除ですか……」


「言わせてもらいますが、どちらも自業自得。愚か者だっただけですよ。シェーラギルド長、あなたは愚か者でないことを願いますよ」


「み~」


「……」



 先ほどまでいろいろな表情を見せていた人たちの顔色が青ざめている。自分たちの立場を理解したようだ。シェーラギルド長も顔を青くして震えている。


 べつに凄んで言ったわけじゃない。すでに、ここにいる者は一蓮托生なのだ。それを理解してもらいたいだけ。


 出て行った奴らは自分から俺の敵に回った奴らだ。セルティオさんにしてもハルクギルド長も同じだ。自分から俺の敵に回り、己が自ら招いた自滅。


 俺やミーちゃんが相手を陥れたわけじゃない。いや、セルティオさんに関しては陥れたかな? でも権力だって向こうのほうが上だった。実際、俺はハンターギルドをクビになっているしね。



「み~」


「ネロくん、その辺にしておきたまえ。話が終わらなくなるぞ。それにこれ以上、敵を作る必要もあるまい。十分に釣れた。後はのみだよ。クックックッ」


「みぃ……」



 あっ、ミーちゃんも気づいた? 気づいちゃた? グレンハルトさん、上手いこと言ったって顔しているよね。


 釣った魚を捌くと悪を裁くとを掛けてんだよ。まさかグレンハルトさんからおやじギャグが出るなんてねぇ。



 ここに残っている人の半分はグレンハルトさんのおやじギャグに気付いて、顔を引きつらせている。残り半分とシェーラギルド長は気づいておらず、青から真っ白なって固まっている。


 滅多に冗談を言わない人がギャグなんて言うと、逆に凄味が出る典型的パターンだ。そのことに、グレンハルトさん自身気づいていない。今だに自分のギャグにニヤニヤしているから、更に見る人から見れば凄んで見えるだろうね。


 さあ、時間は有限、プレゼンを始めよう。事前に用意していた資料を渡し、説明を始める。商隊を出す意味、経済が回るメリット、デメリット。共同出資によるメリット、デメリット。この共同出資式の商隊をニクセでも始めること。


 そして大事なブロッケン山の街道が安全に使えること。帰って行ったバカ者どもには使わせる気はない。今後も東周りで行けばいいさ。


 そこまで話してから、領主として三年間、軽減税率と出資元本と年利五パーセントを保証し、三年後からは軽減税率のみにすること話す。


 ここからは質問タイム。



「ブロッケン山の街道が使えるというのはどういう意味か?」


「言葉どおりの意味です。私はブロッケン山の白狼族や妖精族と懇意の仲。彼らに街道整備、安全確保をお願いしています」


「それを信用しろと?」


「信用するしないはあなた次第。この地方を収める領主である私が言っているのです。これ以上の信用がありますか? それから、ブロッケン山の白狼族や妖精族ともめごとを起こせば、すべてが白紙になるので注意してください」


「み~」



 あまり信用してない顔だ。周りの商人も同じような表情。やはり。この件は王宮から情報を流してもらわないと駄目のようだ。



「出資元本と年利五パーセントを保証するという期間が、三年という根拠を教えていただきたい」


「最初からすべてが上手くいくとは思っていません。ノウハウを確立するのに三年はかかると見ています。この事業は流通の発展だけでなく、領民への行政の役務も兼ねています。そのシステムの構築に力を貸してくださるみなさんに、領主として手を貸すのは当然だと考えます」


「み~」



 このような突っ込んだ質問が多く出て、質問タイムはいろんな意見で盛り上がった。そして、そこから見えてくるまだ詰めなくてはならないことの多さ。この辺は商業ギルドに丸投げしよう。


 シェーラギルド長も途中から復活してギルドの人たちと、議事録やメモを取っていたようだからね。すべてうちでやるのは本末転倒。多くの人を巻き込むのが目的だ。


 残ってくれた出資希望者の方たちと握手を交わし、その後汗ダラダラのシェーラギルド長と少し打ち合わせをして役所に戻った。



「み~」

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