433神猫 ミーちゃん、知らない間に神猫商会が担保にされる。

「正直、信じられん。本当にそれほどのものか……」



 見本を見せてもいいが、ここじゃまずいよね。王妃様に相談する。兵の練兵場なら問題ないだろうということになり移動する。


 さすがに、王妃様は来ない。前にライフルで拡声器を壊したのを見てるからね。代わりに興味を持ったニーアさんが見ることになった。パトリック所長とヒルデさん、そしてトシを連れて行く。


 ミーちゃんたちはお留守番ね。



「み~」



 ニーアさんの案内で練兵場に着き、みなさんに俺の銃を見せる。



「今回、開発する兵器は、この俺の銃の原理と同じになります」



 簡単に原理を説明。薬学機関の責任者だけあってすぐに原理を理解した。



「この武器は大気スキルを使って弾を打ち出しますが、開発する武器はスキルを必要とはしません。誰でも使えます。それも、これからお見せする威力の数倍、いや数十倍の威力になるでしょう」



 トシに木皿を持たせて数メートル前に行かせる。レーザーポインターのスイッチを入れ、構える。


 顎で上に投げろと合図。トシが斜め方向に木皿を投げれば、俺の銃のレーザーポインターが木皿を追う。


 バッキン! の音とともに木皿が粉々になる。



「「「……」」」



 この程度のおもちゃでも、狙いさえしっかりしていればゴブリンなら一発で倒せる。これから開発される火薬式の銃を使えば、想像するのも恐ろしい破壊力になるだろう。


 相手が敵対するゴブリンキング相手なら頼もしいの一言だが、同じ人族どうしで銃を打ち合うのは悲惨としかいいようがない。


 ゴブリンはいいのに人族は駄目? それは偽善だという人がいるかもしれないが、俺はそこまで聖人でも善人でもない。


 これからその武器の開発に手を貸す俺としては、そう考えないとやってられないだけだ。



「戦争が変わり、必要とされる医療も変わるということか……」



 そういうことです。ご理解いただけたでしょうか?



「だが、私は断じて認めん! 戦争が医学を発展させる? ふざけるな! 我々は人々を助けるために医学を学び、研究しているのだ! 戦争のためにしているわけではない……断じてない!」



 理屈ではわかっていても、認められない気持ちはわかる。正直、俺も同じ気持ちだ。しかし、これも現実。科学が発展した一つの要因は戦争にある。戦争のための兵器開発が科学の発展を促したという事実は否めない。


 別に、それを良しとは思っていない。しかし、科学の時が進み始めた以上、それを利用しないわけにはいかないのだ。


 多くの命を奪う以上、多くの命も救わなければならない。それが政治であり医学でもある。


 向こうの世界を見てわかるように、兵器が発展すればするほど一般の人々が巻き込まれ死傷者が増える。救える命は救いたい。いや、敵味方問わず、救わなければならないのだ。



「今までの医術では駄目なのですか?」



 ヒルデさんがそう問いかけてくる。


 こちらの世界の医術は基本ポーション頼りだ。あとは回復スキルで外科手術などはほとんど発展していない。輸血なんて考えすらない。


 だけど銃が開発されれば、主流は外科手術になっていくだろう。ポーションは補助的なものになると思う。そうなれば輸血も必要になってくる。


 こうなった以上、そこら辺の知識も公表するしかない。もちろん、宗方姉弟の勇者知識としてだ。それが一番すんなり受け入れられるだろう。



「今までの採取に頼るポーション作りではいつか破錠してしまうでしょう。採取に頼らない栽培できるようになったら話は違いますが、今後は外科的治療が主流になってくるでしょうね」


「外科的治療とは?」



 この世界だって手術は無理でも、外科的治療はないわけではない。ポーションを買えない人は街中の治療院で傷口を縫ったりしたり、骨を添え木で固定して自然治癒するのを待つ場合もある。


 その話を聞かせる。



「しかし、それは民間療法でちゃんとした医学ではありません」


「それで、助かっている人が大勢いるんですよ? なぜ、それを否定して研究しようとしないのですか? 素材さえなんとかなれば、確かにポーションは万能です。ですが、全ての人がポーションを買えるわけではありません。ちょっとした傷で、ポーションを使える人はお金持ちです。ほとんどの人は簡単なお金のかからない治療で、自然治癒で治るのを待ちます。正しい治療法ならいいでしょう。ですが間違った治療法なら逆に悪化します」


「そのために研究しろと?」


「いろいろな病状、怪我などに、ちゃんとした治療法が確立されればポーションの消費が抑えられます。そうすれば本当にポーションを必要としている人に使えると思いませんか?」


「ですが、それにはどれほどの時間とお金が掛かるか……」


「ですが、前に一歩踏み出さなければ、何も始まらないと思いませんか?」


「いいだろう。そこまで言うなら研究は我々がする。だが、ここまで我々を煽った以上お前も責任を持て。国にその費用を出させる交渉はお前がしろ。いいな、ネロ!」


 くっ……パトリック所長、痛いところ突いてくる。だが、俺もここは引けない。兵器を開発する以上、俺も重荷を背負わなければならない。



「いいでしょう。私財を投げ売ってでも、研究費用は出してやりますよ!」



 神猫商会の名にかけてね!



「その言葉、忘れるなよ」



 まあ、王妃様を説得するつもりだけど。



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