424神猫 ミーちゃん、矛を収める。

 商業ギルドの秘書さんほか二名が入って来て、頭を下げてくる。



「この度は、ブロッケン男爵様、並びにセリオンギルド長にまでご迷惑をおかけし申しわけございませんでした」


「話は聞いている。しかし、貴族嫌いとはいえ、ハルクギルド長はいきすぎではないのかね」


「セリオンギルド長の仰るとおりでございます。前回のオークの件でギルド長と副ギルド長たちは相当、ブロッケン男爵様をお恨みしているようで、オークという言葉を聞くたびにブロッケン男爵様を罵るようなことを言う始末。正直、我々としても手が付けられない状況でした」


「み~?」



 だから、なんなの? セリオンギルド長が俺を見るので、肩をすくめてみせる。



「それで、ここまで押し掛けたんだ、何かしらの妥協案を持って来たんだろう?」


「はい。さすがに今回の件はハルクギルド長の横暴が過ぎます。個人的な見解でクイント商業ギルドに不利益を生じさせただけでなく、クイント、クアルトに住む者の必需品である塩を運んでくださったブロッケン男爵様への横暴な態度は許し難し。ギルド員の多数の賛成を受け、ギルド長と副ギルド長を更迭しました。この後、本部へ引き渡しを行います。ブロッケン男爵様のご要望があれば、その旨もお伝えする所存です」


「ほう。そこまでしたたか。どうする? ブロッケン男爵」


「み~?」



 どうすると言われてもね。ギルドは完全独立組織、例え国が何か言ってきたとしても要請は受けるけど、強制は受け付けない。国と対等なのだ。いや、この世界の国々に必ずある分国などより大きな組織だろう。そんな組織のギルド長ともいえば、伯爵クラスの権威を持つ。そのギルド長を俺がどうこうすることなどできるわけがない。


 だが、こちらも善意でやっているのだ、それを汲んでくれたというなら反対する理由はない。



「わかりました。矛を収めましょう」


「み~」


「ありがとうございます!」


「いやはや、ブロッケン男爵はハンターギルドの統括主任だけでなく、商業ギルドのギルド長まで追い出すとは、怖い怖い。私も注意せねばならんな。なあ、エバくん」


「さようですわね」


「みゅ~」



 おいおい、セリオンギルド長にエバさん、それは酷くないですか? セルティオさんのことはともかく、今回の件は濡れ衣ですよ! それからパルちゃん、そこで相槌を打たない!



「人という者は結果しか見ないものですわ。過程がどうあれ、この話を聞いた人はネロくんが追い出したと考えますわ。人によってはネロくんを恨む者も出ましょう。これを教訓にして、自分が他者に与える影響力を考えるべきです。ネロくん」


「そうだな。貴族になったことだけではなく、ほかで有名になっているネロくんを好ましく思わない奴らも大勢いるだろう。そいつらを気にくわないと、すべてに喧嘩を売る気か? 周りが敵だらけになるぞ」


 くっ……わかっているつもりではいる。言い方は違うが彩音さんに言われたことにも通じることだ。


 忙しくても、意外と順風満帆に生活できていることで、忘れがちになっていることは否めない。少々、天狗になっていたのかも。



「みぃ……」


「留意します……」



 再度、今の自分の境遇を理解したうえで、気持ちを心構えを改めないといけないな。どうも、喉元過ぎれば熱さを忘れる日本人体質が抜けない……。



「とは言え、今回の件は完全にハルクギルド長の私怨だからな。こちらでも噂は流しておいてやる。エバくん、頼む」


「承知しました」


「恐縮です……」



 俺やミーちゃんだけでなく、商業ギルドの面々も恐縮しきっている。彼女らも正直被害者なんだけどね。上司に恵まれないとこうなるの典型的なパターンだ。


 いやいや、人のことを言っていられない。俺も上司の立場にいるんだ。今回のことを反面教師にしないとな。神猫商会は風通しがよく、社員が楽しく働ける環境づくりを目指します!



「み~!」



 ということで、取りあえず商業ギルドの倉庫に塩を置いて行く。千箱なので管理する人も大変そう。


 セリオンギルド長に挨拶して帰ろうとしたら、



「なんだ帰るのか。飯でも奢ってやろうと思っていたんだがな」


「喜んでお供します!」


「「おぉー!」」


「み~」



 宗方姉弟よ、ラッキーだったな。セリオンギルド長が飯を奢ってくれと言えば『グラン・フィル』だ!


 宗方姉弟もすぐにピンときたようで、両手を上げて喜びを表している。


 夕方まで時間を潰さないとな。



「ヘンリーさん、買取りお願いします」


「おっ、ネロくんじゃないか、なにを買い取ればいいんだい?」


「未解体のオークを二体、お願いします。一体分のお肉はこちらで引き取りたいです」


「オークか、狩るのが厳しいようだね。なかなか、買取りに出てこないんだよ」


「オークのいる場所まで行くのは簡単なんですけど、最初のオークリーダーを倒さないと、ほかのオークにたどり着けないですからね」


「それをやってのけるネロくんは成長したね……」


「み~」



 俺の成長云々はいいとして、今現在クイントにいるハンターさんたちの腕では、オークリーダーを倒すのは至難の業だ。だが倒せないわけではない。人数を集めて波状攻撃で攻め、数の暴力で倒せばいい。その後はオークだけだから、人数が多くても採算は取れるはずなのに。なぜやらないのだろうか? プライドなんだろうか?


 俺ならお金儲けのためならプライドなんて捨てるぞ!



「みぃ……」



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