406神猫 ミーちゃん、ペロとネロを憐れむ。
ペロやーい。どこ行った~?
「み~?」
軒先で寝ていたペロがいない。馬は横木に繋がったままなのでこの塩村からは出ていないと思う。まあ、ペロが勝手に俺たちを置いて行くわけがないけどね。
となると、考えられることはただ一つ。
「み~」
そう、買い食いだ! ミーちゃんもペロの行動パターンをよく理解していらっしゃる。探すは屋台。それも、一度行った屋台ではなく、別の屋台だ。
馬を引きながら屋台を探すといました、ペロが。ハンターらしき背の高い女性となにやら楽し気におしゃべりしながら、串焼きを食べている。
「……塩だにゃ」
「そうだな。これは塩の違いだ。他の屋台とここの塩は別物だね」
「他の店も美味しいけどにゃ、ここの串焼きは別格にゃ」
食べ物談義のようだ……まあ、ペロだからね。
しかし、健啖家とはいえ食通のペロを唸らせるその串焼き、食べてみたい。
「串焼き三本ください」
「あいよ」
「姫とネロにゃ」
お肉の油が炭火に滴り、なんとも言えない
焼きあがったお肉にパッパッと塩を振りかけ、
「あいよ、お待ち!」
受け取った串の一本をペロに、もう一本を女性のハンターに渡す。
「見知らぬ方から恵んでもらうほど、落ちぶれていない」
「俺たちの連れのペロと付き合ってくれた、お礼と思ってください」
「姉ちゃん、気にしなくていいにゃ。ネロはいい奴にゃ。このペロの親友だから保証するにゃ!」
「猫くんがそう言うなら……ありがたく頂こう」
「だ・か・ら、猫じゃにゃいにゃー!」
はいはい、定番の心からの叫びだね。気持ちはわかるよ。俺も、十八才越えてるんだー! って叫びたい時があるからね。
「みぃ……」
同病相憐れむって……ミーちゃん、酷い! 切実な思いなのに……。
それにしても、この串焼きは美味しい。肉の下ごしらえもさるものながら、この素材の味も芳醇な匂いも壊さず、旨味を引き出している。そして普通の塩と違い、尖ったところがなく、まろやかな味わいは凄いの一言。
ミーちゃん、食べてみる? だけど、首を横にフリフリ。やっぱり、脂っこいものは駄目のようだ。お魚だったら脂が乗っていても、喜んでたべるのにね。
「旨いにゃ~」
「本当だね。ちゃんと筋切りしてお肉をやわらかくしてるし。お肉の味を壊さない何かに漬けているようだね。何よりこの塩。これは藻塩かな?」
「に、兄ちゃん! それ以上は勘弁だ! 誰が聞いているとも限らねぇ。うちの秘伝がバラさされるのは困るぜ!」
「さすがネロにゃ! これでいつでも美味しいお肉がたべれるにゃ!」
「み~?」
美味しくないお肉を食べさせているつもりはないんだけど……。
「ものの例えにゃ。他意はにゃいにゃよ?」
まあ、そういうことにしておきましょうか。
「アディー! 探したよ!」
「ケーラ、ここの串焼きは旨いぞ」
「げっ、男爵様……」
「み~」
おいおい、そのげっってのはなんだ。こっちが本性なのか?
「先ほどは、大変ありがとうございました。お金は必ずお返しにあがります。それから私の連れのアディーが何か失礼をいたしませんでしたでしょうか。なにぶん、がさつな平民出、お目こぼしいただければ幸いでございます」
「み、み~」
「何もないよ。一緒に串焼きを食べていただけだからね。おやじさん、もう一本お願い」
「もう、三本にゃ!」
「あいよ」
三本って、まだ食べる気のようだ。さすが、腹ペコ魔人。
串焼きが焼けるのを待ちながら、ケーラたちと雑談。アディーと呼ばれた女性はアデルさん。ケーラの幼なじみでハンター。二人はこの後、ヴィルヘルムに戻って、残った資金で仕入れをしてからフォルテに戻るそうだ。
焼きあがった串をケーラに渡し、残りの二本をペロに渡すと、一本をアディーに渡した。ペロはあれで意外と気が利く。
串焼きを食べながらケーラから、フォルテに持って帰る仕入れの品は何がいいか相談を受ける。
真珠や珊瑚などのアクセサリーは間違いなく高く売れる。だけど、目利きか鑑定がないとリスクが高い。異国の品や絨毯に布なども高く売れるが、フォルテより王都での需要だろう。香辛料や砂糖もいいかもしれないけど、伝手がないと仕入れが厳しいだろう。
そうなると、収納スキル持ちを活かして魚か? 鮮魚は無理でも干物だな。日持ちするし嵩張らない。値段もヴィルヘルムの朝市で買えば、格安だ。
「朝市ですか……」
「朝市だと何か問題でも?」
実は早起きが苦手とか?
「み~」
いや、ミーちゃん、俺のことはどうでもいいから。
「できれば、今日中にフォルテに向かいたいと……」
「ヴィルヘルムは宿代が高いからな、朝市だと一泊しないと駄目だ」
「ネロ。うちの支店に泊められにゃいかにゃ?」
うーん。人数的には問題ないけど、ケーラたちだけを特別扱いするのもどうだろうか? 支店の後ろの商隊用の宿舎はまだ出来てないしねぇ。
どうする? 会頭のミーちゃん。
「み~?」
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