405神猫 ミーちゃん、塩買いました。

 いやー、有意義な時間だったね。豆腐とラーメンが楽しみだ。



「み~」



 熱い建物の中から出たせいで、やけに外が涼しく感じる。案内してくれた人にお礼をいって、塩を買いに戻ろうとすると、工場の後ろ側に屋根のかかった場所があり、茶色い物体が山積みにされている。なんだろうね?



「み~?」



 その茶色い物体をバケツで運んでる人に尋ねてみる。



「こいつか? こいつは塩を作る時に釜の底に溜まって固まる厄介ものだ。俺たちとってはゴミなんだが、溜まるとドワーフが取りに来るんだ」



 塩を作る過程で底に溜まる? 石灰? いや違うな。思い出すんだネロ。薬学部志望だったそのポンコツな頭の中から情報を引き出すのだ! 意外と量が多いな。えーと、海水に含まれるもので煮詰めると結晶化するものと言えば……硫酸カルシウム。石膏か! 茶色いからわからなかった。


 ドワーフが使うということは鋳型か? 


 硫酸カルシウムは肥料の元にもなる。似たような石灰の主成分の炭酸カルシュムは酸性の土壌をそのアルカリ性で中性に近づけカルシュウムを補う効果がある。だけどアルカリ性になりすぎると野菜が育ちにくくなる。


 硫酸カルシウムは弱酸性なので既に中性に近い土壌の水素イオン指数、ph(ペーハー)を上げずにカルシュムを補えることができる優れもの。リトマス試験紙で実験とか理科の授業でやったと思う。坊さん酒飲んで赤くなるってやつだ。


 この世界ではまだ知られていない知識だと思う。商売のネタになるかな? とも思ったけど、酸性、中性、アルカリ性を調べる術がない。リトマス試験紙やpH試験紙なんて作り方なんて見当もつかない。


 俺の鑑定スキルならわかるかもしれない。今まで疑問に思っていたことが最近はっきりしたのだ。それは、個人の知識量によって鑑定結果が変わるということだ。知識量が多い人はその知識量にあった鑑定結果に、知識量の少ない人は最低限の鑑定結果になる。


 でも、それだと結局、俺しかわからないことになる。それじゃあ意味がない。解決策が思いつくまで保留だ。


 それから大事なことを思い出した。硫酸カルシウムの1/2水和物である石膏は豆腐の凝固剤にも使われている。絹ごし豆腐がそれにあたる。


 欲しい。欲しいけど、このままじゃ使えない。塩や不純物が含まれていてこのままでは使えない。待てよ? ドワーフが石膏を使っているなら、使えるように精製してるはず、それを手に入れればいいじゃないか?


 パンがなければお菓子を食べればいいじゃない作戦だ!



「みぃ……」



 ん? 違う?


 じゃあ、道はわれわれが見つけるか、でなければわれわれが作るのだ作戦にしようか?



「み、みぃ……」



 これも、駄目? まあ、いいや。ゼルガドさんに聞けば早いね。知らないことは人に聞け作戦だ!



「み~?」



 誰の名言かって? もちろん、他力本願は大事! を旨とするネロの名言だよ!



「み、みぃ……」



 塩を買いに事務所に戻って来た。ペロが軒先で大の字でグースカ寝ている。よくこんな所で寝ていられるものだ。呆れるを通り越して、関心してしまう。


 ミーちゃんが顔をテシテシ叩いても起きない。もう少し時間がかかるからこのままでいいや。


 ペロをそのまま軒先に残して中に入ると、受付の方が上役さんを呼んでくれる。



「お探しのものは見つかりましたかな?」


「み~」


「はい。案内してくださた方のおかげです」


「それはようございました。それで、神猫商会様はいかほど塩をおもとめですかな?」


「み~?」



 全部、と言いたいところだけど、他に塩を買いに来る商人に悪いから八割くらいで我慢しよう。



「いくらでも売っていただけるということなので、お言葉に甘えて在庫の八割が欲しいですね」


「……はぁ?」


「ついでに、藻塩も売っていただけると嬉しいです」


「み~!」


「……冗談でございますよね?」


「いえ、マジで」


「み~」



 あれ? 上役さん、固まって動かないんですけど? 近くにいた受付の方に目線を移すと、目を逸らされた……。



「わ、わかりました。口に出した以上二言はありません。お売りいたしましょう! 荷馬車の手配はいかがなされます?」


「必要ありません」


「み~」



 おそらく、在庫確保とでも思っているのだろう。だけど、甘い。全てもって帰りますyp。それにしても、この上役さん漢だなぁ。俺が女なら惚れちまうやろー!


 それはさておき、事務員さん総出で在庫確認が始まる。俺とミーちゃんは、確認の終わったものからしまっていく。



「ほ、本当に持って帰られるんですね…」



 焦点があわない目で遠くを見ている上役さん。ごめんね?



「み~」



 さすがに藻塩をは八割は売ってもらえなかった。泣きつかれてごめんなさい許してくださいと言われれば、諦めるしかない。五割で手を打った。


 塩の箱は三千箱、藻塩は五十箱。支払い総額三千万レト弱、もちろん、いつもニコニコ現金払い。アルサイト硬貨を使ったので時間もかからず済んだ。


 そういえば、ペロはどうした?



「み~?」






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