404神猫 ミーちゃん、にがりゲットだぜ!

 二十七万レト。そんなもんか。ミーちゃんに言われて区切りよい五十万レトをケーラに融資してある。でも、二十七万程度と思ってしまったのは、金銭感覚がちょっとおかしくなってるのかもしれない。気をつけよう。


 さて、今度は俺たちの用事を済まそう。



「神猫商会様は塩を買われなくてよろしいのですか?」


「み~?」



 えっ!? 俺たちも買っていいの?



「塩は売るほどありますので。ハッハッハ!」


「み~!」


「ははは……」



 今のはジョークなのだろうか? 塩だけに塩辛いぜ……。



「じゃあ、お言葉に甘えて購入していきます。王都でも塩が足りなくなり、需要と供給が崩れる前になんとかしないと大変ですから。塩の値段が上がって困るのは庶民ですからね」


「ブロッケン男爵様は本当にお心の広いお方ですな。お望みなら、全ての倉庫の在庫をお持ちになってくださっても結構ですぞ。塩は売るほど作りますからな。ハッハッハ!」


「み~!」



 しょっぱさを通り越して苦くなってきた……。ミーちゃんは、このジョークを気に入ったようだ。ミーちゃんのどの琴線に触れたのだろう?


 苦味で再度思い出した。ここに来た理由。確かに塩も欲しくて来たけど、本命は苦汁にがりが欲しくて来たんだ。豆腐作りがしたくてね。


 大豆の使い道がほとんどなく、家畜のエサにしか使われないなんてもったいない。豆腐を作る過程で出来るおからも使い道がある。余分なおからこそ家畜のエサにすればいい。



「塩はまた後で買いに来るとして、苦汁にがりって知ってますか?」


苦汁にがり……ですかな? はて、聞いたことがありませんな」


「塩を作る時に煮つめて、残った液体なんですけど」


「私は職人ではないので、工場の職人を紹介しましょうか?」


「お願いします!」


「み~」



 上役さんが裏の事務をしていた人を呼び事情を説明して、俺たちを工場まで案内して職人を紹介するように手配してくれた。


 工場に着き職人さんを紹介してもらい、苦汁にがりについて聞いてみるがわからないと返ってきた。せっかくなのでと職人さんが、工場を案内してくれることになった。


 正直、俺も苦汁にがりについて詳しく知っているわけではない。知識として、海水から塩を作る過程で塩化ナトリウムが結晶化した後に残った液体が苦汁にがりということくらいだ。


 苦汁にがりは使ったことはあるけど、普通に市販されて売っていたから実際に作っているところを見たことはない。それに、市販されているものは苦汁にがりと言っても天然ものではなく、塩化マグネシウムを主成分とする食品添加物の工業製品で粉状で売られていたから、天然の苦汁にがりがどういうものかも想像がつかない。


 海岸沿いには塩田が広がっていて海水の水分を蒸発させ、濃い塩水にしているそうだ。その濃くなった塩水を、建物の中で大きな釜で加熱して塩を作っている。と簡単な説明があった。


 ミーちゃんは興味津々であちこちを見ている。



「塩の結晶を取った後の液体はどうしているんですか?」


「水で薄めて海に流しているぞ」


「その液体を欲しいのですが?」


「なんに使うか知らんが、飲める代物じゃねぇぞ」



 それは納得済み。とても苦いのは知っている。ミネラルウォーターの空になったペットボトル十本に苦汁にがりを詰めてもらう。


 苦汁にがりゲットだぜ。



「あっちのほうは違う塩なんですか?」


「み~?」



 工場の建物の端っこで小さい釜で同じように液体を加熱している。



「兄ちゃん、目敏いな。あれは藻塩作りの釜だ」



 藻塩!? マジですか? 藻塩も作ってるの? 藻塩は向こうでブームになっていたので、よく知っている。テレビ番組でも作り方をやっていたのを見ているので知っている。



「こっちで作る塩より旨味がある。作るのがちと面倒だがな。王宮や大きな料理店がこぞって買っていくくらいだ。普通の塩より高いが買って損はないぞ。せっかくここに来たんだからな土産に買って行くといい」



 藻塩を使えば料理が美味しくなるに違いない。だがしかし、土産どころの話じゃない。藻塩作りで使う塩水と言ったらかん水じゃないか。ちなみにかん水というのは、ラーメンの麺を作るのに欠かせない物だ。かん水を使わないで作る麺はうどんになる。まあ、重曹を加熱して作る炭酸カルシウムでもいいんだけどね。


 あぁ、ラーメン食べたくなった。鶏がらスープは問題ない。チャーシューも醤油があるから作れる。なるとは……かまぼこで代用するか。問題はしなちくだ。竹はあるようだけどしなちく出来る麻竹ってあるんだろうか? 作り方もよく知らない。しなちく無しのタンメンとか味噌ラーメンでもいいや。


 せっかくだから、これも天然のかん水をゲットして麺を作りたい。



「加熱する前の藻の灰を入れた後の上澄みもください!」


「兄ちゃん!? もしかして作り方を知ってるのか!」


「なんとなくですけど」


「マジかよ……秘伝の作り方なんだぜ」


「作り方を知っていても作りませんよ?」


「み~?」



 ミーちゃんも職人さんにちょうだ~いって、お願いしてくれている。



「はぁ……。頼むから他にばらさないでくれよ」



 こちらもペットボトル十本分頂いた。


 それにしても、暑いねぇ。工場の中は蒸し風呂状態。



「みぃ……」



 早く外に出てフローズンでも作って飲もう。


 ミーちゃんはアズキアイスかな?



「み~!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る