403神猫 ミーちゃん、融資を行う。

 なんとか普通に話せる状態になってもらうことができた。ふぅー。



「み~」



「それで、我々はどうすればよろしいでしょうか? ブロッケン男爵」


「まずは、あの行商人に塩を売ってあげてください」


「君。すぐに手配しなさい」


「はい!」



 行商人がおずおずと近寄って来る。目の前に来て被っていた帽子を取ると長い金髪が現れる。乱暴な口調だったけど、なんとなく声が高かったから女性じゃないかと思っていた。ビンゴだ。



「フォルテを中心に行商をしております、ケーラと申します……」


「神猫商会の副会頭のネロです。こっちが会頭のミーちゃんです」


「!?」



 ブロッケン男爵と名乗らなかったことに驚いたのか、それともミーちゃんが会頭ということに驚いたのかわからないが、年の頃は俺と同じくらいでそばかすのある愛嬌のある顔の目がまん丸になっている。



「み~」


「あ、あのう……ご、ご領主さ」


「は~い、それ以上言わない! ここへは神猫商会として来てます」


「み~」


「で、ですが……」



 ですがでも、でしたでもない。ヒルデンブルグに来てまでブロッケン男爵なんて面倒。



「聞いていたと思うけど、好きなだけ持って行くといい。どのくらい持てる?」


「わ、私は収納スキル持ちなので、荷馬車一台半くらいまでは収納できます」



 収納スキル持ちか。荷馬車一台半ならなかなかのものだね。



「お金は足りる?」


「全部は無理です……」


「み~!」



 はぁ……ミーちゃんの悪い癖が出ましたよ。で、なにを任せろと?



「み~」



 塩の代金を神猫商会で融通するって? で、自分のお金で利幅のいい品を買えばいいの~ですか……。まあ、ミーちゃんがいいと言うならいいんだけど、戻ってこない可能性もあるんだからね。



「み~」



 そうですか。神猫商会の会頭であるミーちゃんがそう言うなら仰せのままに。



「うちの会頭があなたに塩の代金を無利子で融資すると言ってます。収納場所を少し開け、手持ちの資金で利幅のいい物を買って帰れと言ってます。融資を受ける気はありますか?」


「で、でも、それではそちらになんの利がないじゃないですか……」


「構いません。ルミエールで塩が不足し始めている今、我々商人が塩を運ばないでどうしますか。我々、商人だけで商売しているわけじゃないんです。我々の商品を買ってくれる人々がいて、はじめて商売が成り立っているのです。その気持ちで塩を運ぼうとするあなたの心意気に、うちの会頭が称賛しての融資です。それで、受けますか?」


「ブロッケン男爵様は、なんとお心の広いお方だ!」



 上役さん、あなたは黙っていてください。あなたに聞いているんじゃないです。



「う、受けます!」


「み~」



 ケーラはそう言ってミーちゃんの頭をなでなでして、ほっぺにチューをした。ミーちゃんが神猫商会の会頭だとは、俺の冗談だと思っているようだけどね。



「ご用意ができました」



 さっきの受付の方が走って戻ってきた。上役さんも一緒に裏の大きな倉庫に向かう。煉瓦造りの立派な倉庫だ。中に入ってみるとひんやりとして風通しもいい。そしてなにより箱が山積みになっている。これ全部塩なの? この倉庫と同じ造りの倉庫が十棟並んでいたよね?



「お好きなだけお持ちください」



 さすがにケーラも顔を引きつらせている。


 一箱に三十キリ入っているそうだ。塩自体はキリ三百レトなので、一箱九千レトになる。



「さ、三十箱。いいでしょうか?」


「み~」



 九百キリ、荷馬車一台分くらいだろうか? 買値は二十七万レト。これに普通なら護衛などの人件費と食事代、更に儲け分が乗ったのが売値になる。ヴィルヘルムからベルーナまで、ブロッケン山経由で二十日前後。荷馬車ならもう少し早く着く。


 でも、今はブロッケン山を通らず、東の遠回りのルートを使っているのでそれ以上かかる。どうしても、塩の値段が上がってしまう。塩の値段が上がればみんな困る。王妃様はレーネ様の誕生日の日にブロッケン山の街道が使えることを公表すると言っていたが、正直それどころではないような気がする。


 早めに公表するように話してみよう。最悪、貴族への公表はそのときにするとして、商業ギルドにはすぐにでも公表するべきではないだろうか。


 係の方が箱を並べていきケーラが中身を確認して、最後に釘で蓋がされる。三十箱確認が終わり積み上げられれば、なかなかの壮観だ。


 それをケーラが収納スキルでしまえば、そこに今まで三十箱もあったとは誰も信じないだろう。収納スキルって本当に便利。普通の行商人と違い荷馬車や荷物を持たないから、盗賊も普通の旅人と思い狙われない。身軽だからモンスターに襲われても逃げれる確率が高くなる。とはいえ、一人で旅するのは危険だから護衛は雇う。ケーラはどうなんだろう? ちゃんと護衛がいるのかな?



「ケーラの護衛は?」


「この村の中をぶらぶらしてると思います」


「信頼できる人なんだよね?」


「ハンターをしている幼なじみですから問題ないです」


「み~」



 ミーちゃんも、じゃあ安心~って感じだね。


 また、受付に戻り清算。一応、ケーラの商業ギルド証を確認し借用書と写しを作りお互いに署名して写しを渡す。お金ができたらフォルテの役所に返してねと言っておく。


 フォルテに東周りの街道を通って、途中の村々に寄り塩を売りながら帰るそうだ。なので、ニクセから東の街道に出ると途中に建設途中の村があるので、俺の名前を出せば一晩の宿を得られるとも言っておいた。



「あ、ありがとうございました。必ず返しに行きますから!」


「道中、気をつけてね」


「み~」


「会頭ちゃんも副会頭様も、お気をつけて!」



 ミーちゃんの頭をなでなでしてから去って行った。行商人にとって一番危険なのは道中だからね。命あっての物種だからね。



「み~」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る