402神猫 ミーちゃん、睨まれる。

 串焼きを頬張るペロを玄関横に残して役所の中に入る。



「だからこれじゃあ足りないんだって!」


「先程から何度も申し上げておりますが、許可証のない行商人の方に一度にお売りできる量は決まっております。先程、お売りした分で規定量に達しておりますのでこれ以上はお売りできません」


「それじゃあ、あんたはフォルテの村々に住む人々に死ねって言うのか!」


「み~?」



 おやおや、聞き捨てならない言葉が出てきたね。うちの領民が死ぬなんてどういう了見だ。



「今、西の街道もブロッケン山の街道も通れない。残るは東の街道だけ。東の街道は途中に村も少なくルミエール王国からヒルデンブルグ大公国まで一番距離のある街道だ。距離が長けりゃ商隊での移動となると維持費がかさむ。そうなると、生活必需品より儲けの大きい物で利益を出さないと大店だってやっていけない。その結果、困るのは生活必需品が買えなくなる、普通に暮らしている庶民だ」


「み~!」



 おぉ~! ってミーちゃんを納得させる説明。なかなかやるな。



「だから、俺みたいな身の軽い行商人が塩を運ぶって言ってるんだよ。わかる?」


「ですが、決まりは決まり。あなただけを贔屓できません。どうしてもと言うなら、塩売買の申請をしてください」


「申請して、どのくらいで許可がおりるんだ?」


「そうですね。早ければ半年ほどでしょうか」


「半年も待ってられるか!」


「みぃ……」



 許可証をもらうのに半年かかるのかぁ。一回目の商隊派遣に間に合わないかもね。でも、申請しないと許可証をもらえないから申請はしていこう。


 って、ミーちゃん、そのすがるような目はなんですか? 俺にどうにかしろと?



「み~」



 そりゃあ、一応領主ですけどね。ヒルデンブルグの政治に首を突っ込むのどうかと思うんですけど?



「み~!」



 ニクセの領主でもあるって? まあ、そうだね。確かにニクセは俺の領地でもあり、ヒルデンブルグの一部でもあるけど……あまり、そういう権力は使いたくないなぁ。でも、ミーちゃんのお願いだから、別の線から話をしてみようか。


 言い争っている受付とは別の受付に向かう。



「すみません。申請に来たのですけどいいですか?」


「ええ、こちらで構いませんよ。商業ギルド証などはお持ちですか?」



 商業ギルド証を渡しながら話を振ってみる。



「はい、どうぞ。そういえば、そんなにルミエールへの塩の流通が滞っているのですか?」


「そうですねぇ。西の街道が封鎖されたせいで以前の半分程度まで落ちていますね。ブロッケン山が通れた時に比べれば三分の一くらいまで落ちているのではないでしょうか」



 そ、そんなになの!? それって相当ヤバい状態なんじゃないだろうか?



「か、神猫商会様!?」



 受付の男性がギルド証を確認して驚きの声をあげる。商業ギルドならいざ知らず、国のお役所で驚かれるなんてなにか悪いことしたっけ?



「み~?」


「しょ、少々お待ちを! 上役を呼んで参ります!」



 いやいや、偉い人は必要ないですよ? ただ、申請に来ただけですよ? ちょっとお話もしようかなと思っただけですよ? なにも悪いことしてませんよ!



「ようこそおいでくださいました。神猫商会様。さあ、こちらへ」


「いやいや、ただ申請に来ただけですよ?」


「み~」


「なにを仰います! 大公様より神猫商会様が現れたら最大の便宜を図るよう申し付けれております! 申請など神猫商会様に必要ありません! お好きなだけ塩をお持ちください!」



 おいおい、さっきの行商人が睨んでいるんですけど……。



「それなら、彼に塩を売ってあげてくれませんか? フォルテは私の領地。領民が困っているならなんとかしたい」


「み~!」


「おい、君。どいうことか説明しなさい」



 行商人と話していた受付の方を呼びつけ話を聞く上役さん。話を聞いているうちに顔が青ざめていくのがわかる。どうした?


「み~?」


「も、申しわけありません!」



 フライング土下座バリの勢いで上役さんが土下座して頭を床にこ擦りつけている。それを見た受付の方もこれはヤバいと上役さんと一緒に土下座。行商人の方はわけがわからなく呆然としている。


 いや、俺もわけがわからないんですけど?



「た、立ってください。なんで、土下座なんですか」


「フォルテ地方はブロッケン男爵様のご領地。そこの領民でもある行商人をないがしろにし、更には領民が塩がなく困っているのに売らぬなどとは、大公様に顔向けできません! 何卒、何卒、お許しください!」


「いやいや、許すもなにも多くの塩を買うには申請して許可証を得るのがルールですから、なにも間違ったことはしてませんよ!」


「しかし、ブロッケン男爵は大公様のご友人でもあり、ヒルデンブルグの同盟者であるドラゴンともご友人の間柄。そのような方をないがしろにしてしまったことは許されません!」


「許します! 許しますから、本当にお願いだから許されてください!」



 お願いだからミーちゃんも言ってあげて!



「み~!」




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