380神猫 ミーちゃん、ちょっと疑心暗鬼になりそうです。

 あぁ……今日も忙しい。



「み~」



 そろそろ、神猫商会の本店をオープンさせないといけない。せっかくの一等地なのに、ただ遊ばせておくのはもったいない。


 それと、ペロたちが戻ったらベルーナとヴィルヘルム間の交易の、商隊編成の件もある。


 宗方姉弟はゼルガドさんと酒造りもあるな。


 ニクセの獣人の村建設も途中だしね。



「みぃ……」



 取り敢えず、やれることからやろう。ということで、早朝のヴィルヘルムの港の魚市場に来てます。


 ミーちゃんバッグの中にはまだ売れ残りの魚があるけど、烈王さんの所に行くので高級魚狙いで市場に来た。


 この頃は市場の中を魚を見ながら歩いているとよく声をかけられる。市場の関係者だったり、仲買人、露店売りしているおばさんたちだ。


 神猫商会としてよく買っているので顔を覚えられている。



「よっ! 神猫商会の会頭。今日も別嬪だね」


「み~」



 すみません……顔を覚えられているのはミーちゃんです。



「子猫ちゃん。今日は何を買っていってくれるんだい」


「み~」



 みなさん、ミーちゃんを見かけると声をかけてくる。ミーちゃんは人気者だね……。誰にも声をかけてもらえない俺って……。




「ネロ。エール!」



 俺たちが来るおことを知っていたかのように、着いた途端これだよ。



「み~?」


「ヴィルヘルムに来てるのは気配でわかっていたからな。来るんじゃないかと思ってた」



 さすが、次元竜。どんだけ気配察知が凄いんだよ。



「修行するか?」


「いえ、今日来たのはお願いがあって来ました」


「み~」



 以前に作ってもらった迷宮用の転移門を、ベルーナとヒルデンブルグに譲渡して良いかを確認する。



「いいんじゃね?」


「み~」



 あら、簡単に了解が得られちゃったよ。



「悪事に使えないことはないが、眷属殿とネロが信用している相手なんだろう? ヒルデンブルグのほうはルッツか?」


「み~」


「はい。ベルーナのほうは大公様の御息女で現国王の御妃様です」


「そうかルッツの娘か。だが、設置するのはネロだぞ。俺が作った転移門だからな、ネロが責任もって設置しろ」



 まあ、それはしょうがないね。なのでこの転移門について詳しく聞いておく。


 この迷宮用の転移門は、こことブロッケン山に設置した転移門の劣化版。それは以前に聞いた。劣化版には条件設定ができないので、ある意味フリーパス。誰でも使えるということ。


 使用期限はなくてエナジーコアなどの代償も必要ない。転移門自体が周りからエネルギーを吸収する仕組みになっているそうだ。


 破壊するには強大なエネルギーをぶつけて破壊するしかないそうで、人族では実質破壊不可。次元竜、半端ねぇっす。



「そういやあ、ゴブリンキングな。転生者らしいぞ」


「はぁ?」


「み~?」



 唐突に何を言ってるんでしょうか? 転生者? ある意味俺と同じ境遇?



「こないだなぁ、西の魔王の使いが来てな。そんなこと言ってた」


「炭にしなかったんですか?」


「み~?」


「前回の教訓を活かしたのか、今回はまともな奴が来たからな話だけは聞いてやった」



 西の魔王はゴブリンキングと戦ううえで、烈王さん及びヒルデンブルグと共闘で挟撃したかったようだ。


 長年の仇敵同士の人族の国にはさすがに直接交渉に行くことはさけ、烈王さんを介してヒルデンブルグと交渉したかったようだが、烈王さんは素気無く勝手にやれと断ったらしい。


 西の魔王としては敵の敵は味方って感じで交渉したかったんだろうね。西の魔王もゴブリンキングは脅威と考えているのだろうか?


 それにしても、ゴブリンキングが転生者ってどういうこと?



「ネロは考えたことがないのか?」


「何をですか?」


「み~?」


「神が勇者をこの世界に呼ぶ理由だ」



 それは魔王を消滅させることができるのが、勇者だからではないのですか?



「ネロたちが信仰する神と、魔王たちが信仰する神。何が違う?」



 なんだこの禅問答みたいなのは。



「善い神と悪い神なのでは?」


「どっちがだ?」


「善い神はミーちゃんたち側に決まっているじゃないですか」


「み~!」



 こんなに可愛いミーちゃんが悪い神なわけがないじゃないですか!



「ふーん。どうしてそう言える? 魔王側に言わせれば、眷属殿側が悪い神と言うんだぞ。そもそも、善し悪しとはなんだ? 考えの基準や価値観で千差万別に変わものだぞ。人を助ける。確かに聞こえは善い行いに聞こえる。だが、その助けられた者が凶悪な犯罪者ならどうなる? 心を入れ替えて善人になるとでも? いや、ならない。更に多くの犯罪を犯すだろうな。さてではこの者を助けた行いは善なのか? それとも悪なのか?」


「ぐっ、それは詭弁です」


「あぁ、確かに詭弁だ。だが、答えはそういうことだろう?」



 烈王さんの言いたいことはわかる。わかるけど、それは絶対強者だから言えること。俺たちはそこまで強くない。倫理や道徳そして法を尊重し遵守することを善しとして平和を願う。


 だけど、魔王やモンスターの多くは弱肉強食。強い者が正義。弱者は強者に虐げられることが常識。


 俺はそんな常識を認められない。



「ですが、向こうの神はミーちゃん側の神が造った世界を、モンスターや魔王をこの世界に生み出して乗っ取ろうとしているじゃないですか! そこに正義はあるのですか!」


「み~!」


「根本からしてネロは勘違いをしている。この世界……いや、宇宙を造ったのは眷属殿側の神じゃないぞ」


「はっ?」


「み~?」



 えっ、違うの? っていうか、違うんですね? まさか、魔王側の神ですか?


 そこを奪ったのがミーちゃん側の神だなんて言わないですよね?


 ミーちゃん、なんか雲行きが悪くなってきているんですけど……。



「みぃ……」





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