372神猫 ミーちゃん、ぽかぽか陽気に誘われて、モフモフに埋もれて眠る。

 そういえば、さっきからベン爺さんの指示で動き回っている人が居るのですが、誰?



「うむ。忘れとった。前に言っとった儂の弟子じゃのう」


「……」



 痩せ形のっぽのお兄さんがぺこりと頭を下げて、すぐに温室の確認作業に戻ってしまう。



「腕は良いんじゃが、おの通り人見知りのうえ口下手でのう。すまんのう」


「み~」



 ちゃんと仕事してくれるなら問題ないです。でも、うちは動物が多いですけど大丈夫ですか? と思った矢先に温室の開いていた入り口からルーくんとラルくんが入って来て、見知らぬ人を見つけて飛びかかる。


 飛びかかるといっても、遊んで~遊んで~って感じだね。この子たちは番犬にはなりそうにない。まあ、家の周りは白狼三頭が見回りしてるから問題ないけどね。


 ベン爺さんのお弟子さんの名前はスキニーさん。痩せ形のっぽのせいでだいぶひ弱に見える。ちゃんとご飯食べてます?



「み~?」


「前の働いていた貴族がスキニーが無口なのを気に入らなかったようでのう。飯もちゃんと食わせなかったそうじゃのう。嘆かわしいのう」



 貴族すべてが悪い人ではないのだろうけど、貴族だというだけで平民を見下す人が多いのも事実だからねぇ。うちは成り上がりの新興貴族だからそういうのないし、なんといってもエフさんの作る料理はとても美味しいから一杯食べてもっと太ったほうが良いね。



「み~」



 温室の中は秋口だけど暖房をつけていなくてもぽかぽか。ルーくんとラルくんは陽あたりの良い場所で寄り添ってお昼寝を始めた。ミーちゃんもぽかぽか陽気に誘われて、モフモフの中に割って入って一緒にお昼寝をするようだ。これは最高の寝心地に違いない。間違いない。


 ベン爺さんとスキニーさんは母屋の陽あたりの良いテラスでプランターで育てていたサトウキビの苗と、芽が出た甜菜の苗、そしてターメリックの苗を温室に運んで来た。


 サトウキビは少し伸びて土に根を張りつつあり、青々とした葉が伸び始めている。これほど早く成長しているのは、俺のスキル百花繚乱のおかげ。


 ただ、彩音さんの桜の接ぎ木と同じで、ベン爺さんにやり過ぎは駄目と釘を刺されている。やり過ぎると、本来の生命力を削ってしまう恐れがあるらしい。


 それでも、無理やり成長させているのに、なにごともなく順調に育っていることをベン爺さんは不思議がっている。


 考えられる理由としてはミーちゃんのミネラルウォーターを与えているお陰だと考えられる。彩音さんの桜の接ぎ木も、ずっとミーちゃんのミネラルウォーターを与えているせいか、病気や枯れることなくとても元気に育っているからね。早く花見がした~い。


 さて、ベン爺さんたちはプランターから温室内の土にサトウキビの苗と甜菜の苗、そしてターメリックの苗の植え替えを始めた。俺は植え替えの終わったものにミーちゃんのミネラルウォーターを与えていく。元気に大きくなれよ~。


 砂糖は言うまでもなく、早くターメリックを大量に育ててカレーが食べたいのだ。黄色くないカレーはカレーじゃない! カレーを作るうえでの香辛料はまだ足りない物もあるけど、まあなんとかなるだろう。


 それらしくなればそれで良い。この世界でカレーを知っているのはほとんど居ない。香辛料を育てていた獣人さんたちでさえ知らないのだから。香辛料同士を混ぜて使うという発想がなかったようだ。


 どちらかといえば俺は本格的なインドカレーより、昔ながらの小麦粉とカレー粉で作る日本のカレーが好き。辛過ぎるのは苦手なので中辛くらいが良いね。高級肉オーク肉を使えば絶対に旨くなるはず。ヤバい、よだれが出てきた。カレー、食いてぇー!


 そんなんことを考えていたら、植え替えがすべて終わっていた。慌ててミネラルウォーターも掛けてまわる。これからはスキニーさんがこの温室を管理してくれるようなので、よろしくお願いしますね。


 寝ていたルーくんとラルくん、それに挟まれて寝ていたミーちゃんを起こして外に出る。ルーくんとラルくんはお馬さんたちが居る牧場のほうに走って行った。元気だね。


 ミーちゃんは俺の腕の中で可愛らしく欠伸をしている。まだ、お寝むのようだ。


 俺の腕の中で丸くなって寝ているミーちゃんを抱っこして家に入り、ミーちゃんをそっとソファーに下してあげる。


 今日の午後の予定は宮廷料理長の所に行って、レーネ様の誕生会で出すケーキの相談と試作をすることになっている。


 今回はちゃんとアポ取りしたのでルーカスさんも怒らない。馬車も手配してもらったので完璧。御者はベン爺さんがしてくれる。


 連れて行くのはレーネ様とモフモフ談議ができるレティさんと、みんなの人気者のルーくんとラルくんだ。


 最近は王妃様たちだけでなく侍女さんたちも、狼とドラゴンなのだけど猫可愛がりしている。 もう、モフモフは正義って感じで、仕事そっちのけで可愛がってくれてます。王妃様やニーアさんはそのことに関して注意することはない。まあ、二人が一番のモフラーだからなにも言えないだけなのかもしれないね。


 お昼ご飯を食べたら出掛けましょう。



「すぴぃー」




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