369神猫 ミーちゃん、猫の絨毯に魚を振る舞う。

 区長さんとの間に入って通訳してくれているダンディーボイス。フードを脱ぐと猫耳が現れる。


 サバトラにゃんこのケットシーだ。


 まあ、おそらくそうだとは思っていたけどね。



「み~」



 ミャーミャー鳴く区長さんの言葉を通訳してくれる。


 レアとカイのお母さんが病で伏せっているらしい。病状もどんどん悪化しているらしく、今では水しか口にできない状態。区長さんの孫にあたるらしく、なんとかならないかと神猫であるミーちゃんを訪ねてきたそうだ。


 そりゃ大変だ。レアとカイのお母さんとなればミーちゃんの家族も当然。助けなければならぬ。



「み~!」



 まずは、ミーちゃんのミネラルウォーターを飲ませるように言い、魚を包むように用意した大きな葉に猫缶の中身を出して包んで渡す。


 取り敢えず、急いで戻ってミネラルウォーターを飲ませるように指示した。


 なのにこのサバトラケットシー、なにか言い難そうにもじもじしている。カヤちゃんに肉球をぷにぷにされて、嬉しいのか? もじもじしながら、なにかを訴えるようにミーちゃんと俺を交互に見てくる。だから、なんなのよ? レアとカイのお母さんが苦しんでいるんだから早く行けよ。



「いや、わかっているけどよ……ちょっとだけ、ちょっとだけいいから魚食わしてくれ!」


「み~?」



 良く見ればサバトラケットシー、涎がだらだらと……いやもう一匹居た、区長さんあんたもかい!


 今は、レアとカイのお母さんの命が大事。なので今日の夜、魚を食べさせてやるからうちに来いと言っておいた。



「絶対だからにゃ!」


「み~」



 なんか一瞬ペロに見えた。ケットシーってみんなあんな感じなのだろうか?


 直売市場の方は陽が沈みかけた頃、ようやく最後のお客さんが帰って行った。


 用意した魚の四分の三を捌き、商業ギルドの人たちも今日の売り上げに期待の表情。間違いなくウハウハだよ。


 直売市だけでなく周りで屋台を出して居た人たちも、大きな利益を出したことだろう。神猫屋もいつもの倍以上の売り上げになったようだ。


 特に今日の神猫屋はいつもの団子売りを縮小して、エールの販売を中心にしたからだ。焼き魚にエール合うと思います。俺は飲まないけど。


 団子売りを縮小したとはいえ、順番を待つ人たちが注文してくるので忙しかったことには変わりはないけど、俺も途中から手伝ったので回転が早くなりお客さんの注文に十分に応えられていたと思う。


 ミーちゃんは看板娘としてお客さんに愛嬌を振りまいていたね。



「み~」



 みんなでうちに戻ると口をあんぐりと開け固まる。



「み~!」


「もふもふ、いっぱい!」



 ミーちゃんとカヤちゃんは喜んでいるけど、これはなんの冗談だ? 猫がいっぱい……猫の絨毯が広がっている。


 ヤン君、ビビってカヤちゃんの後ろに隠れるけど、逆じゃね?


 俺たちが家の方に進むと猫の絨毯に道ができる。


 玄関まで来るとルーくんとラルくんを侍らせたレティさんと、ダンディーボイスのサバトラケットシーと区長さんが居た。



「少年。これはどういうことだ! 一面猫だらけじゃないか!」


「みぃ……」


「いや、まあ、その……」


「こんな楽しいことを黙っているなんて酷い奴だ!」


「がう」


「きゅ~」


「み、み~?」



 そっちかい! ミーちゃん、え!? な~に? って困惑顔。



「魚、食わせろ!」



 区長さんがまた、サバトラケットシーの足に猫キックを何発も入れている。


 食わせるのは良いのだけれど、この猫の絨毯はなんでしょうか?



「俺が魚を食うって言ったらよ。みんなついてきて、いつの間にかこんなになってたぜ」



 区長さんがミーちゃんを見上げてにゃ~にゃ~鳴いてしゃべっている。



「み~!」



 まかせなさ~い! ってミーちゃん、なにかをいつものように安請け合いしてるけど、ものすごく嫌な予感しかしないんですけど……。



「み~♪」



 ミーちゃん、見惚れるほどの満面の笑み浮かべて俺を見て、みんなとお魚食べるの~♪ って言ってきた……。


 えーと、ミーちゃんがお魚食べるのはわかったけど、誰と食べるのかな? 良く聞き取れなかったかな?



「み~」



 だ~か~らみんなと~って言ってます。


 うーん。俺の聞き間違いかな? みんなとって聞こえたけど、サバトラケットシーと区長さんとだよね?



「み~💢」



 ミーちゃん笑顔からぷんぷん顔になって、み~ん~な~💢 って可愛い顔で睨んできた。ミーちゃんはどんな表情でも可愛いと再度認識する。


 それはさておき、本当にやるの? 魚はこの猫絨毯どもに食べさせてもおそらく間に合うと思う。思うけど……誰が焼くのかな? いっそのことラルくんとクリスさんの炎のブレスで……消し炭、いや炭さえ跡形も残さず消滅するのが目に浮かぶので却下だな。下手をしたら王都が更地になる恐れもある。危険だ。


 しょうがない。台所のコンロと野営用の携帯コンロ、足りないだろうから即席の石の竈をいくつか作ろう。


 家のみんなには悪いけど手伝ってもらうしかない。


 そうと決まれば準備開始だ。



「み~」





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