368神猫 ミーちゃん、ちみっ子呼ばわりされる。

 今日は商業ギルドさんとの約束の日。だけど、その前にすることがある。


 朝ごはんを食べた後、クリスさん、ヤン君親子、ベルティさん、フランツさん、テレサさんを連れて神猫商会本店へと向かう。カティアさんは身重なので家で待機、ヴィルヘルムから来た二人は見習い中なのでルーカスさんの指導のもと勉強中なので連れていかない。


 トンテンカン、トンテンカンと音のする中、棟梁を呼んでもらい本店の中を見て回る。


 さすがに王都でも一、二を争う大店おおだなだっただけあって、作りが立派だ。以前、棟梁が修繕なんかしなくても十分に使えると言っていたくらいだから。


 今回修繕を頼んでいるのは店側の造り、そして調理場の設置、従業員の生活空間の改善をお願いしている。特に従業員の生活空間には力を入れている。


 修繕前はいわゆるタコ部屋で寝起きするだけの部屋がいくつもあった。なので狭いタコ部屋三つ分をひとつの部屋に改造してもらっている。奥側の荷馬車を置く倉庫も解体して風呂と食堂を建ててもらっている。


 荷馬車はうちの方に置くし、護衛の人の宿舎もうちの横なので本店には必要ないからね。


 通りに面した店側の雨どいを外して、実際の店舗部分を確認する。



「大きいねぇ~」


「み~」



 ミーちゃんを抱っこしたカヤちゃんがほわわわっと感想を言ってくれた。


 いやー、本当に大きい。王都中央広場に面し南にはしる大通りの角地の一等地。角地なので中央広場に面した所と、南の大通りに面した所で実質二店舗分ある。


 中央広場に面した方を神猫屋にして、中にテーブルをふたつ、外にオープンテラスカフェっぽくふたつテーブルを置くのもありかな。


 南の大通り側は神猫商会の店舗として使えば良いね。



 みなさん、実際に使うことになるので真剣に考えながら見て回っています。いつの間にか、中央広場で午後からおこなわれる魚の直売市の準備をしていた、商業ギルドの担当者他二名が一緒にあーでもない、こーでもないと話に加わっていた。


 それより、本気で中央広場でやるつもりなんですね?



「ちゃんと王宮に許可は取っていますのでご安心を。神猫商会様の名を出したところ、すぐに許可がおりました。夏場のお祭りといい、王宮に伝のある神猫商会様は違いますな~」



 おいおい、勝手にうちの名前を出すなよ。中央広場でやるのを決めたのは商業ギルドでしょう。また、王妃様にいじられる話題を提供してしまった感がある……。


 まあ、それでも店舗の内装や作りに関して、的確なアドバイスをくれているのでチャラにしてあげよう。


 お昼は屋台から食べ物を買ってきて、大工さんたちと修正場所について話合いながら一緒に食べた。


 お昼ごはんの後は直売市の準備。クリスさんたちは直売市の横で神猫屋をオープン。俺はミーちゃんと一緒にテント下のテーブルに氷の皿を並べ魚を出していく。値段は前回を踏まえて適当につけていく。どうせ、あってないようなものだ。


 商業ギルドの方でも焼き魚の用のグリルに火が入り、無料提供される味噌汁の大鍋ふたつにも火が入り野菜とぶつ切りにされた魚が投入されていく。


 お祭りの時に好評だったお子ちゃま預り所も設置。ルーくんとラルくん、白狼とバムたちに来てもらっている。


 そんな準備をしていたら、すでに多くの籠を持った人々が訪れていた。商業ギルドが雇ったハンターさんたちが、順番整理してくれているので騒ぎを起こす人もいない。


 まあ、来ている人の多くが奥様方で残りは中小の仲買人や食堂や酒場の料理人なので、問題を起こすような人たちじゃないのでやりやすい。



「本日はお集まりいただき、まことにありがとうございます。本日ご提供される本物の新鮮な海の幸は、商業ギルド全面バックアップによる神猫商会様ご提供になります。神猫商会様を良く知る方も、良く知らない方も、近々あそこに見えます改装中の店舗で開店が決まっておりますので、足を運んび御贔屓にしていただければと思います。それでは、鮮魚直売市の開店です!」


「み~!」



 ミーちゃんの挨拶が掻き消えるほどのお客様の拍手の中、直売市が始まった。


 始まった早々に高~い、まけてーと声が飛び交う。商業ギルドの職員さんも、うちからの応援のベルティさんたちもタジタジ。完全に奥様方の押し怯んでいる。


 俺はそんな彼らを横目に味噌汁当番と魚の補充係。味噌汁の方も良い感じに出汁が出て来たので火を弱めて味噌で味付け、まわりに味噌の芳醇な香りが広がる。


 待っている人やお子ちゃま預り所のお子ちゃまにご提供。みんな初めての味に驚きつつも完食。手ごたえは十分だね。



「み~」



 そんな中、俺の腰をツンツンされる。振り向いて見ると、フードを深く被った小柄な少年みたいだ。



「おい、お前。区長の知り合いなんだろう? ちょっと顔貸せや」



 少年かと思っていたけど、ダンディーボイス……ガラが非常に悪いけど。



「み~? み~!」



 猫の区長さん? 北と南に分かれている子猫四匹の親元のこと?



「み~」



 味噌汁を商業ギルドの人に代わってもらい、フードを被ったダンディーボイスについて行く。神猫屋の裏に連れて来られると、カヤちゃんが老猫をモフモフしていた。



「区長。連れて来たぜ」


「にゃ!? にゃ~」


「なになに、神猫様にはつきましては、ご尊顔を拝し恐悦至極にございますだ~? この白いちみっ子が神猫様だって~?」



 区長さんと思われる老猫が、ダンディーボイスをシャーシャー言いながら猫キックを喰らわせている。



「ミーちゃん。ちみっ子で神猫様なんだ~」



 カヤちゃん、ミーちゃんにあんまり追い打ちをかけないでね。


 ちみっ子じゃないも~ん……って落ち込んじゃってるから。



「みぃ……」



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