367神猫 ミーちゃん、時の流れに身を任せます。

 この後の競りも好評のうちに終わり、ミーちゃんも満足顔。



「み~」



 ミーちゃん、やり切ったよ~って、お気に入りの座布団を出してゴロゴロしている。


 その逆に、競りを手伝ってくれたルーカスさんの弟のベルティさんたちは、今回初めて神猫商会の仕事手伝い大金が飛び交うのを見て驚きの表情。



「兄さん。神猫商会って凄いんですね……」


「なにを今さら。ネロ様は平民から身を立て貴族となり、陛下、王妃様から信頼熱きお方。そのネロ様が立ち上げた商会だぞ。まともなわけがないだろう」



 ララさん、ヤナさんがウンウン頷いていますが、それって誉めてるんですよね? 誉めてますよね!?


 さて、競りが終わったからといって終わりじゃない。


 今日の本題である高級魚を卸す作業が残っている。


 馬車を順番に倉庫の前に並べてもらい、わざと倉庫を出入りして魚を馬車に出していく。


 ミーちゃんバッグは容量無限なので、怪しまれないように倉庫の中で俺の時空間スキルの収納に移し替えて馬車に出している。


 今さらだけど、用心は必要だ。


 うちに居る白狼たちも、知らない連中が大勢居るので、ずっと俺……ミーちゃんの傍で睨みを利かせている。


 貴族は言わずも知れているが高級レストランの方でも護衛を連れて来ている。この王都の中で盗もうとする奴は居ないと思うけど、万が一の為なんだろう。


 ベルーナで海の高級魚なんていったら、オーク肉高級肉より値が張るからね。


 だけど、そのせいで白狼たちが警戒している。そんな護衛に就く者でも白狼たちの存在感に緊張している。王都の中に居るだけでも異常なのに、主人である俺……ミーちゃんの傍に付き従って居る姿は悪いことを考える者にとっては恐怖以外の何物でもない。


 この人たちは違うだろうけど、最近多いんだよね。うちのこと嗅ぎまわている連中。レティさんは一線を超えない限りは無視だって言ってるけど、俺とミーちゃんだけならなんとでもなるけど、うちの居る人たちになにかされるのは勘弁して欲しい。みんな、俺やミーちゃんの家族同然だから。



「み~」



 こうして、大勢の人前で白狼が存在感を示せば噂にもなって、そういう連中は手を出し難くなると思う。白狼の防衛網を破るのは一筋縄ではいかないから。


 白狼たちは今は警戒しているせいで怖い顔してるけど、普段は孤児院でアニマルセラピーに一役買っているんだよね。まだ、体調を崩して寝ている子やぐずっている子の傍に行って寄り添てくれたりしてるそうだ。院長のアイラさんが助かっていると良く言っている。


 白狼族は仲間意識が高いので、うちの敷地内にある孤児院に居る人たちも仲間と認識しているのかもしれない。或いは、ボスのモフモフ好きでお子ちゃま好きのレティさんの教育の賜かも!?


 そんなこんなで、みなさんに高級魚を配り終える。みなさん、次の高級魚の予約もしていった。次は二ヶ月後くらいかな。


 夕飯まで時間があるのでニクセの獣人さんの村建設現場に顔を出す。獣人さんのおばさんたちが夕飯の支度をしていたので、魚を出してぶつ切りにして寸胴鍋に水と一緒に煮る。灰汁をこまめに取ってもら野菜も入れて味噌を入れれば完成。良い匂いが周りに立ちこめる。


 味見をしてみる。



「み~!」



 魚自体から出汁が出ていて美味いの一言。ミーちゃんも納得の出来。


 だけど、俺たちは食べないよ。うちで夕飯を用意してくれているからね。ミーちゃんはちょっとだけ後ろ髪を引かれているようだ。



「みぃ……」



 ふと思う。これっていけるんじゃねぇって。


 急いで戻り、ルーくんとラルくんをモフっているレティさんを無理やり連れて、商業ギルドに急ぐ。



「スープの販売ですか?」



 いつもの担当者さんに明日の魚売りの時に、焼き魚の販売の他に味噌汁も提供もしたいので、寸胴鍋とコンロ、食器の用意をお願いする。


 得心のいかないような顔をしている担当者さんに論より証拠ということで、獣人さんのところで作った味噌汁を集まって来た商業ギルドのみなさんに、一口程度になってしまったけど振る舞う。



「こ、これは美味い。確か神猫商会様で取り扱っている調味料の味ですな」


「はい。味噌と言います」


「ですが、これはそれだけではありませんな。なんともコクがあり深みある味になっています」


「味噌だけでも美味しいですが、出汁が入ると格段に味が良くなります。本来は海藻の干した物や、小魚を干した物を使いますが、これの出汁は魚そのものです。身や骨、内蔵から良い出汁が出ています。これを明日、来てくださった方にタダで振る舞おうと思っています」


「み、み~!?」



 周りから驚きの声が上がる。なぜかミーちゃんからも。



「しょ、正気ですか? 一杯、二千レト……下手をすれば五千レトは取れますが……」


「ベルーナに住んでる方々に味噌の良さを知ってもらう良い機会だと思いまして」



 売れていないわけではない。高級レストラン以外にも、庶民の食事を提供するお店でもこの頃売れ始めている。味噌玉はヴィルヘルムと同じでハンターさんに人気がある。


 でも、一般のお客さんはほぼ居ない。値段も張るし、買える場所は神猫屋の屋台なのでなかなか買い難いのかも。だけど、近々に神猫商会の本店がオープンする。売り場も広いので神猫屋の団子とは別のスペースが作れる。まあ、ヴィルヘルム支店と同じかな。



「なるほど。神猫商会様の知名度を上げ、本店開業の後押しにするのですな。さすが神猫商会様。損して得を取れとは良く言いますが、それを実践できる者は王都の商人の中にも数えるほどしか居りません。もちろん、有名な大店おおだなの方々です。その観点からすれば神猫商会様も将来、大店に成り得ますな。はっはっはっ」


「み~!」



 当然よ~! ってミーちゃん、神猫商会を大店にするつもりなの? スローライフはどこに行ったのかな?



「み、み~?」




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