358神猫 ミーちゃん、修行します。

「言わずともわかっているはずだ。例の場所に行け。あいつが待っている」


「うっ……わかりました」


「み~?」



 グラムさん、うなだれてトボトボとどこかに歩いて行った。



「よし! 用件は片付いた。飲むぞ!」


「み~?」



 ミーちゃん、深く考えたら駄目。ドラゴンの考えることなんて俺たちにわかるわけないよ。


 肉を焼く前に、取り敢えずエールの樽ごと水スキルで冷やして烈王さんに渡す。手酌でお願いします。お相手はミーちゃんがしてくれますので。



「そんじゃ、駆け込み一杯で頂くぜ!」


「み~」



 ミーちゃんが召し上がれって言うと、グビグビとエールをジョッキで何杯もあけてゆく。駆け込み一杯って言ってませんでした? いや、突っ込んだら負けだな。


 肉と魚を焼いて烈王さんの前に置き、ミーちゃんのために魚の身をほぐしてあげる。生を捌いてお刺身も皿に盛る。



「うめぇ~」


「み~」



 酒が旨いのか肉が旨いのか、よくわからないけど満足していただけたようだ。



「それで、神人からなにを聞いた?」


「この世界の経緯を」


「み~」


「そうか……」



 烈王さんに神人から聞いた話を聞かせる。



「あのシステムか……この大陸を含めてまだ四つほど稼働している。他は魔王に潰された」


「みぃ……」



 でも、四つは残っているわけだ。まずは、この大陸のヴァルハラ・システムに接触したいね。なにがあるかわからないけど、神人は俺たちには使う資格もあるので自由に使って良いと言っていたからね。


「そういえば、神人が時空間スキルのような時間を引き伸ばす能力を使っていましたが、あれは良いのですか?」


「セーフだな。前にも言ったが、この世界に影響を与えることがアウトだ。ある一定の空間だけの時間を操るなら問題ない」



 どのくらいで、この世界に影響を与えるのかわからないけど、できるようになるかは別として、ミーちゃんバッグみたいな時間の止まった空間を作れるってことだね。


「み~?」


「今、グラムが向かっている場所が同じような空間だ。この世界から切り離し、時間を遅くしてある。向こうで一年経ったと感じても、実際はこちらでは一日だ」


「み~!」



 おぉー。でも、こちらの世界に居る人より一歳歳をとるってことだよね?



「違う。時間の幅が違うんだ。向こうの空間とこちらの世界は時間の流れる速さが違うが同一時間軸の上にある世界だと思えばいい。だから向こうで一年経とうが、こちらに戻ればこちらでは一日しか経っていない。その空間の時間の流れを支配するのが時空間スキルだ」


「完全に時間を止めるのは駄目なんですか?」


「駄目だな。入ったが最後出て来れなくなる。時間が止まった空間ではすべてが止まる。意識もだ」



 要するに、俺がミーちゃんバッグに入った時と一緒だ。時間とともに自分自身も止まって動けなくなるってことだね。



「烈王さんもですか?」


「やったことがないからわからん」


「やってみます?」


「ネロの熟練度ではできないぞ」


「ミーちゃん、出番ですよ!」


「み~!」



 ミーちゃん、任せなさいと烈王さんに近づいた瞬間、烈王さんが消えた。さすがミーちゃんバッグ……烈王さんが瞬殺。恐ろしや~。


 じゃあ、忘れる前に出してあげてミーちゃん。



「み~」


「ば、馬鹿野郎! どのくらい時間が経った!」


「ほんの数秒ですよ?」


「やるなら、許可取ってからやれ!」


「みぃ……」



 ほんの数秒なのに怒られた……。


 烈王さんは異世界とこの世界を繋ぐ門を守っている。普通なら分体を使って本体は門を守っているのだけど、島の中だから今ここに居るのは本体なんだそうだ。まかり間違えばこの世界が崩壊してたかもしれないそうだ。ははは……やっちまったぜ。ミーちゃん。



「みぃ……」



 ミーちゃん、上目遣いで烈王さんにごめんなさいしてます。



「しかし、この俺がなんの抵抗もできずにやられるとは……神の眷属、恐るべし」



 ははは……ミーちゃん、誉められていますよ。



「み~」



 それで、どんな感じでした? 烈王さん。



「なにもできない以前に、完全に意識がなくなった。時空間スキルを超えた神の領域だな……」



 時空間スキルを超える力……さすが神猫です。


 俺も負けていられない。時空間スキルの修行をしなければ!



「修行か? ああ、いいぞ」


「うっす。師匠、よろしくお願いします!」


「……み~!」



 ミーちゃんは俺の修行に興味がないようで、フライングボードを出してミーちゃん自身の修行を始めるようだ。頑張れ!



「よし。では、始めよう。まず、ギューとして、ザザーンとなったら、バーンとするんだ!」


「……」



 ま、まさかの大当り!? 一番恐れていた天才肌のレクチャーパターン……。



「どうした? こう、ギューとするんだ!」


「ギューだけで、わかるわけないでしょう!」


「だろうな。冗談だ。これでできたら面白れぇーってな」



 冗談かい!



「収納はできるんだろう?」


「はい」


「大きさは?」



 ミーちゃんバッグには全然及ばない。ミーちゃんバッグは無限収納だからね。それでも、



「四メル四方ぐらいです」


「じゃあ、まずはその中に入れ」


「へっ?」


「屁は必要ない。必要なのはネロ自身だ。まずは、その空間にネロが入れるようになれ。空間維持は基本中の基本だ」



 なるほど、これは盲点だった。自分で作った空間に自分が入るなんてまったく考えていなかった。これは、いろいろ応用ができそうだ。やりがいがあるな。



「なあ、ネロ。眷属殿はなにしてるんだ?」


「修行です」



 ミーちゃん、フライングボードに乗って曲がる練習中。真っ直ぐは得意中の得意なんだけど、まったく曲がることができない……。


 現に練習中の今も曲がれずに木と正面衝突したり、曲がろうと体を傾けてコテンとフライングボードから転げ落ちてる……。


 頑張れ……。



「みぃ……」



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