354神猫 ミーちゃん、司令官に憧れる。

 みんなとのふれあいもそこそこにして、本題に入ろう。



「先程まで義賊ギルドのお茶会に出席していました」


「あらそう。わたくしも一度、二代目の女帝にお会いしてみたいものだわ」



 さすが、王妃様。義賊ギルドの女帝が、彩音さんからミストレティシアさんに代わったことまで情報を掴んでいるようだ。


 王妃様とミストレティシアさんのお互いに能面での腹の探り合い……見てみたい気もする。



「それでネロ君は、どんな美味しい物を食べてきたのかしら?」



 そこですか!? そこなんですね……。



「フィナンシェという焼き菓子がとても美味しかったですね」


「そう。フィナンシェと言うのね? もちろん、ネロ君は作れるわよね?」


「え!? えぇ……」


「ニーア」


「畏まりました」



 あれ? ニーアさん、俺の襟首を掴んでどこに連れて行くおつもりですか? 調理場? フィナンシェを今から作れと? 拒否権は? ないんですね……わかりました。ミーちゃんを連れて行くことだけ許可してください。えぇ、大事なことです。



「み~」



 調理場に連行されて来た。丁度良いので頼まれていたお魚を卸していこう。


 宮廷料理長にどこに出すか聞いて、ミーちゃんに高級魚を出してもらう。好きなお魚を選んでください。



「しかし、驚くほどに新鮮だな」



 宮廷料理長の指示のもとにお魚が選別されていく。



「これは前の時のように凍らせてくれ」



 宮廷料理長は研鑽の結果、適正な解凍方法を見つけたそうだ。あとで、解凍方法を書いたメモをもらえる約束をしてから、選別された全体の八割ほどを直接凍らせる。


 料理人の中にも水スキルを使える人は何人か居るけど、瞬時に凍らせることができる人は居ない。訓練はしてるそうだけど、上手くいかないらしい。


 侍女さんの中には以前の訓練のおかげで、水を過冷却状態にできるようになった人もいるそうで、王様と王妃様は結構フローズンを楽しんでいるみたいだね。


 時間がかかりそうなのでミーちゃんはニーアさんと王妃様の所に戻ってもらう。ニーアさんは怪訝な表情でミーちゃんを受け取るが、ミーちゃんを抱っこしてニコニコ顔で戻っていく。



「み~」



 さすがのニーアさんでもミーちゃんの神の隠蔽には敵わない。まさか、ミーちゃんが無限収納を持っているとは夢にも思うまい。


 さて、お魚を凍らせたらフィナンシェ作りだ。宮廷料理長にお菓子が作りたいと言うと、見習いの方を補佐につけてくれるという。


 作業をすること、気づけばもう夕方だ。


 フィナンシェは大量に作った。それはもう、大量に。


 材料はさすが王宮の台所だけあって、アーモンドパウダーもフレッシュバターも大量にそろっている。


 宮廷の調理場にあるオーブンはうちのオーブンの五倍はあり、数も五台あるので夕食の準備が始まる前にフル稼働で焼きあげた。


 作ったフィナンシェの半分は俺がもらい時空間スキルで一時的に収納しておく。残りは王妃様達の分を取り分け、余った分は料理人と侍女さん達の味見という名のお裾分けになる。


 フィナンシェを盛りつけたお皿を持った侍女さんと一緒に、王妃様のもとに戻る。本来の王宮に来た目的をやっと果たせるよ。



「これがネロ君の言っていたフィナンシェ?」


「もともと美味しいですけど、出来立てですから尚美味しいですよ」



 グラムさんは静かにお茶を飲んでいる。レティさんはレーネ様とモフモフに埋もれている。二人共、フィナンシェは十分に食べたので興味はないようだ。


 モフモフに埋もれていたレーネ様も、モフモフ達と一緒にテーブルに戻ってきてフィナンシェを食べる。


 レティさんはモフモフ達にフィナンシェの欠片を与えているけど、与えるのはほんの少しだけですからね。やりすぎないでくださいよ。



「美味しいわね」


「おいちぃでしゅ」



 さて、そろそろ本題に入って良いでしょうか?



「そういえば、そんな話だったわね」


「……」


「みぃ……」



 お菓子は人を駄目にする……。


 それはさておき、義賊ギルドで聞いた話を聞かせた。



「節操のない国ね……。それに、あの好色爺が死んだのは意外ね。それだけ、王女が優秀って事かしら?」


「ロタリンギアに王子は居ないのですか?」


「み~?」


「公式上、王位継承件を持つ男子は居ないわね。庶子はたくさん居るらしいわ。でも自分の立場を脅かす存在を擁立することが、あの狭量な好色爺にはできなかったのよ」


「みぃ……」


「跡継ぎのことは考えていなかったのでしょうか?」


「どうかしら? 性格に難はあったけど、執政者としては優秀だったわ。オークが現れる前までは……」



 それだけ、真の黒幕は優秀ってことだろう。国のトップを堕落させ、自分の都合の良い方に舵を取らせる。相手の姿、目的が見えない分恐ろしく感じる。



「それにしても困ったわね。今の状況ではお父様の手助けができないわ」


「み~?」



 王妃様? そのチラッチラッと俺を見るのはなぜですか?



「新興貴族が手柄を立てる絶好の機会だと思わない?」


「み~」


「まったく思っていません!」


「相手が攻めて来るのは年が明けてからなんでしょう? レーネの誕生会で集まった貴族に有志を募りましょう。もちろん、その義勇兵をまとめるのはネロ君ね」



 本気まじですか!?



「み~!」


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