352神猫 ミーちゃん、カミングアウトしました。

 あ~すっきりした。


 手を洗いメイドさんが渡してくれたタオルで手を拭き、元の部屋に戻る。


 ミストレティシアさんは優雅にお茶を飲んでるのに対して、レティさんとグラムさんは焼き菓子を美味しそうに食べている。


 マドレーヌかなと思って俺も一口食べてみてびっくり。フィナンシェでした。これは紛うことなきアーモンドの味だ。アーモンドあったんだ。


 そう言えばナッツ系はまったく調べていないな。ピーナッツやカシューナッツなんか久しぶりに食べたいね。ピスタタチオも食べるのが面倒だけど好き。今度、ちゃんと調べてみよう。


 フィナンシェを味わいお茶を一口飲み、先ほどの話の続きを促す。



「それで、続きとは?」


「ロタリンギアの先王は病気と噂されているけど、それは表向きの話。真実は後宮に籠って女遊びに興じてたらしいわ。いい歳こいて好きものねぇ」


「まあ、俺も男なので否定はしませんよ。それに、先王が女好きってのは有名だったと聞いています。で、それがどうしました?」


「みぃ……」



 いやいや、ミーちゃん。不潔~って、俺も男ですから女性が好きですよ! 



「そうね。確かに公然の秘密だったわ。でも、オークキングと言う魔王が生まれた状況で国王としての体面を保つ必要があった時期に、女遊びは民衆に受け入れられる訳がないわ。そこで、第一王女が先王に女を当てがい、実質後宮に幽閉したのよ」


「ん? と言う事は勇者召喚を指示したのは王女ってことですか?」


「み~?」


「そう。そして、邪魔になった先王を病死と偽り殺して、恋人の勇者を王位に就けたのよ」


「まあ、よくある話ですね」


「み~」


「よくある話って……普通ないわよ!」



 えぇ~、ファンタジー物の定番ストーリーだよね?



「み~」



 ミーちゃんも知ってるくらい……知ってるの? ミーちゃんなんで知ってるの?



「みぃ……」



 ポンコツ神様と一緒にラノベやアニメを見てたってぇ!?



「み~」



 思わぬ、ミーちゃんのカミングアウト。あのポンコツ神様なにやってんだ。



「ネロ君的には普通の話でも、そのことを他国や民衆に知られる事は避けなくちゃならないものなのよ。そこで王女と勇者王は、民衆の目を逸らす為一つの手を考えたの」


「まあ、ろくでもないことでしょうね」


「み~」


「ちなみに、この前の東辺境伯の反乱に、ロタリンギアの兵と勇者が手を貸したことが向こうでどう言われているか知っていて?」


「み~?」


「ロタリンギアを攻めようとしていたルミエール王国に正義の鉄槌を喰らわし、遠征軍を蹴散らしたと言われているわ」


「Good grief……」


「みぃ……」



 犬小屋の上で良く寝ているビーグル犬の気持ちが、少しわかった気がする。何がどうなればそうなるのだろう……やれやれだぜ。ミーちゃんも呆れ顔です。



「その勝ち戦に乗って、今度は憎きルミエールの同盟国ヒルデンブルグに攻め込むらしいわ。新しき勇者王が新しき勇者将軍に指示してね」



 なるほど、そういうことか。そこですべてが繋がる訳ですね。毎度思うけど、裏ボスはなかなかにやり手だ。ロタリンギアは裏ボスの掌で踊らされているらしい。ヒルデンブルグに隣接する魔王二体も同じく踊らされているのだろう。


 亡くなった先王が裏ボスに操られていると思っていたけど、操られていたのは女王の方だったようだ。操られているのが王女本人なのか、その側近なのかわからないけど、絡めての好きな一癖も二癖もある奴みたいだ。


 でも、裏ボスの真の狙いが見えない。戦火を広げて疲弊したところを丸呑みするつもりなのだろうか? それとも、他に何か狙いがあるのかな? うむぅ。



「ネロ君が冷静過ぎて不愉快だわ。少しくらいは驚いた振りぐらいして欲しいものよね」


「驚くと言うより、呆れてるかな? それに、行動自体は想定内なので」


「想定内なの……?」


「ルミエールは国境に第一騎士団を配置してますし、ヒルデンブルグでも対ロタリンギアの対策は練っています。ロタリンギアが魔王と同調して動くというのが想定外と言えば想定外ですが、基本的な対策に変更はないでしょうね」


「そう……想定内なのね……」


「み~」



 確かに予想はしていた状況だけど、その情報を掴んだ義賊ギルドの情報網は凄い。ハンターギルドでも情報を集めているようだけど、状況は芳しくない。



「進軍はいつ頃になりそうなんですか?」


「年明けね。流石にすぐって訳にはいかないようよ」



 年明けって言っても、もう数ヶ月しかない。



「上にこの情報をあげても構いませんか?」


「好きにして頂戴……」



 何故かミストレティシアさん不貞腐れています。若い可愛い子ならまだしも、おばさn……お姉さんですね。はい。それから、怖いのでその目付きやめてください。ミーちゃんがビビッてますよ。



「みぃ……」



 その後、大事な話も終わったことから、気兼ねない談笑になった。



「そうそう、ネロ君の持っている武器を幾つか発注したいのだけど、お願いできる? 造った職人を探したのだけど行方不明らしいのよ。ハンターギルドでも探しているらしいわよ」



 むむ。何故、義賊ギルドで俺の使っている銃を欲しがるんだ?



「うちのギルドでも大気スキル使いが多く居てね、ネロ君が開示した訓練方法をやらせているのよ。後は実戦で鍛える段階にいるのが何人か居るので、その武器が欲しいのよねぇ」



 まあ、ハンターギルドに開示したからいつかは広がると思ったけど、こんなに早く広がるとは……。


 しかし、ハンターギルドでもゼルガドさんを探しているって事は、義賊ギルド以外にもそれなりの使い手が出てきたので、銃が欲しいということなのだろう。


 造れるのはゼルガドさんだけだから探すのは当然か。確かに今現在、行方不明中だしね。そろそろ、王都に着くはずなんだけど……。



「すぐには無理ですけど、もう少ししたらお引き受けしますよ。その職人がこちらに向かっているので」


「王都で店を開くのかしら?」


神猫商会うちの専属に雇いました。店は……そのうちですね」


「み~」


「神猫商会……侮れませんわ」



 さて、話も済んだのでお暇しますか。フィナンシェ、お土産にくれるんですか? ありがとうございます。特に後ろの二人が喜んでいます。



「いつでも、遊びに来てね。ネロ君と子猫ちゃんなら大歓迎よ」


「み~」



 さて、情報を得た以上王宮に行かねばなるまい。ペロとセラが居ないけど、ルーくんとラルくんは連れて行かないとレーネ様が悲しむから連れて行こうね。



「み~」


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