350神猫 ミーちゃん、世界中の人々をメロメロにしちゃう?

 さて、なにを作ろうか?


 カスタードと言えば、あれだろう。


 エフさんにパイ生地を作ってもらっている間に、リンゴを切って砂糖で煮る。黒砂糖を使うので定番の味とはちっと違う風味になると思う。シナモンも無いのが残念。


 パイ生地の上にカスタードをまんべんなく塗って、先ほどのリンゴを冷やしたものをカスタードの上に敷き詰めていき、またカスタードを塗ってパイ生地を網目状にかぶせて卵の黄身を塗ってオーブンで焼く。


 きつね色になったら、はい出来上がり。アップルパイです。取り敢えず、二つ焼いて、一つは味見用。お昼にみんなにも食べさせてあげよう。


 その前に、ちょうど居たルーカスさんの従姉妹のテレサさんとエフさんとで一足先に味見。



「美味しいです♪」


「果物を砂糖で煮るなんて、なんて贅沢なんでしょう……」



 料理人のエフさんからすると信じられない料理法だったみたいだね。


 ミーちゃんにも味見するか聞いてみたら、プイっと横を向かれてしまった。美味しいんだよ?




 みんなとお昼を食べた後、しばらくすると義賊ギルドからの迎えの馬車が来た。一緒に行くのはレティさんとグラムさんの二人。ルーくんとラルくんも行きたいと訴えてきたけど、流石に連れては行けない。ごめんね。


 王都の中心街に向かって進む馬車の中でミーちゃんのお召し替え、水色のリボンにピンクのレースのスカーフ。お似合いですよ。お嬢様。



「み~」



 義賊ギルドの馬車は中心街を抜け貴族街に入ったけど、前回とは違った屋敷に入っていく。


 玄関の前で執事さんが屋敷に迎え入れてくれ、大広間に行くとミストレティシアさんが待っていた。



「ネロ男爵様。ようこそおいでくださいました」


「み~」



 ミストレティシアさんが大仰な振る舞いで挨拶してくる。ミーちゃんは喜んでご挨拶。俺は苦笑いだね。


 お土産のアップルパイを執事さんに渡してミストレティシアさんに挨拶を返す。



「お久しぶりです。今日はなにかお話があると言うことで伺いました」


「男爵様。急いては事を仕損じますわよ。お座りになってティータイムにしませんこと?」



 そう言われたので席につき、ミーちゃんを小さめのベルベット地の布をテーブルに敷いた場所に下す。レティさんとグラムさんは俺の後ろに立つようだ。



「ここで男爵様に危害を加えるような愚か者は居なくてよ。レティ。そっちらの護衛のお兄さんもお座りになって」


「み~」



 と、ミーちゃんが言ってるので、二人に頷くと二人も席についた。



 執事さんとメイドさんがお茶の用意をして、お土産のアップルパイも切り分ける。お土産だから俺達はいいのに。ミーちゃんの前には俺が皿にミーちゃんクッキーとミネラルウォーターを出してあげた。



「そちらの方は新しい護衛の方なのかしら? レティが霞む程の凄い方を護衛に連れてらっしゃるのね。以前は竜爪のジクムント様、五闘招雷のお三方をお連れでらっしゃったのに、更に凄腕を雇われるその強運を分けて頂きたいですわ」



 強運……持ってないです。運気上昇と幸運スキルは持っているけど、最近仕事をしてないような気がする。



「最近、ジクムント様もゴブリンキング討伐に加わったと聞いています。残りの二人は男爵様が雇っているとか」



 レティさんに顔を向けると首を振られる。なるほど、流石は義賊ギルドの情報収集能力。まあ、最初はジャブってところかな? じゃあ、こちらはフックをお見舞いしよう。



「いえいえ、絶剣さんはハンターを引退して正式にうちに仕えてくれる事になったので、フォルテの代官をしてもらっているんですよ。ローザリンデさんは暇つぶしにそれに付き合っているだけです」


「み~」


「……」



 軽いフックのつもりが良い所に入ったみたいだ。



「グレンハルト様と言えば、品行方正で聖人君子とまで言われるお方。将来はハンターギルドの幹部になるとさえ言われていた方を仕えさせるとは……その強運と人望が羨ましいですわ」



 またなんか増えたね。人望? なにそれ? 美味しいの?


 両隣の二人を見てみなさい。こちらの話は話し半分でアップルパイに夢中です。あなた達お昼に食べたよね? 恥ずかしいから、ハムスターみたいに両頬を一杯に頬張るのはやめて!


 ミストレティシアさんはまだ、ジャブが打ちたらないようで話題を変えてくる。



「最近、貴族の間で猫を飼うのが流行っているらしいわ。どうやら、王妃とお姫様がとても可愛らしい子猫を飼っているそうよ。男爵様は知ってらして?」


「み~」


 ミーちゃん、答えなくても良いよ。ミストレティシアさん、なんて白々しい。わかって言ってるのが見え見えです。



「えぇ。王宮で偶然お会いしましたが、とても可愛らしく行儀の良い子猫達でしたね」


「み~!」



 みんなのお姉ちゃんとしては鼻高々なミーちゃんです。



「そんな中、もの凄く可愛い白い子猫を連れた若者が、王都に居ると貴族の間で噂になっているのをご存知?」


「み~?」



 げっ、マジですか……。勘弁してください。闇ギルドに目を付けられているだけでも厄介なのに、貴族にまで目を付けられるなんて……ん?


 別にミーちゃんのことじゃなくても、もう既に貴族連中から目を付けられているじゃない? 俺って。


 なんだ、デフォルトじゃん! 良かった良かった。



「そうなんですか。流石ミーちゃんだね。世界中の人々をメロメロにしちゃえ」


「み、み~」


「……」



 テレるミーちゃん、可愛いです。流石、みんなの癒し系アイドルです。ミストレティシアさん、どうしました?



「……男爵様。いえ、ネロ君。わたくし疲れましたわ。本題に入ってよろしくて?」



 必殺アッパーでノックアウト勝ちかな?


 本題? もちろんOKです!



「み~」



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