348神猫 ミーちゃん、違う意味で二度うるうるします。

「叔父さま?」


「み~」



 そう、クリスさんとラルくんの叔父さんです。



「お母さまの訓練についていけず、修行の旅と称して逃げ出したという、叔父さま?」


「ぐはっ……」


「みぃ……」



 姪の言葉で膝をつくグラムさん。



「ドラゴンなのに炎のブレスが吐けない、叔父さま?」


「ぐ、ぐはっ……」


「みぃ……」



 膝だけでなく両手もついてうなだれるグラムさん。



「お父さまがあいつのような駄竜だけにはなるなよと言っていた、叔父さま?」


「くっ、殺せ……」


「み、みぃ……」



 俺には見える。血の涙を流しているグラムさんが……。


 しかし、流石烈王さんの娘。俺達ではほとんどダメージを与えられなかったグラムさん相手に、的確なダメージを与えている。それも、聞いているこちらが悲しくなるほどの情け容赦ない攻撃。


 ミーちゃんが、もう、やめて……これ以上苦しませないで~って、涙ながらにうるうると訴えてる。ミーちゃんの下僕とはいえ、眷属。優しいミーちゃんは見ていられなかったようだね。


 そんな俺達の所にラルくんとルーくんがやって来て、うなだれるグラムさんを不思議そうに見ている。


 四つん這いになっているグラムさんを見て、ラルくんとルーくんは一緒に遊んでくれると思ったらしくグラムさんの背中に飛び乗ったりして、じゃれつき始めた。



「シュトラール。お母さまに知らないおじさんと遊んじゃ駄目と言われたでしょう」


「きゅ……」


「た、頼む。もう、一思いに殺してくれ……」


「がう?」


「みぃ……」



 パリーンっとなにかが砕ける音が聞こえたような気がした。おそらく、グラムさんのハートだね。



「まあ、この辺で許して差し上げますわ。叔父さま」


「……」



 目が死んでるね。グラムさん。



「ミーちゃんとネロさんの所に居ると言う事は、お父さまは既にご存知なのでしょうね?」


「み~」


「どういう経緯いきさつでミーちゃんとネロさんに仕える事になったのかは知りませんが、ミーちゃんはお父さまに格上と言わしめたお方。ネロさんはお父さまが認めたご友人。まかり間違っても、お二人に無礼は許されません。おわかりですね。叔父さま」


「う、うむ」


「それから、もちろんお母さまへの帰還のご挨拶は済ませたのでしょうね?」


「……」



 なんかヤバい雰囲気。ミーちゃんからも助けてあげて~と目で訴えかけられる。



「グラムさんにはずっと俺達の護衛をしてもらっていたから……そこまで考えが至らなくてごめんなさい」


「ネロさんが謝る必要はありません」


「ですけど……」


「本当のことを言うと、お父さまから叔父の話は聞いていて、厳しく対応しろと言われているのです。もちろん、このことはお母さまも周知のことでしょう」


「ま、まじか……」



 怖っ! クリスさん、怖っ! すべて知っていての演技だったのですね……。グラムさん、顔面蒼白なんですけど大丈夫?



「明日と明後日、ヴィルヘルムに行くのでその時に烈王さんの所に寄ってきますね」


「よろしくお願いします。首に縄を付けてでも連れて行ってください。後はお母さまが引き受けるでしょうから」


「……」



 グラムさん、ダラダラと汗をかき始め、震えている。所謂いわゆるガクブルという奴だね。 


 そんなグラムさんの周りを楽しそうに走り回り、グラムさんに元気だせよ~と尻尾でテシテシしているラルくんとルーくん。ラルくんも叔父さんのこと知ってたの?



「きゅ~?」



 知らなかったようだね……。


 うなだれているグラムさんは放っておいて楽しい食事会は続き、天丼とカツ丼もすべて完食。何気に、グラムさんはうなだれたまま、涙を流しながら天丼とカツ丼を完食している。


 そしてある意味、今日のメインディッシュの登場です!


 ガラスの皿にバニラアイスを載せみんなに配る。見た目もさることながら、ほの香に香るバニラビーンズ特有のなんとも言えない甘い香り。みなさん興味津々のようです。


 果汁のアイスキャンディーは見慣れているけど、バニラビーンズと砂糖、生クリームの高級食材をふんだんに使って作ったアイス。正直、これを売るとしたらいくらぐらいの値段を付けて良いのかわからない程の高級品。


 そのことをみんなに言うと恐縮して食べないだろうから言わないでおく。お金の事など気にしないで、美味しく食べて欲しいからね。



「「「甘~い!」」」



 女性陣から歓喜の声があがる。ルーくんとラルくんもペロペロと一心不乱に舐めている。残念ながらベン爺さんは甘い物が苦手なようで、いつものようにルーくんとラルくんのお皿に分けてあげている。


 そんな中で一人険しい表情の人が居るんだよねぇ。ルーカスさん、どうしました?



「ネロ様。流石にこれは我々使用人に与える範疇を超えています」



 ルーカスさんはこのバニラアイスの希少価値に気づいたようだ。ルーカスさんの言葉でみんな食べるのをやめてしまった。ルーくんとラルくん、それに、レティさん以外ね。レティさんはおかわりまで要求してきている。



「そんなことはないですよ。みなさんには感謝してもしきれない程、頑張ってくれています。これは俺のみなさんへの感謝の気持ちを現したものなので、楽しんで食べてください」


「我々は果報者です。使用人を人として見ない主も大勢居る中、ネロ様は同じ食事を同じ食卓で一緒に食べてくださる。そして、このような王侯貴族でさえ食べられるかどうかという程の食事を、惜しみもなく使用人に与えてくださる……」


「み~」



 いやぁ~ん。それほどでも~って、なんでミーちゃんが答えているのでしょう?



「ですが、貴族としては失格です。貴族になった以上、人の上に立つ心構えと威厳を持って頂きたい。と、厳しいことを言いますが、追々身につけて頂きましょう。ネロ様は貴族としては未熟ですが、人としては素晴らしいお方です。そのお優しい心を今後も忘れずにいて頂きたいです。我々、使用人一同は一丸となってネロ様を支えていく所存です」



 みなさんうんうんと頷いてくれています。


 なんか、鼻の奥がツーンとしてくるじゃないですか……。



「み、みぃ……」



 ミーちゃんも、目をうるうるさせてみんなにコクコクと頷いています。


 さあさあ、みなさん溶けないうちに食べてください。おかわりもありますよ?



「み~」







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