330神猫 ミーちゃん、たらい怖いです。

 食事も終わり一息ついたところで最下層を目指す。


 先程、グラムさんと戦った場所に着いた時、ルーさんが何気に拾った石を見つめている。



「なあ、ペロ。これってエナジーコアじゃね?」


「ほんとだにゃ。ルーにぃの足元にいっぱい落ちてるにゃ」



 雪の上に落ちている只の石だと思っていたら、ほとんどがエナジーコアみたいだね。どうやら、グラムさんが烈王さんに地面に叩きつけられた時の衝撃で、周りの雪が吹き飛びそれと一緒に飛んできたようだ。



「コアは食っても美味くないからな、その辺に捨てた奴だ。欲しいのか?」



 グラムさんの食事の食べ残しらしい……コアって美味しくないんだね。



「み~」



 グラムさんがスキルを使ってこの辺一帯の雪をどかしてくれた。氷スキルなかなかに便利だ。周りを凍らすだけでなく、氷や雪を自在に操れるみたいだ。まあ、使いどころが難しいスキルだね。余程、熟練しないと攻撃には使えそうに無い。氷竜だからこその力技だろう。


 ペロ達は潮干狩りのようにエナジーコアを拾い集め、ミーちゃんバッグに収納していく。



「楽して稼ぐ、最高にゃ!」


「僕達って結構、お金持ちになったんじゃないですか?」


「金は天下の回り物。あぶく銭は、ぱぁーっと使っちゃおう!」


「姉さん……貯金しようよ」


「これで旨い酒が呑めるっすね。ジンさん」


「……あぁ、そうだな」



 ジンさん、さっきからずっと元気がない。はどうしたんだろう? 今さら二日酔いって訳でもなさそうだし。もう、ジンさんの手を煩わせる場面もないから休んでいてもらっても大丈夫だ。


 それにしてもエナジーコアの量が凄い。ペロ達が集めて山になっては、ミーちゃんバッグに収納するを何度も繰り返している。何百年分の食べ残しだからどんどん出てくる。ギルドに卸したらいくらになるんだろう。ウハウハだね。



「み~」



 小一時間程頑張って集めてやめる事にした。大方のエナジーコアは集めただろう。細かく散らばっているのは探すのが面倒なのでパスすることにした。


 最下層に続く道を皆、無言で歩く。足元が新雪なので歩き難いせいだけではなく、いささか緊張しているようだ。この最下層を終えれば迷宮探索は終了となり、また忙しい毎日が待っている。


 大変だった事、苦労した事、色々あるけど皆で協力して迷宮探索を成し遂げる事は良い経験。そして何よりも代え難い皆の楽しい良い思い出になるだろう。もちろん、これからのミーちゃんの長~い猫生の中でも輝ける良い思い出となることは間違いないね。



「み~」



 そびえ立つ雪山の崖に最下層に続く道があった。緩やかな下り坂が続き五百メル程進んだところで金属でできた扉に行き着く。大きな扉で縦三メル横二メル程ある重厚な扉だ。装飾は無く輪っかの取っ手が付いてるだけのシンプルさ。最後の扉にしてはちょっと物足りなくありません?



「開けるにゃよ?」


「み~」



 ペロ達とルーさんとで扉を引っ張って開こうとしたけどびくともしない。



「鍵でも掛かってるのでしょうか?」


「でも、鍵穴無いよー」


「ルーにぃ、にゃんか仕掛けはないかにゃ?」


「うーん、見当たらねぇ」



 ここまで来て、今度は謎解きですか? ヒントは何処いづこ



「み~!」


「押すにゃか? 姫」



 ははは……まさかね?



「開いたにゃ!」


「開きましたね……」


「コントだー。たらいはどこー?」


「みっ!?」



 ミーちゃん、たらいは落ちてこないから、そんなに慌てなくて服の中に隠れなくても大丈夫だよ。服の中のミーちゃんに当たる前に、確実に俺に当たるから……。まあ、落ちてこないと思うけどね。もし落ちてきたらそれを仕掛けた奴は、日本から転移して来た奴に違いない。それも昭和の時代から来たのは確実だ。


って、ミーちゃん、お幾つ?



「み、み~」



ミーちゃん、猫は口笛吹けないよ。


 ペロ達が扉を抜けると……たらいが三つ落ちてきて、ペロと宗方姉弟の頭にヒットした……日本人が居るのか?



「痛いにゃ……」


「心がですけどね……」


「大爆笑?」



たらいは三つだけのようで他のメンバーは普通に扉を通って中に入る。そこは広い円形の空間になっていた。今まで通って来た迷宮内部と違い、明らかにオーパーツ的人工物を思わせる作り。壁は一切のでこぼこが無い金属的な光沢の壁。足元は何故か歩くと波紋が現れる深い蒼色の水面みなもを思わせる床。そして、見上げて見れば一面の星空。



「綺麗だにゃ……」


「本当ですね……」


「ロマンチックー」


「み~」



 ミーちゃんもたらいが落ちてくる恐怖も忘れ、俺の服から顔を出してうっとり顔で星空を見上げてる。


 日本と違ってこちらの夜空は空気が澄んでいるしネオンなんてものが無いから、普段でも綺麗な星空が見られる。こっちに来て始めて星空を見た時は、自分が宇宙の中にいると錯覚を覚える程感動したものだ。だけど、今見ている光景はそれを遥かに超える幻想的なもの。時間と共に星空が変わり、天の川のようなものが現れたり超新星爆発の瞬間が見られたりと星々の一生を見ている感じで、ずっと見続けても飽きないと思う。と言うよりずっと見ていたい。


 皆も時間を忘れて見上げたまま動かない。



「み~」



 ミーちゃんの鳴き声で、ふと我に返ると今までと違う雰囲気に気が付く。


 なんだ、この感じ? 何と言うか、ねっとりとした物に体を覆われ、身体が重いと言うか動き難い感じ。ちょっと息苦しさも感じる。危険なのかと思うけど、直感スキルは何も反応していない事から危険ではないのだろう。


 良く見れば俺とミーちゃん以外完全に動きが止まっていて、皆身動きどころか呼吸さえしてないように見える。何が起きてるか、さっぱりだよ。


 ミーちゃん、大丈夫? 苦しくない?



「み~」





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