331神猫 ミーちゃん、お茶を飲む。

「せっかく捉えたドラゴンを解放されるとは……君達は何か私に恨みでもあるのか」



 俺とミーちゃん以外動いていないこの空間に急に現れ、普通に動いてる所をみるとこの管理者がこの空間を支配しているんだろう。


 以前、烈王さんが時間を止める事は神敵となるくらい、やってはいけない事と言ってたけど良いのかな? 神人だから許されるのだろうか?



「み~?」



 いつの間にか目の前にテーブルと椅子があり、お茶が用意されている。



「まあ、座りたまえ。立ったままでは疲れるだろう」


「それでは、お言葉に甘えて失礼します」


「み~」



 椅子に座り、ミーちゃんをテーブルの上に座布団を置いてから乗せてあげる。管理者も椅子に座りポットからカップにお茶を淹れ始める。


 こうしてじっくりと管理者を観察してみると、違和感が半端ない。迷宮の中でスカウトに扮していた時には、別の場所で会っていたら普通にハンターだと思ってしまうほどそれらしかった。


 今はどうかと言うと、普通の人としか言いようがない。どこにでも居る壮年って感じの姿。なんだけど、掴みどころがないと言うか存在自体があやふやな感じなのに、管理者から発せられる気はしっかりと意識を保っていないと飲み込まれそうになるほどの強大さ。


 かと言って、恐ろしい訳ではなく俺なんかとは確実に次元の違う存在感の強さと言う感じかな。


 着ている服は白と言うより銀に近い色のポンチョ? 貫頭衣的な物とズボンを履いている。昔のSFに出てくる宇宙人をちょっとだけ連想してしまった。



「まあ、飲みたまえ」



 管理者が差し出してきたティーカップからは、どこか懐かしいほのかに甘い香りが漂ってくる。ミーちゃんの前にもほのかに甘い香り漂うお茶が入った皿が出される。


 ミーちゃん、全く疑う事なくチロチロとそのお茶を飲み始めた。ちょっとびっくり。



「どうやら、お気に召したようだな。やはり使徒だな。この味を知っているようだ」



 今さら疑ってもしょうがないので、俺もお茶を飲むことにする。うーん、美味しい。でも、どこかで飲んだ事があるお茶だ。黄金色で甘みとほんの少しの渋み。そう、これは……。



「甘茶だ」


「ほう。君もこれがわかるのか。やはり同胞の子孫か?」



 思い出した。小さい時、お寺が経営する幼稚園に通っていたので、四月にお釈迦様の誕生を祝う花祭の時に、お釈迦様の像にかけていたのがこの甘茶だ。甘くて美味しいのだけど飲み過ぎるとお腹を壊すって言ってたな。



「小さい頃に飲んだ記憶があります」


「このお茶は神界で良く飲まれていたものだ」


「み~」



 なるほど、だからミーちゃん全く臆する事なく飲んだんだね。懐かしかったのかな。確か甘茶の原料ってアマチャって言う紫陽花の変種だった記憶がある。探せば見つかるかな? 忘れたけどなんかのツルも同じような甘茶になるって、何かで読んだ記憶がある。思い出せないけど……。



「さて、君は何者だ? 一緒に居るその使徒もな」


「俺はネロ。こっちはミーちゃん。俺は異世界から来ました。ミーちゃんはその時に一緒についてきた神の眷属です」


「異世界? 勇者と言う事か?」



 ミーちゃん、いつの間にかミーちゃんクッキーを出してカリカリと食べてます。管理者の話を聞かなくて良いの?



「み~」



 ネロ君にお任せ~って、それで良いのか、ミーちゃん!


 しょうがないので、管理者にもミーちゃんクッキーをお裾分けする。



「俺は勇者じゃないですよ。そんな使命は帯びてません」


「では、何故この世界マヤリスに居る?」


「マヤリス?」


「この星の名だ」


「いろいろ事情があるんですよ」



 管理者は微妙な顔つきになっている。



「ちなみに、貴方のお名前は?」


「我々神人に名は無い」


「へっ?」



 何とも間抜けな声を出たな。俺だけどね。でも、名前が無いって不便じゃないの? どうやって声を掛け合っているんだろう?



「不思議か? 我々は神人同士なら声を出して話す事は無い。思念伝達で話をするのだ。個であろうと多であろうと問題無い」



 テレパシーって奴ですか……神人はエスパーか! まあ、神様もテレパシー使ってたからな。それ程珍しくもないのかもしれない。ある意味、ミーちゃんとの会話もテレパシー的なものだしね。



「み~」



 それにしても、甘茶が美味しい。是非とも探し出して神猫商会で扱いたい。ウハウハ間違いない。



「君をこのマヤリスに送った神は誰だ?」


「向こうの世界の神様です。この世界の神様と姉妹って事らしいです」


「そうか……あのお方はもうこの世界の神ではないのだな……」



 あの方ってのが誰なのか知らないけど、確か今のフローラ神の前はフローラ神のお父さんって言ってたような? あのお方ってのが更にその前の神様かもしれないから余計なことは言わないでおこう。



「神が勇者をこの世界に何度か送っていた事は知っている。その神に送られて来た君が勇者ではないのが、不思議だ」


「そんなに珍しいことじゃないと思いますよ。全くの偶然でこの世界に繋がる道を通って来てしまった人も居ますし、スキルの力によって無理やり連れてこられた人も多いと聞いています」


「スキルだと!? 今の神はそれを許しているのか!」



 いえ、許してないですよ。宗方姉弟達を呼んだ人は神罰が下る前に力の使い過ぎで死んだし、地球の神様が開いた道でさえフローラ神が怒って閉じちゃったからね。お陰でミーちゃん神界に帰れなくなっちゃったもんね。



「みぃ……」





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