315神猫 ミーちゃん、迷宮で謎の男に会う。

「た、助けてくれ!」



 スカウト風の男が迷宮の奥から走って来て助けを求めてくる。明らかに怪しい。



「奥でモンスターに襲われて窮地に陥っている! 助けてくれ!」


「にゃにゃ! にゃん援隊出動にゃ!」


「「おぉー!」」


「にゃ!」


「み~?」



 おいおい、君達……って、ジンさんとルーさんもどこ行くのよ? レティさんまで……どうした?



「ネロ! 何してるにゃ! 助けに行くにゃ!」



 助けに行くってねぇ……ねぇ? ミーちゃん。



「みぃ……」



 誰を助けに行くつもりだい? ペロさんや。この迷宮に居るのは獣人の方達を除けば俺達しか入ってないんだよ? ここにハンターが居る訳ないじゃん。


 ペロ達だけならいざ知らず、ジンさんにルーさん、レティさんまで普通に助けに行こうとしているのはおかしすぎる。何かあるのではないかと思い、鑑定でペロを見ると催眠状態と出ている。


 なるほどね、そう言う訳でしたか。


 ペロにミーちゃんのミネラルウォーターをぶっ掛ける。



「にゃ、にゃにするにゃ! ……にゃ?」



 ペロは何とも愛らしい仕草で、周りを不思議そうに見渡して首を捻ってる。どうやら、正気に戻ったようだ。試しにやってみたけど、催眠状態にもミネラルウォーターは効くんだね。まじ、万能。


 他のメンバーには有無を言わさず無理矢理ミネラルウォーターを飲ませる。皆、呆けた顔になってる。



「ど、どうしたんです? このままだと、仲間がモンスターにやられてしまいます。助けてください!」


「茶番はもう十分ですよ。催眠は皆解けてますから」


「み~」



 男の顔が急に能面のような無表情に変わり俺を見つめてきた。



「私の催眠が解かれたとは……面白い」


「てめぇ、何者だ?」



 ジンさん、ドスの利いた声で謎の男に問いかけるが、男はどこ吹く風と言った感じのまま俺を見ている。



「そこの若者には最初から効いていなかった? 非常に興味深い」



 何か自分の世界に入っている感じ? 人の話をまったく聞いていない。



「怪しい奴にゃ!」


「にゃ!」



 痺れを切らしたペロとセラが、謎の男に攻撃を仕掛けた。ペロとセラの俊敏性を持ってすれば、この距離ならば切り刻まれ瞬殺になるはず。



「「にゃ!?」」



 本来ならそこには切り刻まれた男の屍があるはずなのに、何故かペロとセラが男に踏みつけられてる姿がある。why~?



「み~?」


「にゃ、にゃぜにゃ~?」


「にゃ~?」



 謎の男はペロとセラを踏みつけたまま、まだ考え事をしている。いったい何が起きた? ジンさとレティさんに謎の男の動作が見えたか尋ねると、二人共首を横に振った。



「何をしたかまったくわからねぇ。化け物か?」


「気付いた時にはあの状態だったぞ。少年」



 そう、俺もまったく見えなかった。ペロとセラの動きはなんとなく見えてたのに、ペロとセラが謎の男に近接した瞬間あの状態になっていた。それは、最初からその状態であったかのようにさえ思えるものだった。


 謎の男を鑑定してみるけど、何も見えない。何も見えないと言うのは初めてだ。普通は何らかの情報が得られるはずなのに、そこに何も無いかのようだ。そう、蜃気楼や幻影でも見ているかのよう……。



「幻影……?」


「ほう。ますます興味深い」



 謎の男に値踏みするかのように見られるうちに、段々とこの謎の男の正体に見当がついてきた。



「貴方はこの迷宮の管理者ですか?」


「そこに行き着くか……君は何者だね? 我らの同胞のようにも感じられるが……いや、違うな」



 謎の男は何かに行き着き、そして、自らその答えを否定したようだ。何が何だかさっぱりだよ。


 俺以外のメンバーは俺とこの管理者のやりとりにチンプンカンプン。元々、この世界では迷宮に管理者……ダンジョンマスターは居ないと言う事なので仕方がない。宗方姉弟は気付いても良いと思うのだけど、君達に期待する俺が悪いのだろうか。



「管理者、自らお出でとは何か不具合でも?」


「不具合と言う程でもないが、いろいろあるのだよ。それに、久しぶりこの地を訪れた者達に興味があった」



 確かに二百年ぶりのお客さんになるのだから興味もでるかも。でも、それは二百年もの間、迷宮を閉ざしていたからじゃないのかな? と思った時にはたと気付いた。



「迷宮が地上に出てこなかったのが不具合?」


「君は……やはり同胞か? 或いは星の外に出た子孫なのか? まあ良い。本来であれば君達を罠に嵌めて終わりにするつもりだったが、気が変わった。最深部まで来たまえ。さすれば、多くの知識と宝物を授けよう。来れればの話だが……」


「下知は頂きましたよ。我々の目的も最深部に行く事なので、何ら問題もありません」


「そうか……ならば、奥で待つとしよう。時間はいくらでもあるのだから」



 そう言って管理者はゆっくりと消えていった。何とも、思わぬ収穫。やはり管理者は存在したのだ。聞きたい事が山ほどある。下降気味だったやる気が、一気にMAX状態になったね。



「よーっし! 最深部目指して頑張るぞ!」


「み~!」






「って、待てや! ネロ! 何が何だかわからねぇぞ! 説明しろや!」



 えぇー、面倒くさいんですけど……。



「ひ、酷い目にあったにゃ……」


「にゃ……」



 地べたに組み伏せられてたペロ達が宗方姉弟に助け起こされている。しょうがない、皆、集まれ~ミーティング始めます~。



「み~!」









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る