305神猫 ミーちゃん、パルちゃんにおさがりをあげる。

 結局、女性陣が満足したのはあれから二つの鐘の音が鳴ってからだった。


 ペロとトシは薄情にもギルドのサイクスさんの所で待っていると言って、ジンさん達が居なくなった後を追うように出ていった。


 なにもする事がないので椅子に座って考え事をする。


 明日から二日間は迷宮に行くのはお休みにする事になっている。明日の夜はセリオンギルド長が『グラン・フィル』で夕飯をご馳走してくれる事になっているので、日中は王都の家に一度戻ろうと思う。ミーちゃんバッグにある高級肉オークのお肉も卸して来たい。


 フォルテやレティさんに任せている孤児院の方も気になるし、フォルテとニクセにも顔を出したい。ヴィルヘルム支店にも行かないとね。ニクセを任せているリンガードさんと相談して、獣人さん達の村の位置も決めてこないといけないね。ブロッケン山の街道整備の進捗状況も見て来ないと。烈王さんに時空間スキルの訓練もしてもらわないといけないね……。


 困った……時間が足りない。体が二つあればなぁ。


 みんな満足したようなので、共同浴場を出てペロ達の待つギルドに向かう。



「こ、これはなんですか!?」


「み~?」


「みゅ~?」


「サイクスにゃんの奢りにゃ!」



 奢りと言うのはサイクスさんに安くオーク肉を譲ったお礼だろう。先に共同浴場から出て行ったジンさん達も居る。居るのは良いのだけれど、この宴会騒ぎはなんですか? 暗闇の牙の皆さんも居るのは何故?



「明日と明後日。ジクムントさん達とオーク狩りに行く事になってな」


「その前祝いさ!」



 暗闇の牙のリーダー豹ミミのケヴィンさんと虎ミミのラウラさんが嬉しそうに答えてくれた。他のメンバーも嬉しそうな顔をしてジョッキを掲げてくれる。


 まあ、休みだから自由にして良いけど俺とミーちゃんは行かないよ。狩ったオークはどうやって運ぶの?



「「収納スキル取りました!」」



 宗方姉弟が収納スキルを覚えたようだ。ジンさんの鬼ちくぅ……愛の鞭による訓練で更に魂の器が大きくなっていて、もう一つスキルを覚えられるようになっていた。何を取るか迷っていたようだけど収納スキルと雷スキルを取ることに決めたようだ。


 暗闇の牙のメンバーも何人か収納スキル持ちだし、ジンさんも持っている。ペロも猫袋と言う収納スキルを持っているので、そこそこ持って帰れると言う事だろう。その場で解体してお肉だけ持ち帰っても良いしね。できれば、武器防具類は持ち帰って欲しいな。鋳潰してゼルガドさんに新しい物を作る為の材料にしたい。


 宴会騒ぎの中、セラと一緒にフェルママもご相伴に預かっている姿を見つけたパルちゃんが、俺の腕の中から飛び出して行った。



「みゅ~」


「にゃ~ん」



 その姿はあたかも今日の冒険譚をフェルママに聞かせているようだ。そんなフェルママは、はいはいといった感じでパルちゃんをペロペロしてあげてる。


 ミーちゃんとパルちゃんにミーちゃんの猫缶を出してあげ、俺も食事の中に加わる。



「明日の夜はセリオンギルド長と食事なのを忘れないように」


「サイクスにゃんのおじいちゃんの店にゃ!」


「み~」



 おじいちゃんではなく師匠だからね。ペロくん。ミーちゃんもね。



「そうなのにゃ?」


「みぃ……」


「『グラン・フィル』かぁ。一度は行ってみたいな」


「あそこは誰かの紹介じゃないと入れてもらえないからねぇ」


「値段も俺達じゃ、ちょっとな……」


「「だね……」」



 どうやら暗闇の牙のメンバーは『グラン・フィル』に行ったことがないようだ。セリオンギルド長に連れて行ってもらうか、サイクスさんに頼めば良いんじゃないですか?



「セリオンギルド長には何度か食事をご馳走になっているが、『グラン・フィル』に連れて行ってもらったことはない」


「ネロ。あんた達が特別なんだよ」


「サイクスに頼むのもなぁ」


「ネロ君と違って、ここのハンターはサイクスの事を馬鹿にしてたから……」


「今さら頼めねぇよ」



 そうなんだ……最初に会った時のサイクスさんは確かに取っ付き難そうだった。深く付き合わないと味がでないタイプだからね。でも、ちゃんと話をすれば良い人だったし真摯に料理に向き合っている料理人だ。



「素直に謝って紹介してもらったら?」


「み~」


「「「「「……」」」」」



 みんな黙っちゃったよ。変なプライドなんか捨てれば良いのに。後は知らん。


 食事も終わったので王都の家に戻ろうとミーちゃんを抱っこしようとすると、パルちゃんがイヤイヤしながらミーちゃんから離れようとしない。お姉ちゃんと離れたくないよ~って感じ。ミーちゃんちょっと困り顔になりながらも、ペロペロとパルちゃんを宥めている。


 明日、明後日は危険な所に行く予定はないので連れて行っても良いけど、柱の陰でハンカチを噛んで恨めしそうにこちらを見ているエバさんを見てしまうと、連れて行くとはとても言えない……。


 パルちゃんには悪いけど今回は我慢してもらうほかないね。代わりに、いつもミーちゃん愛用、ミーちゃんの匂い付き猫に小判クッションをあげた。パルちゃん、スンスンと匂いを嗅ぐとニパっと笑顔になってクッションにダイブする。


 少しはご機嫌が治ったかな?



「み~」




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