269神猫 ミーちゃん、惚れちゃいますよ。

 神剣が使えないのでは仕方ない。護国の剣を出しますか……冗談です。王様に差し上げたものを使う訳にはいかないよね? 冗談だってばよ! レティさんが剣に認められたら大変な事になるからね。やらないよ?



「この護……いや、冗談です。こっちならどうですか?」


「みぃ……」


「ん?」



 レティさんに渡したのはメイルブレイカーとなっている剣。剣には違いないけどエストックだ。突き特化の大きな針だと言えばわかるかな? プレートメイルでさえ貫く威力を持っている、恐るべき剣だ。



「これは良いな、私向きの武器だ。少年」


「ただそれだけだと、防御に不安があるのでこれもどうぞ」



 ソードブレイカーって事になってるけど、防御用の短剣だね。レイピアとかサーベルを使っていたヨーロッパで発達した武器で基本二刀流で使う。レイピアなどは折る事が可能だろうけど、幅広の剣ブロードソードや大剣などの剣撃をまともに受けたらひとたまりもないと思う。そう言った剣の場合は受け流しになるので、レティさんの技量次第となる。レティさん興味深げに手に取り使い心地を確かめてる。



「手を守るようにもにゃってるんだにゃ。ペロも欲しいにゃ!」


「うーん、この一本しかないんだよね。今度、ゼルガドさんに作ってもらうよ」


「おぉー、いかれ頭のおっちゃんにゃ! クイントに居るんだったにゃ」


「み~」


「「いかれ頭?」」


「腕の良いドワーフの鍛冶職人なんだけどね。考え方が斬新過ぎて常人がついていけないんだ。蒸留器の作成と調整を頼もうと思って、今回神猫商会にスカウトして来た」


「み~?」



 ミーちゃんがいつの間にスカウトしたの~? って、顔してるね。ミーちゃんがハンターギルドでファッションショーを開催していた時だよ。



「み~」 



 宗方姉弟はゼルガドさんに興味があるようだ。



「天才って事ですか?」


「ドワーフ、まだ会った事ないよ~」


「拡声器を発明したしこの銃を造ってくれたのも、いかれ頭のゼルガドさんなんだ。興味を引けば寝ずに作ってくれるから、欲しい物があったら言ってみると良いと思うよ」


「み~」


「「おぉー」」



 レティさんの準備も整ったようなので探索を再開する。先行して索敵していたルーさんが戻り、この先も一本道で少し行くと広場になりオークが五体いると報告してくれた。今度はジンさんも攻撃に参加するし、レティさんが本気を見せると言っているので期待しよう。



 先制攻撃で一体のオークの目を撃ち抜く。それでもまったく怯む事なく雄叫びをあげ向かってくる。死と言うものをまったく恐れていない。迷宮のオークが特別なのか、それともこれがデフォルトなんだろうか? デフォルトだとしたらなんて厄介な相手だろう。ロタリンギアはこんなモンスターを相手にして戦っている事になる。ムカつく国だけど結構な軍事力を持っているようだ。



 こちらに向かって来ているオークに悠然と前に進み出る二人、何とも心強いお姿。惚れちまうやろー!



「み~!」



 と、ミーちゃんが言ってます。ミーちゃんに惚れられるなんて、なんて果報者。



「良く見とけよ。ガキ共!」



 ジンさん愛刀の大剣を無造作に構え、オークが近寄るのを待つ。対して、レティさんは目の前にレティさんの姿はあれど、そこに本当に存在してるのか? と思わせるようなあやふやさを感じさせる。


 オークが薙ぎ払うようにジンさんに向け巨大な大剣を振るう。ジンさんは右手に持った大剣をやや右肩に背負うような変わった構えをとる。オークの大剣がジンさんの斜めに構えられた大剣に滑るように受け流され、態勢を崩す。態勢を崩したオークの左脇腹からジンさんの大剣が振り抜かれ、真っ二つ。グ、グロいね……。


 レティさんを襲うオークは巨大な斧を持っている。動きが鈍いオークとは言え、あんな巨大な斧を目の前で振り上げられたらそれだけで足がすくんでしまうと思う。オークがレティさんの前に来て、その巨大な斧を振り上げそして振り降ろされるが……レティさんは避ける素振りすら見せない。巨大な斧が地面を穿つ音がして、誰もがレティさんが半分こになったと思ってしまう。そんな巨大な斧を振り降ろしたオークのいやらしいニヤケ顔が驚愕の表情に変わった。


 オークの斧はレティさん左側の地面に食い込み、オークの背中からはエストックの先が見えている。正直、目の前で見てたのに何が起きたかわからない……。オークの巨大な斧はレティさんを半分こにしたように見えた。見えたけど次の瞬間にはオークの右半身横の方に居て、エストックが既に刺さっていた。何が起きた? スキルなのか、技なのか? わからんねぇ。



「み~?」



 二人の桁外れの戦いを見て、みんな奮起したようで果敢にオークを攻め立てる。俺は何もしてないけどね。ミーちゃんと一緒に応援に回ってます。頑張れー!



「み~」



 ジンさんの攻撃参加とレティさんのちょっとだけ本気の攻撃のお陰で、四体のオークは簡単に沈む。残り一体は宗方姉弟の訓練用らしい。鬼だ……。



「勝てる気がしませ~ん!」


「帰りたいよ~! モフモフしたいよ~!」



 しょうがない、カオリン終わったらミーちゃんをモフモフする権利をあげよう。


 ミーちゃん、え!? って顔してます。



「み、み~」







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