270神猫 ミーちゃん、クッキーを食べながら観戦します。

 宗方姉弟の相手に選ばれたオークは仲間が倒されたと言うのに、ニタニタと笑って二人を見ている。凄腕のジンさんもレティさんも、一歩後ろに下がっているのでオークの前に居るのは宗方姉弟だけ。二人は勇者の素質は持っているけれど、今はまだオークより格下でしかない。オークもそれがわかっているのだろう。


 宗方姉弟にとって今度の相手はフル装備の格上、さっきのようにはいかないと思う。実戦に勝る経験は無いとは言うけれど、一歩間違えば大怪我では済まない。まあ、薬学機関のパトリック所長に貰った最上級ポーション(劣化)があるから即死じゃない限りなんとかなるはず、腕を切られてもくっつくって言ってたしね。


 トシはオークの巨体から放たれる威圧感にへっぴり腰、カオリンもどこを狙えば良いかわからない状態。オークの装備してる鎧のつなぎ目が鎖で保護されているので矢が通らない。地肌が出ているのは、顔と頭、手のひらくらいだ。本当に良い装備をしている。二人は完全に攻めあぐねてる。


 ただ、オークも攻めに転じられていない。ジンさんの場所取りが良いせいでオークはジンさんが気になり宗方姉弟に集中できずにいるようだ。



「どうした! 突っ立ってるだけだと、いつまで経っても終わらねぇぞ!」


「どうやって戦えって言うんですかぁ……」


「矢の当たる場所が無いよ~。ヒントプリ~ズ!」


「それを考えるのも経験なんだろうがよ!」


「「そんな~」」


「ちっ、仕方ねえ。オークはその巨体の割に脚が細せぇ。以上だ!」



 確かにオークの体系は相撲で言うあんこ型だ。巨漢のお相撲さんはよく膝を悪くすると聞いた事がある。そう言う事なのかな?


 宗方姉弟も俺と同じ考えに至ったのか、カオリンがオークをけん制してる間にトシがオークの膝に攻撃を加えていく。これが勇者の戦い方か? ってな感じで、ちまちまと攻撃を重ねているけどオークの様子を見る限り効いているようには見えない。ジンさんは何も言わない。見ているこっちが正解なんだろうか? って思ってしまう。


 ペロとセラそしてルーさんまでがドライフルーツを暢気に食べてるし。俺もミーちゃんクッキー食べようかな? ミーちゃんも食べる?



「み~」



 ミーちゃんカリカリ、俺ポリポリ、レティさんが羨ましそうに見てるけど、レティさんは宗方姉弟になにかあったら救援に向かう役だから駄目ですよ。


 ミーちゃんクッキーは美味しいけど食べると喉が渇くよね。ミーちゃん、ミネラルウォーター飲む?



「み~」


「ペロも喉が渇いたにゃ」


「にゃ」



 なんか宗方姉弟の方から殺気の籠った視線を感じるけどスルーしよう。プハー、五臓六腑に染みわたるねぇ、生き返るようだ。万能薬だけどね。


 ペロ達もゴクゴク遠慮なくミネラルウォーターを飲んでいるのを、引きつった顔でルーさんが見ている。飲みます? プルプル首を振って自分の水筒の水を飲んでる。気にしなくて良いのにね。今では一日に二十本はミネラルウォーターを召喚できるようになっている。ミーちゃんバッグの中には数えきれない程のミネラルウォーターがストックされている。数本出してヒーヒー言ってた頃が懐かしいよ。


 なんて事考えてたら、オークが地面に片膝をついた。ちまちまでもダメージは蓄積していたようだ。宗方姉弟はここぞとばかりに攻撃に出る。オークもなんとか立とうとするけど思うようにいかず、トシに背後を取られて首の後ろ側に強力な一撃を喰らい止めを刺された。



「「つ、疲れた~」」


「六十点ってとこだな」


「き、厳しいです……」


「どの辺が駄目~?」



 トシは強弱、要するにフェイントなどを織り交ぜながら攻撃するように言われている。ずっと同じ力加減で戦ってるそうだ。カオリンはもっとやらしい攻撃をしろと駄目だしされている。前にも言われていたけど、当たらなくても良いので相手の動きを阻害する攻撃をしろと言う事らしい。どこに攻撃されると嫌がるか、相手の次の一手先を読んで攻撃できるようになれだって。


 赤い人が戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ言ってたけど、一手先くらいで良いならなんとかなるんじゃない?



「み~」



 宗方姉弟は恨めしそうにこっちを見て一言。



「喉が渇いたよ~」


「裏切り者」



 何が裏切り者何ですか? 君達の訓練なんだからね。そこんところ忘れないように。仕方ないのでミーちゃんのミネラルウォーターを一本ずつ渡してやる。



「染みわたる旨さだよ」


「プッハー」



 宗方姉弟にはミーちゃんのミネラルウォーターの事はまだ話していない。一本金貨十枚以上の価値があるって言ったらどう言う反応を示すだろう? 日本円に換算すると百万円くらいになるのかな?


 百万円のミネラルウォーター。でもその価値は充分以上にある。大抵の異常状態に効果がある万能薬で少々の傷ならさっらっと治す初級ポーション、そのうえ体力回復効果まであるんだからね。神水なんて呼ばれた事もあるミーちゃん御用達の健康飲料です。



「カオリン、はい」


「ん?」



 カオリンの目の前にミーちゃんをさし出す。



「み、み~」



 ミーちゃん、ちょっと引きつった笑顔で、モフって良いよ……って言ってます。



「ミーちゃん! LOVE~♪」


「み、みぃ……」






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