261神猫 ミーちゃん、ポージングをとる。

 ゼルガドさんは固まって動かない。ジンさんは最後の一滴まで逃さないとばかりにコップを逆さまにして舌を突き出してる。



「流石にここまでのお酒を造るのは時間がかかりますが、最初に飲んだ物だと二、三年で市場に出せると思います。手伝ってくれませんか?」


「手伝える事なんてあるのかよ?」


「蒸留させる装置の設計や製造、組立、調整やる事は山のようにあります。他にも頼みたい事がありますしね。楽しい仕事したくないですか?」


「好きな事もさせてくれるのか?」


「やる事をやってくれれば好きなだけ」


「待遇はどうなんだ?」


「神猫商会の者として働いてもらいます。給料は今と比べれば雲泥の差になるかと」


「家族を呼んでも構わないか?」



 ゼルガドさんに家族って居たんだ。ちょっと不思議。



「神猫商会の本店は王都にあります。ゼルガドさんはあっちこっちに行くと思いますが、それで良ければ王都に家族の方が住む場所を用意しますよ」


「息子達に店を持たせたい」



 息子も居るのね。いかれ頭の息子はどうなのよ?




「腕が確かなら神猫商会で店を作っても構いませんが?」


「本当にそこまでしてくれるのか?」


「この方は五闘招雷のジクムントさんです。証人になってもらうにはもってこいの方だと思いませんか? それでも、信用できないと言うならハンターギルドのセリオンギルド長に証人になってもらっても構いません」


「五闘招雷に英雄セリオンって……ネロ、おめぇ何もんだ?」


「このままの状態を続けますか? それとも新しい道を切り開きますか?」


「ぐっ……よろしく頼む」



 いかれ頭のドワーフ、ゲットだぜ!



 ゼルガドさんと話を詰めていくと、やはり借金があるようです。クイントの職人ギルドから借りてるらしく、返さないとこの街を出ていけないそうだ。この工房も職人ギルドから借りてるのでついでに一切合切返却してしまおう。


 ゼルガドさん本人の物はたいしてなく、必要な物だけ厳選してもらったらトランクケース二つ分に大きめのリュック一つだけだった。残りは職人ギルドで処分してもらう。


 ゼルガドさんと職人ギルドに行き、借金の返済と借家の解約を済ませて宿に行く。昨夜泊まって居た部屋をそのまま明け渡しニ、三日泊まってもらいこの街での用事を済ませてから王都に向かってもらう。



「何から何まで、すまねぇ……」


「その分働きに期待してます」


「おうよ!」



 ゼルガドさんと別れてジンさんと一緒に市場で買い物をしてからハンターギルドに戻る途中、ジンさんずっとさっき飲ませたお酒の事を執拗に聞いてくる。あれは特別なお酒なんですって言っても引き下がらず、金ならいくらでも出すなんて言ってきた。ケツの毛までむしり取ってやろうかなんて思ったけど、あのお酒は本当に貴重なお酒なのでもう少し若いお酒なら譲ってあげても良いと言ってあげた。ジンさん、涙を流して喜んでたね。



 ハンターギルドに入ると、ミーちゃんと美猫親子のファッションショーがおこなわれていた。エバさんあなたまで……。



「み~」



 ミーちゃんがポージングをとる度に黄色い歓声があがる。ミーちゃんがそんな事どこで覚えたのよ……。む、向こうはスルーしよう。そうしよう。


 ランチタイムが終わったサイクスさんと料理を作っていく。一旦、俺が収納して後でミーちゃんバッグに移す。ミーちゃんバッグの方が性能が良いからね。


 料理を作りながら新しく作ったお店について聞くと、商店街の一画に小さなお店を作り奥さんが販売しているそうだ。餡子は作り置きできるけどプリンは作り置きできないのが難点だと言っている。なので、プリンは個数限定として売ってるそうだけど、店を開けるとすぐに売り切れになるそうだよ。お客さんからもっと数を増やして欲しいと要望が殺到してるらしいね。


 近々、ここの厨房に新人の料理人が入る事に決まったので、プリンの個数を増やす計画を立ててるそうです。プリンの値段を聞くと結構良いお値段だけどすぐに売り切れると言う事は、街の人は良い物にはお金を出すと言う事だ。これは神猫商会の今後の経営戦略を考えるうえで良い事を教えてもらった。わざわざ質を下げて庶民価格にしなくても良いと言う事になる。


 夕方前にペロ達が鶏肉を持って戻って来たのでから揚げを作る。今回は生姜風味を強くして衣を片栗粉だけで揚げる。竜田揚げ風にしてみた。



「これはにゃんとも言えぬ風味にゃ。生姜と醤油が決めてだにゃ。それにこの衣、今までの衣と違ってパリパリサクサクにゃ! にゃかから肉汁ジュワァー、外はパリパリサクサク。ネロ、天才にゃ!」



 俺が考えた訳ではないんだけどね。宗方姉弟はパンに竜田揚げと野菜、マヨを挟んで食べてる。旨そうだね。俺もやってみよう。



「揚げ立てだから最高~」


「これは……MCの限定品より美味しいね」


「旨いにゃー!」


「自分で作ってなんだけど、俺って天才料理人?」


「「「うんうん」」」



 ミーちゃんバッグの中にもまだ料理は一杯入っている。今回作った分も合わせれば一ヶ月くらいなら余裕で迷宮に潜ってられると思う。食が豊かだと、心も豊かになるから大事。特に迷宮のような閉塞感を感じてしまう場所だと心がやられる可能性があるから、食事くらいは楽しくしないとね。


 さて、準備も整った事だし迷宮探索に乗り出しますか。周りの情勢は予断を許さないけど、俺がどうこうできる事じゃない。今まで突っ走ってきた分、ちょっとくらい楽しんでも罰は当たらないよね?


 良し、ミーちゃん迷宮探索に出発だぁー!


 その前にお姉さん達満足したでしょう? ミーちゃん、カムバ~ック。



「み~」




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