232神猫 ミーちゃん、毛並みは至高級です。

 同室していた文官さん達は大慌て、誰も気付いていなかったと言うより最初から見ていなかったんだろうね。毎年の歳入と歳出を見て前の年と誤差がないくらいしか見ていなかったんだろう。逆に言えばそれだけ長い間、歴代代官の横領が続いていたと言う事になる。


 一人くらいまともな貴族が居ても悪くないと思うけど、横並びに前ならえするのが貴族のやり方なのかもしれない。だとしても、歴代の代官は親国王派ないし中立派だったのではないのかな? そんな貴族でさえこの始末。貴族の悪習って相当に根が深いのかもしれない。


 どうして、カティアさんがこの事を指摘して来たかと言うと、この領地で出た税収の過去十年分が俺にそのまま譲渡される事になっているからなのだ。領地をもらっても運営していく資金がなくてはお手上げです。


 文官さん達が忙しく動き回っている間に、今度はヒルデンブルグ大公国から寄こされたニクセの資料をカティアさんと見ていく。こちらの資料はヒルデンブルグ大公国らしい簡素ながら明瞭な資料になっている。ヒルデンブルグ大公国は貴族の居ない官僚制の能力主義。文官より武官が重視され質素倹約と言う風潮からか明らかに腐敗度が低い。


 カティアさんも納得のいく資料のようです。でも、産業が余り無いので税収はフォルテに比べるとだいぶ落ちる。代わりに未開発地域も多いんだけどね。


 強いてブロッケン男爵領の問題点を指摘するとすれば、ゴブリンキングの居る森と接していると言う事かな。接していると言っても間にスパイダークイーンの支配地域があるし、ブロッケン山には牙王さんが居る。それに騎竜隊の駐屯地もあるから今すぐにどうこうと言う事はないと思うけど、注意に越した事はないし、牙王さん達と連携していく必要もある。そして、もしもの時の為に必要最低限の私兵団は作らないといけないと言う事だろう。


 資料は写しをもらえるらしいので、うちに戻って再度精査する必要がある。人材に関しては今現在各街に居る文官を二年間借りれ、二年後にその文官をそのまま雇う事も可能だそうです。でも、あの資料を見る限り文官達も共犯のような気がする。気を付けないといけないね。



「み~」



 それから十日間の間、ルーカスさんとカティアさんとこの部屋に缶詰状態だった……。




「ネロ君。やつれたようだけど大丈夫かしら? ミーちゃんは艶々なのにね」


「み~」



 どの口がそんな事を言わせているんでしょう……張本人の王妃様。



「大丈夫だとお思いですか?」


「ネロ君は若いから、きっと大丈夫だと信じているわよ」


「はぁ……もう良いです。帰って寝ても良いですか?」


「駄目に決まってるじゃない。引き継ぎは終わったのですから、これからが本題よ」



 もう、お腹一杯なんですけど……。



 最初に王妃様から聞かされた事は、歴代の代官を務めた貴族の処罰。領地の一部没収と言う厳しい処罰になったそうです。俺には関係無いと言いたい所だけど、俺がフォルテをもらった事で明るみに出た事から逆恨みされる可能性がある。しかし、それすらを王様や王妃様は利用しようとしている。俺にちょっかいを出した時点でお家取り潰し等を考えているらしいです。怖いわぁ……。


 その次が本番、ブロッケン山の牙王さんの事だ。本当は、ルミエール王国、ヒルデンブルグ大公国から使者を出すつもりだったらしいけど俺が一任される事になった。一任されると言っても草案はできているので、牙王さんの所に行って確認と署名をもらって来る事くらい。牙王さんに支払われるお金は、俺の方ブロッケン男爵側で管理する事になるそうです。



「一度お会いしてみたいものね」


「モフモフはできませんよ。俺だってした事ないですから」


「あら、残念だわ。ミーちゃんで我慢しておきましょう」



 やっぱりモフモフしてみたいだけだったのか……それに、ミーちゃんのモフモフは至高クラスです。ミーちゃん以上なんてお目にかかった事が無いです。



「ネロ君にお願いしたいのは、早急に街道の整備をして欲しいの。西の街道が使えなくなり、徐々に影響が出始めているわ。今回の街道整備の資金は国庫から出しますから、すぐに始めてね」


「簡単に言いますね……」


「それが王族の特権よ」



 ブロッケン山の街道は荷馬車が一台しか通れない幅なので、荷馬車がすれ違える二台分の幅に拡張する事。ブロッケン山の中間地点に野営場所を作る事。もちろん、牙王さんと話をして荷馬車を襲わないように頼む事。まあ、最後のは牙王さんと結ぶ不可侵条約にも該当する事だけどね。


 大規模な工事になる。問題はこの工事を受けてくれる人が居るかだよ。ブロッケン山に入っての工事となると、近隣の人々はどう思うだろう。ハンターを雇って安全は確保すると言っても受けてくれるかどうか……。それにこれから秋になると収穫の時期に入る、工事に手を回す余裕があるかも疑問。


 取り敢えず、牙王さんの所に条約の草案を持って行こう。それから、追々考えよう。



「み~」

 



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