231神猫 ミーちゃん、領地のお勉強をします。

 思わぬ剣術指南役と言う人材が手に入ってしまった。



「じゃあ、俺も入ってやるよ」


「あー、ルーさんは最初から頭数に入ってますんで……」


「えっ!? マジで?」



 だって神猫商会の商隊を率いてくれるって言ってたじゃないですか。



「にゃあ、ペロも入るにゃ!」


「にゃ」


「がう」


「きゅ~」



 き、君達は、別に入らなくても良いと思うよ……。でも、妖精族の方達は誘ってみようかな。元々商隊の護衛をお願いするつもりだったからね。



「おそらく多くの貴族の子弟が仕官に訪れると思いますが、如何致しますか?」


「それこそ、必要ないね」


「そう言う訳にもいきません。ネロ様が新しい貴族の仲間入りをして領地を得たと言う事は、他の多くの貴族の妬み、不満を買う事になります。多少なりとも貴族の子弟を仕官させなければ尚の事です」


「面倒だね……貴族って」


「その貴族にネロ様はなったのでございます」


「まあ、そう言う事なら、面接して有能な能力持ちだけ雇えば良いよね。俺、鑑定持ちだから」


「怖いわぁ……鑑定持ち」


「人の能力が見えるって、反則だよねぇ」



 この能力が向こうの世界にあったなら宗方姉弟の言う通り怖いと思う。事によっては丸裸にされるようなものだからね。確かに、鑑定は便利だけど熟練度やその人の性格が見える訳ではない。最終的には人を見る目がないと駄目なんだけど。



「神猫商会は如何するおつもりですか?」


「えっ? そのままの続けますよ。もしかして、駄目なんですか?」


「駄目ではございませんが……貴族が商人の真似事をするのは、他者から見るとどうかと思いますが」


「ルーカスさん。それは逆じゃないですか? 商人が貴族になったんです。それに神猫商会の代表はミーちゃんですよ」


「み~」


「「嘘だろう……」」


「ミーちゃんが社長さんだったんだぁ」


「ミーちゃん、偉いんだねぇ」


「み~」



 若干、数名驚いている。宗方姉弟は別として、言ってなかったかな? なので、商業ギルドの証明書を見せてあげたよ。



「うわぁー、本当に代表になってる」


「ネロさんより偉いんだね」


「み~」


「商業ギルドはなにやってやがるんだ……」



 神猫商会をやめるつもりはさらさらない。神猫商会じゃなきゃできない事もあると思う。貴族になった以上、それを利用してやらないとね。


 その日の夜は、ささやかながらみんながお祝いのパーティーをしてくれた。夜に戻って来たユーリさんにも男爵になった事を聞かせると



「私もギルドを辞めて、ネロ君のお手伝いをします!」



 だそうです。ユーリさん程の有能な方が手伝ってくれるのは嬉しいけど、一度ゼストギルド長と話をしてねと言っておいた。



 次の日、ルーカスさんとカティアさんを連れて王宮に行き王宮内の一室に案内され入ってみると書類が山積みされ、文官の方達が手ぐすねを引いて待っていた……。


 大きな地図を見せられ、ブロッケン男爵領の街や村の把握をさせられる。フォルテからニクセまではほぼ一本道、ブロッケン山を山裾沿いに迂回する道があるくらい。ニクセから東にはブロッケン山とは別の山があり、どこにも繋がっていない。その山には鉱山があり麓に鉱山で働いている人達が生活している村があるそうだ。村は多く点在しているけど街と呼べるくらいのものはフォルテの街とニクセの街の二つだけだった。


 ニクセの街はルミエール王国とヒルデンブルグ大公国を繋ぐ街道の宿場町的な役目で大きくなったようで、これといった突出した産業は無い。代わりにフローラ湖があり観光や巡礼に訪れる者が多いそうだ。ちなみにフローラとはこの世界の神様の名前だそうです。始めて知った……。ポンコツ神様のお姉さんだったよね?



「み~」



 領地はブロッケン山を除いたとしても広大で、開発されていない場所も多くある。村々に定期的に巡察官を送らないといけないらしい。そうしないと、税逃れをおこなわれる事もしばしばあるそうだ。基本、検地はされているらしいけど、新たに耕作された土地は巡察官が赴かないとわからない。滅多に無いけど新しい産業が起きてる事もあるらしいので、巡察官は重要だ。


 細かい事はルーカスさんが紙に書いてくれている。カティアさんはここ十年の歳入、歳出を見て細かい支出の内訳を確認している。今は国の代官が統治しているので、年にどれくらいの維持費などが掛かるか資料から読み取るらしい。



「これを見て頂けますか」



 カティアさんが結構な量の資料を持ってきた。なんだろう?



「み~?」



 代官は王様から任命された貴族が任される。税率は決まっているけど領地の経営は代官の裁量に任されている。人によっては頑張って領地を発展させようとする者もいれば、必要最低限の事以外ほとんど何もしない者もいる。


 だが、すべての者とは言わないけど所詮欲にまみれた貴族。目の前に金の林檎がぶら下がっているのをジッと見ている事ができる者は少ない。公金を使用しての投資や商売は国の収入、強いては街の為にもなるので一定額は認められている。自分の資産を使って金儲けする事も認められているが、自分の利益の為に公金を使用して利ザヤを得るのは認められていない。もちろん、当然だけど横領もだ。


 カティアさんが持って来た資料はそう言った不正の証拠になる物ばかりだ。多くは横領のような気がする。屋敷の莫大な修繕費、軍馬の購入、武器防具の購入、代官自身の商売の焦げ付きを公金でカバーした形跡もある。年に何度も屋敷の修理が必要か? 代官が軍馬や武器防具を大量に買うなんて反乱でも起こすつもりか? 突っつけばいろいろ出てきそうな物ばかり、多少なら目を瞑るとこだけどこれは酷すぎる。


 王様や先代の王様が貴族の力を削ごうとしたのもわかるね。この有り様じゃあ、大国と言えど未来は暗い。大変な世界に飛び込んじゃったね……。



「み~」






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