212神猫 ミーちゃん、宗方姉弟の話を聞く。
アレックスさんがこのまま置いておいても心配ないと言うので、うちに帰りました。本当に大丈夫だろうか?
うちの中に入ろとすると、わふわふ、きゅ~きゅ~とルーくんとラルくんが走って寄ってくる。いつも通り顔をペロペロしてくるけど、ラルくんが今日は念入りにペロペロしてくる。
「今日、ラルくんのお父さんとお姉さんに会ったんだ。わかる?」
「きゅ~!」
「お姉さんが神猫商会で働く事になったから、今度連れて来るね」
「み~」
「きゅ~!」
ラルくん、しっぽをブンブン振って喜んでる。その姿が子犬にしか見えないのは、俺の感覚がズレているのだろうか……。
うちに入り、遅い夕食をミーちゃんととる。寂しくなんかない、そんな気を起こさせる雰囲気でさえない……逆に煩い。何故、宴会がおこなわれている? ジンさん達帰らなくて良いの? まあ、用事がないなら良いんですけどね。ルーカスさんから聞いたけど、結構な額のお金を宿泊代としてもらっているらしく、一ヶ月この調子でも黒字だそうですよ。
夕食を食べ終わるのを見計らったように、宗方姉弟が向かいの席に座る。なんだ?
「私達、考えたの」
「僕達にできる事って何かなって」
そう言って一枚の紙を渡して来る。中身を見るとこれからやりたい事が、箇条書きにされている。
なになに、冒険者になりたい……この世界に冒険者ギルドありませんから! 代わりにハンターギルドがあるでしょう! モフモフ王国を作って、ななつごろうさんになりたい……。もう、突っ込まないぞ……突っ込まないんだからね!
他の項目もざっと目を通していく。迷宮に行きたい、スキルを利用して農業をおこないたいなどの中に、先輩達を助けたいと言う、ちょっとホロリとしてしまう事も書いてある。農業とまではいかなくても、せっかく畑があるから何か植えたいよね。今はベン爺さんが暇潰しに野菜を少し植えてる程度だから、何か変わったものを育てたい。
他にはお菓子屋を開きたいと言うのもある。できない事も無いとは思うけど、二人の考えてるお菓子屋はケーキ屋の事だろね。問題になるのは牛乳と卵、一番は砂糖になる。この三つの問題が解決できないと難しいだろうな。専属の牧場と契約するか、自分達で育てるしかないだろう。砂糖に関してはお手上げ状態。南の国でサトウキビから作っているのは本で読んだけどほとんどが輸入に頼っているのが現状らしい。ヒルデンブルグの南側で作れないのだろうか? 要調査だね。
「ケーキは難しいと思うよ。ベーキングパウダーなんかはあるみたいだけど、入手が難しい物が多いからね」
「ケーキにはこだわってないですぅ。菓子パンが食べたいなぁって」
「この世界のパンってあんまり美味しくないですよね」
「美味しく無い訳じゃないけど、固いな」
「それはイースト菌を使ってないからだと思う。にゃんこ先生、ドライフルーツ食べてたからイースト菌は作れると思うんだよねぇ」
「それって、ふわふわのパンが食べれるって事?」
「オフコース! 絶対に美味しくなると思う」
それは凄い。白パンはあるけど日本で食べてたパンには遠く及ばない。そのイースト菌と言うのを作れれば……ウハウハだね。
そして一番最後の行に、日本酒を造りたいだと!
「日本酒ってどう言う意味!」
「うちって昔ながらの酒造りしてる蔵元なんですよ」
「小さい頃から手伝ってますからね。米と麹があるから造れるんじゃないかと思って」
「資本は任せろ、すぐ造れ!」
「いやぁー、すぐって……」
「どの位の知識があるんだ? 今度蒸留酒造ろうと思うんだけど、その辺の知識はある?」
「まあ、うちでも焼酎は造っていたから、問題はないよねぇ」
「そうだね。もろみ取りと粕取両方やってましたから、何とかなるとは思います」
おおー、これは思わぬ知識チート。正直、何を言ってるのか良くわからないけど十分な知識と経験を持つらしい。日本酒と焼酎、これはアルコール革命が起きるんじゃない? ヨーロッパでは日本酒をエリクサーなんて呼んでた時代もあるしね。これは楽しくなってきたよ。情報漏洩には気を付けないといけないから、妖精族のテリトリーでやった方が良さそうだね。
「計画書を早急に作って欲しい。必要な材料、必要な道具など全部書き出して。それからこの事は、絶対に秘密です。良いですね?」
「「わ、わかりました」」
フッフッフ……酒を制する者は、世界を制する。俺は酒造王になる!
「みぃ……」
あっ……ミーちゃん、冗談だって……そんな憐れんだ目で見ないで、恥ずかしいじゃない。それにミーちゃんだって黒真珠王なんだよ。
「み、みぃ……」
ミーちゃん、黒歴史を思い出して可愛いお顔が引きつってます。
さて、宗方姉弟には当分昼はハンター、夜は計画書作りをしてもらう。忙しくなるけど、若いから大丈夫でしょう。なんか言ってて思うけどジジ臭いね。歳、ほとんど変わらないんだけどなぁ……。
それからルーさんには、そろそろ流れ迷宮の準備に入ってもらおう。クイントの拠点の件もあるから、先行して行ってもらわなといけない。メンバーはルーさんにペロ、セラ、ジンさん、イルゼさんに許可をもらえればヤン君かな。
ペロには、転移装置の板を一枚持たせて拠点の人目に付かない場所に設置してもらう。そうすれば移動は簡単。ずっと行きっぱなしって訳にはいかないので、俺とミーちゃんはたまにこっちに戻って来る事になるだろう。
また、忙しくなるね。やりたい事が一杯だよ。
「み~」
そんな興奮冷めやらぬその日の夜中に、レティさんが夜這いをかけてきた。貞操の危機ですなんて思っていたら、レティさんの告げた内容を聞いて、硬直して動けなくなった……。
レティさんが何を言ってるのか理解できない……薄暗い部屋の鏡に映る自分の姿を見ると、泣いているようだ……何で泣いてるんだ俺……そう言えば、この世界に来て泣いた事ってあったかなぁ……。
「みぃ……」
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