194神猫 ミーちゃん、秘密兵器の威力に唖然とする。

 俺達は両軍が見渡せる場所に来て居る。


 これからの戦いは軍と軍の集団戦。俺達が関与できる戦いじゃない。なので王国軍から見て右側、街道方向七百メルの所に潜んで観戦している。両軍はお互いに陣を出て、五百メルの間をおいて対峙中。俺はライフルのスコープを外して両軍の様子を見ている。



「ネロさん。明らかに王国軍の方が兵が少ないですよね?」


「数だけならね」


「なんか、緊張感がないよねぇ」



 両軍対峙してから、かれこれ一時間以上が経過している。何をしているかと言えば、お互いに使者を出し合って正当性を言い合っている。これから、本当に戦いが始まるのか疑わしく思うくらい暢気だよ。これも、形式美ってやつなのかな……。


 どうやら、怒鳴り合いが終わったようだ。中央に居た使者が戻って行く。


 先に動いたのは反乱軍、盾持ちの兵士が前に並び弓兵が後に続きその後ろに歩兵部隊が並ぶ。ゆっくりとだけど前進を始めた。反乱軍全体の三分の一って所かな? 戦力の逐次投入は愚策。それも相手より少ない兵を投入するなんて、せっかくの兵力差を活かしてない。



「様子見か?」


「貴族部隊は最後にとっておきたいのだろう」


「ロタリンギアも動かないわね~」



 これは、統制がとれてないだけなのかな? 所詮は数を頼った烏合の衆?


 なんて考えてたら、弓による攻撃が始まっていた。反乱軍は徐々に前進しながら弓兵と歩兵部隊の位置を変え始めている。もう少し間が詰まれば、歩兵部隊同士の攻撃が始まるんだろう。


 反乱軍の本隊の方を見ると、ロタリンギアの部隊に動きが見られた。何かを持った兵が前に並び列を作っている。



「クロスボウ? 三列に並んでいる……三段撃ち? まさかねぇ……」



 俺は宗方姉弟の方を見る。二人はルーくんとラルくんをモフり始め、俺から目を逸らしやがったよ。



「ジンさん。クロスボウって知ってますか? ロタリンギアの兵が持ってるやつです」



 スコープを渡して見てもらう。



「あれは弓か? 変な形だな?」



 やはり、知らないようだ。こちらに来てから俺も見ていない。



「さて、宗方姉弟。キリキリ吐いてもらおうか」


「い、異世界ものって言ったら、銃やクロスボウって定番だよねぇ……」


「じゅ、銃は作れないけどクロスボウくらいなら原理知ってるしぃ……」


「三段撃ちは遠藤先輩が教えたよぅ……」



 クロスボウと騎馬って相性が悪いって聞いた事があるし、騎竜隊にも攻撃がしやすいと思う。これは余計な被害が出そうだ。


 うーん、ここで秘密兵器投入しちゃう?



「ねえ、ラルくん。ここから、あのロタリンギアの兵士を狙える?」


「きゅ~!」



 待ってましたとばかりに飛びついて来た。問題無いみたいだね。じゃあ、やってもらおうかな。



「少年。ラルを連れて何をするつもりだ?」


「フフフ……ラルくんの真の力を見せる時が来たのだ。反乱軍よ! おののき、平伏すが良い!」


「ネロさんって、なの?」


「しっ! そこはスルーしてあげる所だよ。姉さん」



 聞こえてるぞ……宗方姉弟よ。何とでも言うが良い。さあ、やるぞ、ラルくん、ミーちゃん!



「きゅ~!」


「み~!」



 みんなから五メル程前に出てラルくんをお座りさせ、俺はミーちゃんを肩に乗せ片膝をついた状態でラルくんの後ろの位置につく。指でロタリンギアの部隊を指示し、ラルくんに最終確認をする。



「きゅ~」



 準備オーケーのようだね。両軍は歩兵同士の壮絶な戦いに移行していて、両軍騎馬隊の投入時期を窺っているようだ。後ろのみんなに合図を送ってから、ラルくんに声をかける。



「ラルくん。やっちゃってください」


「み~!」


「きゅ~」



 の一声の後、ピカっと一瞬光り目が開けてられない程の強風が吹き荒れる。音はほとんどしていない。


 そして……全軍の動きが止まった……。



 が反乱軍を襲っている。そこにあるのはぺんぺん草でさえ生えてこないような焼野原が幅十メル程で遥か彼方まで続いていた……。


 ロタリンギアの部隊の前面に居た兵士に加えて、次の攻撃に備えて隣に居た貴族部隊の騎馬隊の半数が消えて……その他大勢の兵が火傷であろうか? のたうちまわっている……。


 偽勇者くん達、死んでないよね……?




「み、みぃ……」


「きゅ……」



 戦場では両軍が何が起きたかわからず、ただ呆然と立ち尽くしている。また起こるのではないかと思い、次は自分達がああなるのではと恐怖に襲われているのだろう。座り込んでいる者までいる。


 ラルくんがぐったりしているので力を使った反動だと思う。こんなの、何度も放てたら世界が滅ぶよ。烈王さんならできるのだろうか?


 ラルくんを抱っこして、みんなの所に戻る。みんな固まって動けないようで一言も発しない。しかし、戦場では動きが見られた。王国軍から騎馬隊が歩兵部隊を回り込んで敵陣へと出撃している。流石、第一騎士団と言う所か、この機を逃さず反乱軍に追い打ちをかけるようだ。ルーくんが傍に寄ってきて遠くの空を見つめている。



「がう」


「きゅ……」



 ラルくんも反応しているから騎竜隊が来たのかも。これで、反乱軍はチェックメイトだ。


 早期に決着がつきそうだ。良かった、良かった。ミーちゃんが、冷めた目で見つめてきてますけど、ミーちゃんも共犯だからね。あんなにノリノリだったでしょう。



「み、みぃ……」





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