193神猫 ミーちゃん、勇者を侮りません。

 夕食がまだだったので、ミーちゃんバッグから簡単に食べられるピラフおにぎりとから揚げを出してみんなに配る。



「久しぶりに向こうの味の食べ物に会えたよぉー!」


「これだけでも、ネロさんの説得に応じた甲斐があったね。姉さん!」


「私達、勝ち組だよぉー!」



 この世界の食べ物は決して不味い訳ではない。ちょっと味付けが単調なだけなのだ。俗に言う、素材の味を活かした料理なのだから、食文化の発達した飽食の時代に生まれた者には味気なく感じてしまう。


 香辛料などはあるけど流通が発達していないので、胡椒の値段は同じ重さの金で払うなんて教科書で習った事が実際に起きている。なんとか、安く手に入れる方法はないだろうか……今後の課題だね。



「み~」



 ミーちゃんは猫缶をハムハム、ルーくんとラルくんはみんなと同じ物を食べている。明日は夜が明け次第出発になるので、食べ終わり次第寝る。宗方姉弟は見張り兼火の番は免除、俺はレティさんと最初にする事になった。


 ミーちゃんとルーくん、ラルくんはテントで宗方姉弟とお休み中、ジンさん達も毛布に包まって寝ている。


 さして、する事もないので、レティさんに今日の勇者の事を聞いてみる。



「レティさんは勇者をどう思いました?」


「どうとは?」


「俺と戦った遠藤と言う者をどう思いました?」


「そうだな、限りなく黒に近い灰色」


「まだ、闇落ちしていないと?」


「大奥様は闇落ちする前に説得しろと信託を受けたと聞いている。だとすれば、まだ、闇落ちしていないとみるべきだろうな」


「闇落ちすると、他人から見てわかるものなのでしょうか?」


「ギルドに伝わっている話では、禍々しい気を放っていると聞いている。あの小僧からはそこまでの禍々しさは感じられなかった」



 それに、今の実力で闇落ちしてもたいした脅威にはならないとレティさんは言っている。魔王と同等、或いは魔王を倒すだけの力を有していないなら、それ程の脅威ではないらしい。そもそも、闇落ちと言うのは異世界から来た者だけがなり得る病気みたいなものだそうだ。


 人とは少なからず悪の心を持っている。逆に言えば持ってない人は居ないと言える。普通、人はそれを常識や良心、倫理感などで抑え込んでいるのだけど、異世界から来た人は魂の改変がなされる事で心のキャパシティーが急激に大きくなり空いているスペースに悪が広がり易い状況になっていると彩音さんから聞いている。


 善の心を広げるにはたゆまない努力が必要だけど、悪の心を広げるのはとても容易い事、その悪の心の広がりを抑えるのが神の加護であり、ミーちゃんと言う神の眷属が持つ能力なんだね。


 ミーちゃんに守られてる俺って幸せ者だよ。宗方姉弟もこれからは多少なりとミーちゃんの恩恵を受け、闇落ちする可能性は減るだろう。ミーちゃん、様様だね。



「討伐対象になるんでしょうかね?」


「さあな、本人達次第だろう」



 本人達次第か……若干二名難しそう。


 夜が明ける前にみんな起きて朝食をとる。



「味噌があるんだ……」


「麹があるって事だね」


「「フムフム」」



 反乱軍を大きく迂回して王都方面に馬を走らす。義賊ギルドの人達は反乱軍の監視の為、一緒には行かないようだ。ご苦労様です。


 その日の夜も野営して次の日の昼頃に王国軍の陣に到着した。王国軍は既に準備ができているようだけど、反乱軍に比べて兵の数が少ないのは明らかだね。


 陣の前でジンさんが兵士に宰相様の手形を見せると空いているテントに案内される。少し経つ経つと兵士が来て手形を見せたジンさんではなく、俺だけが宰相様に呼ばれたよ。解せぬ。


 兵士に案内され中央の大きなテントにミーちゃんと入ると、王様が居た……。来てらしゃったのですね。



「み~」



 椅子に座った王様の横に宰相様と第一騎士団のウィリバルト団長が居る。



「よく戻った、ネロ。して、どうであった?」


「偽勇者五名の内二名は説得に応じ、残り三名は説得の途中で敵の妨害にあい話だけとなりました」


「二名は引き抜けたか……それは重畳。良くやった、後はゆっくり休むが良い」



 王様と話したのはこれだけ、代わりにテントを出ると宰相様に捕まったね……。


 別のテントに連れて行かれ詳しく話をさせられた。ダスクの事もちゃんと話しておいた。



「ほう。あの時の騒ぎの裏にロタリンギアがいたと」


「そうかもしれません。そう言えば、ウィリバルト団長がいましたが第一騎士団はどこに居るんですか?」


「既に合流してこの陣に居る」



 王国軍の陣営は騎馬隊三千、歩兵部隊三千、補給部隊千となっていて騎馬隊三千が第一騎士団が変装しているそうです。反乱軍が最も戦いたくない相手が既に居るうえ、騎竜隊もこれに加わる事になる。



「なれば、偽勇者は気にせずとも良いという事だな」


「今の段階であれば、ですが」


「勇者の力に覚醒するとでも」


「それは何とも……ですが、珍しいスキル持ちですので、侮らない方が良いかと」


「み~」


「ふむ。ロタリンギアに仕事をさせずに撤退させるのが最善と言う訳か」


「はい」


「ウィリバルト殿とエレナ殿に頑張って頂くしかあるまいな」


「み~」



 斥候の物見によると明日にはこの戦場に反乱軍が到着するようで、明後日に戦いの火ぶたが切られるとの事。反乱軍も策を弄する様子は無いようで真っ向勝負を挑むようだ。兵はあちらが多いから勝った気でいる事だろう。


 こちらは真っ向勝負に見せかけて十分に策を弄してるし、ラルくんと言う秘密兵器も居る。ラルくんの能力がどのようなものかわからないけど、ぶっつけ本番でいってみよう。相手の出鼻をくじければ良いんだけどね。



「み~」





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