192神猫 ミーちゃん、ネロの味方ですよ。
いや~、あれは油断だったね。彩音さんにあんなに甘い気持ちは捨てなさいと言われていたのに……同じ日本人だからと話せばわかると思い込んでいた自分が間抜けだった。
下手をすれば自分だけでなく、一緒にいたみんなまで失いかねなかった。反省……。
どのくらい気を失っていたのかわからないけど、目を覚ますと目の前に大きな山が二つ見えた。
「み~」
大きな二つの山からミーちゃんが顔を覗かせる。ミーちゃん、いつの間にそんなに巨大化しちゃったの?
「気が付いたか? 少年」
更に、二つの山の向こうからレティさんが顔を覗かせる……。ん? この見事な山二つはパイ乙? これは、もしや男の憧れの膝枕では!
「どうした? 顔が赤いぞ、まだ具合が悪いのか?」
「みぃ……」
いえ、元気です。元気になりましたよ。でも、起き上がりたくないかな……。
でも、ミーちゃんの心配そうな顔を見るとそうもいかないよね。
名残おしい思いを断ち切り、起き上がる。
「ここは?」
「反乱軍の陣と後方の補給部隊の中間と言う所かな」
「みんな無事ですか?」
「少年のお陰で追手は来てない。斥候が数名来たが義賊ギルドの者が排除した」
周りを見渡すと木々が生い茂っている。森の中に入って隠れているみたいだ。すぐ横でルーくんとラルくんが心配そうに俺を見ていて、近くの木にスミレとレティさんの馬が居る。他の人達はどうしたんだろう?
「義賊ギルドの者達と偵察に出ている。もうすぐ戻る頃だろう」
ルーくんとラルくんを安心させる為にモフモフしていると、木々の向こうから馬を引いた人達がこちらに来るのが見えた。ジンさん達だろう。
「おっ、ネロ。気が付いたか」
「向こうは、義賊ギルドの者が見ててくれるそうだ」
「火を起こしても問題無いわよ~」
「「ネロさん、大丈夫 (ですか)?」」
周りにある木を集めて火を起こし、お湯を沸かしてみんなでお茶を飲む。
「遠藤って奴、あれはヤバいよ」
「み~」
「僕もびっくりしました」
「あれが本性っぽいよねぇ」
宗方姉弟も知らなかったようだ。既に闇落ちしているのか、それともあれが本性なのか判断に苦しむ。ただ言える事は、まともじゃない。
「途中で現れた男、どっかで会った気がするのですが?」
「がう」
「オイオイ、そのわんこを攫った奴の一味だぜ!」
思い出した……ゾルムス家に仕えてた奴だ。でも、どうしてそんな奴がロタリンギアに居るんだ?
「あのダスクって人は私達のお目付け役だよ」
「あの人目付きと顔色が悪いけど強いんだよねぇ」
「詳しく聞かせろや」
ロタリンギアでは、ダスクと言う男が彼らの戦闘の教育係だったらしい。一応、ロタリンギアの貴族と紹介されたそうだ。
「貴族だと……確かに生まれはロタリンギアと聞いてはいたが……」
ジンさんとダスクと言う男は何かしらの因縁があるようだ。ジンさんの因縁が俺達の因縁と交差した以上、今後も関わってくるだろう。ルーくんを攫った落とし前も着けないとね。
「み~」
「がう」
勇者の教育係がただの貴族な訳が無い。それに、そんな男がルミエール王国に居たこと自体が普通では考えられない。
「ロタリンギアの者がルミエール王国の貴族の所に居た……いろいろ、裏がありそうですね」
「埋伏して、貴族共に流言でも計っていたんだろう。調べさせるか? 少年」
「宰相様に報告して任せましょう。ですが、ロタリンギアは本気で狙っていたと言う事でしょうか」
「宰相様も大変よね~」
「これから、どうするつもりだね? ネロ君」
うーん。どうしようか……当初の目的は達している。奥村さんも引き抜きたかったけど、あの状況ではどうしようもない。でも、種は撒いた。後は本人次第だろう。いつか、訪ねて来てくれる事を切に願うよ。
「王国軍と合流しましょう。まだ、奥の手を使ってないので反乱軍に一発お見舞いしてやりたいです。ねっ、ラルくん」
「きゅ~!」
「み~」
「ネロ君~。奥の手って~?」
「秘密です」
「むぅ~」
ローザリンデさんが頬を膨らませて、ブーブー言ってます。かく言う俺も知らないんだけどね。
「あのー。少し質問良いですか?」
「私達ってネロさんについて来ちゃったけど、日本にどうやって帰れば良いのでしょうか?」
ロタリンギアの王は召喚した者が死んでいる事を隠していて、次に道を繋げられるのは数年後と言っていたそうだ。こればかりは、隠してもしょうがないので包み隠さず本当の事を話して帰れない事を伝えた。
「そうなんだ……」
「そんな気はしてたけどね。実際に聞くとこたえますね……」
薄々は帰れない事を察していたんだね。
「くよくよしてもしょうがないよ、トシ。切り替えていこうよ!」
切り替え早っ!
「そうだね。それから、ネロさんって何者なんですか? 僕達より年下っぽいのに、宰相様に報告とか言ってるし」
と、年下だと……。
「君達より年上です。十八超えてるんで」
「「冗談~♪」」
「みぃ……」
「いや、本当だって……高校卒業してるし」
「「マジ……?」」
「マジ」
「み~」
誰もフォローしてくれません。俺の味方はミーちゃんだけのようです。
「ネロはなぁ、すげぇ奴なんだ。そう、すげぇんだ。嬢ちゃん達は運が良いぜ」
「み~」
「やっぱりネロさんって、勝ち組!」
「僕らも勝ち組の仲間入りだね!」
ルーくんとラルくんをモフモフして、異世界の犬って翼があるんだね、流石異世界~なんて暢気な事まで言ってますよ……ラルくんは犬じゃなくてドラゴンですから! 残念!
「私からも、質問を良いだろうか?」
「なんです? グレンハルトさん」
「ダスクと言う男がこの子達を勇者と呼んでいたのだが、どう言う事だね?」
あのダスクと言う男、余計な事を言ってくれたよ。当分は誤魔化しておきたかったのに。
「今は聞かなかった事にしておいてください。後日、宰相様から説明して頂きます」
「ここで説明できない理由は何だね?」
「皆さんの事は信用していますが、万が一を考えてこの戦いが終わるまで黙認してください」
「混乱が生じると?」
「はい」
反乱軍に偽者とは言え勇者が参戦しているとなると、国王軍に動揺がはしる恐れがある。必ず勝たなくてはならない戦いに少しの不安要素は無い方が良いと思う。その後の事は王様や王妃様、宰相様に丸投げだね。
それから、宗方姉弟を王妃様に合わせないと不味いよね。この二人の性格、ちょっと不安……。
「み~!」
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