195神猫 ミーちゃん、家に帰る。

 第一騎士団が反乱軍の横腹に牙をむき、上空から飛龍による火球攻撃が開始される。前線で戦っていた反乱軍の歩兵部隊と弓兵は戦意喪失しており、武器を捨て投降し始めた。王国軍の歩兵部隊は投降してきた兵の対応に最小限の兵を残して、反乱軍本隊の包囲に回る様子が見られる。



「ネロ……あれはいったい何だったんだ?」


「ラルは犬じゃなかったのか? 少年」


「あっちに居なくて正解だったね……」


「先輩達、生きてるかな……」


「み、見なかった事にしてください……」



 取り敢えず、ラルくんがぐったりしているので皿にミネラルウォーターを出してやると、勢い良く飲み始める。ついでに、ミーちゃんの猫缶も出してあげたら、これまた凄い勢いで食べ始めたよ。もしかして、お腹空いてる?



「きゅ~」



 ミーちゃんバッグから料理を出してもらうと。バックバク食べてます。幸せそうに食べてる。もしかして、ぐったりしてたのはお腹が空いていただけ?



 戦況は既に掃討戦に移っているけど貴族部隊が最後の意地を見せ執拗に抵抗してるようだ。生きて捕まれば地獄、この場で戦って死んでも地獄、同じ地獄ならせめて抵抗しまくって地獄に行ってやるって感じでしょうか?


 しかし、後で聞いた話だけど、そのお陰でロタリンギアの部隊少数が戦場を離脱するのに成功したらしい。離脱したと言って三百にも満たない数だったらしいけどね。元は三千も居たのに十分の一にも満たない、ロタリンギアまでの長い敗走の道のりで補給もままならない状況、この後何人が故郷の土を踏めるんだろう。偽勇者三人とダスクもしっかりと逃げおおせたようだけど、これからが大変だと思うよ。いろんな意味で。



 王国軍の本陣に来ています。ミーちゃんも一緒です。



「あれは君の仕業かね?」



 抑揚の無い言葉とは裏腹にギロリと眼鏡越しに睨んできてます。だから、怖ぇーよ。



「さあ、なんの事でしょう? 私もびっくりしました」


「み~」


「陛下に捨て置けと言われた手前もあり、王妃様の友人故、今回は不問にする。しかし、わかっているな」


「……さて、なんの事やらさっぱりです」


「み~」


「制御できぬ強大な力を持つと身を滅ぼす。と、だけ言っておこう」


「なんの事かわかりませんが、肝に銘じておきます」


「フン。さっさと帰って王妃様に報告をしたまえ」


「承知しました。じゃあ、帰ります」


「み~」


「待ちたまえ、当分は事後処理で忙しくなる。故に、妖精族の所に行きあれを手に入れて来たまえ。金に糸目はつけんよ」


「あれ、ですか……?」


「あれだ」


「はぁ……善処します」


「うむ。下がりたまえ」



 反乱軍の首謀者ヴィッテルスバッハ候及び首脳陣は本陣にて自決、他の貴族はほとんどが討死したと言う。投降した兵は四千。後から来た補給部隊二千も抵抗せず投降したそうだ。逃げ伸びたのはロタリンギアの三百にも満たない者達のみ。戦死者五千を超す反乱軍との戦いは、わずか半日足らずで幕を閉じたのだった。後世、この反乱軍との戦いを『閃光の奇跡の戦い』と呼ばれるようになる。





「うわぁー。お屋敷だよ、トシ」


「ネロさんって、やっぱり勝ち組だったんですね」



 戦場から馬を走らせれば王都は半日もかからない。なので、夕方前には家に着いた。ジンさん達も疲れているだろうから今日は泊まってもらおうと思う。王宮に行くのは明日。


 ルーカスさんに今日から、新しい住人が二人増えることを伝えて部屋を用意してもらう。ジンさん達も今日泊まる事も付け加えた。



「姫! ネロお帰りにゃ!」


「ただいま」


「み~」



 リビングにはペロ達が揃っていた。今日は依頼を受けずに休みにしたそうだ。ヤン君が見当たらないけど、どうやらイルゼさんとカヤちゃんの手伝いに行ったようです。良い子だよ~。



「み~」




「わぁー、ユン 《リアル獣顔の獣人》って始めてみたぁ」


「姉さん、凄く可愛いねぇ」


「にゃ、にゃにするにゃ~!」



 宗方姉弟はペロを抱きしめたりしてモフモフしてます……。



「ペロは、ユンじゃないにゃ! ペロはケットシーにゃ!」


「「ケット・シー?」」


「そうにゃ、妖精族のケットシーにゃ。もう、離れるにゃ!」


「「あぁ……」」


「にゃんにゃのにゃ、まったく……」



 ミーちゃんにはカイとセラが寄ってきて、ペロペロしている。テラはパミルさんの元に帰ったそうです。



「ネロさんちってモフモフパラダイスですね!」


「家では動物を飼えなかったので嬉しいです」



 ララさんが部屋の用意ができましたと言って来たので、みんなを案内してもらう。



「それで、ネロ。あの二人が勇者って奴か?」



 ルーさんが、不思議そうに聞いて来た。



「勇者の卵ってところでしょうか? 英雄や勇者になれる潜在能力は持ってます。後は本人達次第ですかね」


「そんな風には、まったくみえねぇな」


「あれが勇者……幻滅にゃ」



 まあまあ、そう言わずに長い目で見てあげようよ。急に強くなって心の成長が追いつかず、闇落ちされると困るんだからね。


 みんなで二人が闇落ちしないように見守っていこうよ。ねっ?



「み~」





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