190神猫 ミーちゃん、勇者との模擬戦をかんせんする。

 時間は時計を見ると七時過ぎ、この世界は空気が綺麗なので星と月の明かりでも十分に明るく感じる。


 先鋒はヤンキー君のようです。こちらはジンさんが出るようだ。



「けっ! 俺の相手はオヤジかよ」


「少しは楽しませろよ。小僧」



 ジンさんが愛用の大剣を鞘から抜く。黒光りした、素人目にも名刀とわかる代物だ。ヤンキー君の剣は金ぴかだよ……お似合いと言えばお似合いかな?


 ヤンキー君が仕掛ける。当然、剣で攻撃すると思ったら、意表をついて喧嘩キックから入って来た。ジンさんは余裕で躱したけどね。



「ハァ……お前馬鹿だろ。今ので一回死んでるぜ」



 確かに、相手の懐に入り込む度胸は認める。意表をついた攻撃でもある。だけどねぇ、格下相手の戦い方でしょう、それ。ジンさんの言う通りやるつもりなら一刀両断されていたと思う。



「うるせぇ! オヤジにはこれで十分なんだよ!」



 今度は剣での攻撃をしてくる。剣での攻撃の合間に蹴りや拳撃を入れてくる、変則的な剣術のようだ。ジンさん攻撃を受けながら苦笑いしてる。


 ヤンキー君が剣撃の後、裏拳をジンさに放つが大剣の腹で受けられた。



「オイオイ、本当ならお前の手首落ちてたぜ」


「チッ!」


「駄目だなこりゃ……。ちょっとだけ力を出すからちゃんと受けろよ! っと」



 大剣が大きく振り被らされ、ヤンキー君を襲う。その速さ、鋭さに驚きつつもヤンキー君はなんとか剣で受けたけど吹き飛ばされてしまう。



「はぁ~? そんな力入れてねぇぞ」


「く、くそぉー!」



 ヤンキー君、がむしゃらに攻撃するけどもう剣術ですらない。力任せに剣を振るっているだけだ。ジンさんに呆気なく剣を飛ばされ首元に大剣があてられている。



「力はあるが、頭が悪過ぎるぜ。にゃんこ共の足元にもおよばねぇ」



 ヤンキー君、泣いてます。鼻水垂らして、き、汚ねぇ……。


 ミーちゃん、ジンさんにコイコイしてます。どうしたの?



「なんだ? にゃんこ?」



 ミーちゃん、ジンさんの手を嬉しそうにテシテシ叩いてます。良くやったって事ですかね。



「お、おう。ありがとうよ」


「み~」



 次は宗方弟とグレンハルトさんのようです。宗方弟は槍を構えている。なかなか堂に入った構えだね。



「ふむ。なかなかの構え。楽しめそうだ」


「お手柔らにお願いしますよ。僕は既にネロさんの説得に応じたので」


「ほう。ならば手加減して進ぜよう」



 宗方弟が槍のリーチを活かした攻撃を繰り返すけど、グレンハルトさんは涼しい顔で捌いている。



「や、やっぱり、強いですね……」


「それがわかるのなら、君は強くなれる。それより、隠し玉があるようだが出す気は無いかね?」


「うーん。まだ、練習中でものになってないんですよ」


「実践に勝る訓練はないぞ」


「どうなっても知りませんよ?」


「期待して良いのかな?」


「さあ、どうでしょう?」



 二人共、飄々としたとぼけた会話だね。それでも、宗方弟が間合いを取り腰を落として槍を構え、のほほんとしていた表情がキリリと真剣な表情に変わった。


 全身の力を脚に込めたようなダッシュ。この一撃の後は無いと言うような強烈な一撃が、グレンハルトさんの胸目掛け繰り出された。


 ガッキーン! の音と共に火花が一瞬起こり、何かが飛んで行ったのが見えた。



「いやぁー、上手くいったと思ったんですけどねぇ」


「捻りを加えたか、我が剣にヒビが入るとはな。良い一撃だった」


「あぁ……穂先が折れてる。まっいっか」



 何とも気が抜けそうになる。でも、凄い戦いだった。勇者の力の一端を垣間見た気がする。


 グレンハルトさんがこちらを見てるけど、なに?



「私に称賛の意を示してはくれないのかね。子猫殿」



 ミーちゃん、ハッ! としてコイコイしてます。グレンハルトさんの手にもテシテシしてあげてます。ミーちゃんより、グレンハルトさんの方が嬉しそうなのは気のせいかな?



「さてと……我が主の為、華麗に決めてくるとするか」



 レティさんがローブを脱ぐと、ボンキュッボンとした体の線がはっきりとわかるピチっとした服装の姿が現れる。ナイスバディなのはお風呂で見たけど、目の保よぅ……ローザリンデの冷めた目線が痛いです。


 相手は奥村さん、剣と盾を構えている。今までの迷いの表情を払拭して、本気モードの表情に変わっている。もしかして、戦いになると豹変するタイプ?



「お手合わせお願いします」


「手合わせ? 勘違いしないで欲しい。私は少年の敵になる者を排除するのが仕事だ」


「ならば、私は敵ですか?」


「こっちが知りたいな。こちらに下る意思はあるのか?」


「正直、混乱していてわかりません。ですので、一度冷静になろうと思います」


「戦うと冷静になれるのか?」


「戦いに限らず、何かに集中してると冷静な自分が見えてきます」


「ならば、冷静になってもらおうかっ!」



 レティさんがダガーを投げる。AFの投擲のダガーのようです。奥村さんはカイトシールドで防ぎ攻撃を仕掛けようとするけど、レティさんの投擲が止まず前に進めないでいる。



「ど、どれだけ、持ってるんですか!」


「ん? 一つしか持ってないぞ」


「嘘言わないでください!」


「これはAFのダガーだからな、投げても手元に戻って来る優れものだ」


「AFかなにか知りませんが、反則じゃないですか!」


「早く冷静になれ、お嬢ちゃん」


「お、お嬢ちゃん……」


「戦いに卑怯も公正も無いぞ」


「……」


「仕方ない……使わないでやろう。特別なんだからな」



 レティさん、ダガーをしまっちゃいましたよ。腰の小剣を抜き無造作に奥村さんに近づいて行く。



「手加減して頂きありがとうございます。ですが、これも策略の一つ恨まないでください」



 そう言って、レティさんに向け剣を振るってきた。


 成程、演技でしたか。でもちょっとクレバー過ぎません? 仮にも勇者を名乗った者が使う手かい? 優等生ぽいって色眼鏡で見てたのかな? そうまでして勝ちを狙う非情さを持っているって事なのだろうか……。



「どうして当たらないの!」



 せっかくそうまでして近接戦闘に持って行ったのに、奥村さんの剣は空を切っている。これといってレティさんが避けているようには見えない。why?



「どうした? お嬢ちゃん。私は目の前に居るぞ」


「どうして……。スキルの力なの……?」


「さあな? これで終わりで良いかな」



 レティさんが奥村さんの横に移動して首筋に小剣をあてる。奥村さんは顔を青ざめながら剣を落とした。



「そんな……何もできなかった?」



 レティさんの圧勝なのかな? なにがなんだかわからないうちに終わってしまったよ。


 ミーちゃん今度はちゃんと称賛する為に、レティさんにコイコイしてますねぇ。


 ミーちゃん、何が起きたかわかった?



「み~?」




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