182神猫 ミーちゃん、GOサインを出す。

 リッテンシュタインと言う男が名乗りをあげた後、先王の貴族に対する規模縮小をおこなおうとした政策の批判に始まり、貴族第一主義と取れる演説を始めている。もちろん、自分が先王を毒殺した事には一切触れず、先王が毒殺された事は当然であると主張までした。


 結局、この人は何がしたいんだろう? 単なる時間稼ぎなのだろうか? 王妃様の話では反乱軍本体は王都から五日ほどの所に来ているらしい。後、五日もこんな事を続けるつもりなのだろうか?



「み~?」



 ミーちゃんもなんて言って良いのかわからず困り顔。



「よくもぬけぬけと演説するものだ」


「我々と言うより、参加していない貴族に対してのものでしょう。自分達の正当性を主張し、王宮を制圧した後の地固めでしょうな」



 成程、そう言う事ですか。もう勝った気でいるんですね。なんともお気楽な人達。それにしてもあの拡声器、不出来だ。音割れも酷いし、雑音も酷い。ゼルガドさんが泣いてるよ。いや、怒ってるかな?



「み~」



 王様達はなんとも思ってないのかな? この状況だとどうでも良い事なのかもね。



「第一騎士団が居ない今、兵の数で圧倒的優位に立っていると思っているのでしょうな。城を攻めると言うのに、攻城兵器すら用意して無いとは舐められらものです」


「それにしても耳障りですわ。弓の名手に射させられないのですか?」


「奴らはそれが狙いでしょう。この距離では例え弓の名手でも致命傷を与えるのは難しく、更に外した場合は我々を嘲笑いこちらの士気を下げるのが奴らの狙い」


「口惜しいですわ。あの音を大きくさせる道具だけでも壊せれば、気も収まるのですが……」



 うーん、やれるかな? あの男を狙えって言われれば断るけど、拡声器を壊すなら俺の良心も痛まないからね。どーする、ミーちゃん?



「み~!」



 やっちゃえ~って、GOサインが出ましたよ。



「あの拡声器を壊せば良いのですか?」


「拡声器?」


「あの声を大きくする道具です」


「ネロ君、できるの?」


「おそらく」


「言ったからにはできませんでしたでは済まぬぞ」



 王様と宰相様が睨んでます。怖ぇーよ。



「ご褒美期待してますよ?」



 ペロを城壁に連れて来るように頼み、俺も城壁上に移動する。



「どうしたにゃ、ネロ?」


「風を読んで欲しいんだ」


「風にゃ?」


「向こうに居る男が持ってる道具をライフルで破壊する。絶対に外す事ができない」


「ふむふむ。わかったにゃ。任せるにゃ」



 ライフルを取り出してスコープをセットする。距離は百二十メル。絶好の狙撃距離。



「準備は良いかな。君があの道具を破壊した時がこの戦いの始まりだ。外せば末代までの笑い者になるだろう」


「別に笑い者になっても痛くも痒くもないんですけどね。知り合いの名誉の為にあれは破壊したいんですよ」


「理由などどうでも良い。破壊したまえ」



 弓兵が敵に見えないように弓に矢を番える。


 俺はミーちゃんを肩に乗せ、城壁からライフルを出してスコープを覗く。



「ペロ」


「八十二メル先に右方向に馬早足程度の風にゃ」


「了解」



 狙いを定めて一度深呼吸して息を止める。ミーちゃんも動きを止めて向こうを見ているのがなんとなくわかった。男が一度拡声器を口元から離した瞬間を狙い


 ヒュンッ! バッキィーン!


 使った弾はホローポイント弾。当たった瞬間、拡声器が粉々に砕け破片が男に突き刺さり血だらけになったのがスコープ越しに見えた。ふ、不可抗力だよね……。



「み~!」


「やったにゃ!」


「矢を放て! 合図を上げよ!」



 弓兵が一斉に立ち上がり矢を放つ。それと同時に花火のような物が打ち上げられ、大きな音が数回鳴った。反乱軍は急な出来事に慌てふためいている。



「ご苦労。君は下がりたまえ。ここからは我々の仕事だ」



 へーい。お言葉に甘えて下がらしてもらいますよ。王様達が居た所に戻ります。



「良くやった。気が少し晴れたぞ」


「ネロ君。見事です。これ以上ないくらいの先制攻撃でした」



 表を見れば矢の打ち合いが終わり、城門が開かれ近衛隊と守備兵が打って出たところだ。傍から見れば暴挙に見えるけど、既に反乱軍の後方では混乱が起きている。ジンさん達や潜ませていた兵達が攻撃を仕掛けたんだろうね。


 反乱軍は挟み撃ちにあってる状態、こうなると所詮烏合の衆。混乱して統制の取れなくなった兵など彼らの敵じゃないでしょう。


 それでも一部の兵は統制が取れてるように見える。ヴィッテルスバッハ候の直属の兵なのかもしれない。


 反乱軍は東門側に移動しているので、東門は反乱軍側に抑えられているのだろう。反乱軍本体と合流するために必死に守りを固めながら移動してる。ここからではもう見えなくなったけど、敗走し始めているんだろう。



「み~」



 王様達も席を立った。



「奴を逃がすのは口惜しいな……」


「ユリウス様。次の幕が上がるのです。機会はまだありますわ」


「そうだな。少し疲れた……休ませてもらおう」



 王妃様と一緒にテラスに戻るとレーネ様とペロ達もいて、宮廷料理長が作ったと思われるお菓子を口一杯に頬張ってる姿が見られた。



「姫! これとっても美味しいにゃ!」


「がう」


「きゅ~」



 ルカとレア、ノアも何かを一生懸命舐めてるね。って、ミーちゃんが血相を変えて飛び移り、ルカ達が舐めてる物に顔を突っ込んでいますよ。餡子だね……。


 良く見れば、どら焼きに見える。俺も一つ頂いてみたけど、まさしくどら焼きです。マジ旨! 皮が半端なく旨いです。これは宮廷料理長に作り方を聞かねば。


 でも、こんなに美味しい皮なのに、ミーちゃん餡子しか食べないんだよね~。



「み~」





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