173神猫 ミーちゃん、また引き受ける!?

 日本での神崎彩音さんは俺と生まれた年はほとんど変わらなかった。


 彩音さんは神様に呼ばれた訳でも、誰かに連れて来られた訳でもなく、迷い人と称される分類に入るそうです。


 迷い人とは、何らかの原因でその人の世界とこの世界が瞬間的に繋がり、運の悪い人がその場所を通ってしまいこの世界に来てしまった人を言うらしい。もちろん、神の領域を通って来るので、肉体、魂の改変はおこなわれる。ただし時間軸にズレが生じるようです。


 彩音さんは最初魔族の国に居たらしいけど、親切な魔族の方に保護され独り立ちできるまでその方の所で生活していたそうです。


 彩音さんがこの世界に来てしまった事は運が悪かったけど、魂の改変で身についたスキルが最高の物と言う運の良さのお陰で順風満帆だったそうです。羨ましい……。


 そのスキルは神託、神に一生を捧げ修行した者でさえ一生に数回聞ければ良いとされる神託が聞き放題のスキル。ただし、答えてくれない時があったり、頼みごとをされる事もしばしばあったようです。


 もともと各地に点在していた義賊ギルドを、今の義賊ギルドにまとめあげたのも神託のお陰と言うから驚きです。神様公認の盗賊って事だよね。義賊の掟は相当厳しいらしいけど。



「最近は神託を使う事もほとんどありませんでした。そんな時です、珍しく神様より神託がありました。わたしと同郷の者が召喚されたので情報を集めなさいと。その時は、将来的には闇落ちする可能性があるからと思っていました」



 ちなみに、彩音さんは神託スキル持ちなので闇落ちしないそうです。神様と繋がっているのだから当然か。



「そして、先日また神託がありました。神の眷属である子猫を連れた者を探し出して協力しなさいと。その者は私と同郷であり、今回召喚された者達の説得をおこなうと言う事も聞かされました。そこで探してみればすぐに見つかりました。この界隈では有名人でしたからね。フフフ……」



 先程のコップにまた、ミネラルウォーターを注ぎ渡す。ミーちゃんクッキーも少し渡した。



「美味しいわ……。私は料理下手でね、学校では必殺料理人なんて呼ばれてたの。この世界の料理は日本で育った私にはとても味気なく思ったものです。何度か神託でなんとかならないかお願いしたけど、腕の良い料理人くらいしか教えてくれませんでした。料理のできるネロ君が羨ましいです……」


「最近、味噌と醤油を見つけました。少しですがお譲りしますよ」


「味噌と醤油……この世界にあったのね。知らなかったわ」



 神託スキルも万能じゃないって事かな。制限があるのかもしれない。



「ネロ君、あなたは気付いていないかもしれませんが、多くの者があなたに興味を持っています。良い意味でも悪い意味でもね。同郷のよしみであなたの手助けをしたいけれど、私の余命はもう幾許いくばくもありません。あなた自身で判断してこの世界を生きていかねばならないのです」



 そこで、彩音さんは言葉を切りミーちゃんを撫でるのをやめて俺をジッと見る。



「日本にいた時の甘い考えは極力捨てなさい。守るべき者、守りたい者が居るなら尚更です。この世界は厳しい世界です。力を持たねば何もできない世界です。私も何度も苦渋を味わったものです。あの時にもっと力があれば、あの子達を見捨てる事もなかった……多くの命を救えたと」



 彩音さんはまたミーちゃんを撫で始める。



「ネロ君にそして今回召喚された人達に、この世界に来た事を後悔して欲しくないのです。この世界は日本などより人との繋がりが深く、大事にする世界です。心優しい良い人が大勢います。そう言う人達とふれあい人生を豊かに生きて欲しいと思っています。そのうえで、どう生きるか、何を成すのかは自由です。だからこそ後悔はして欲しくありません……」



 彩音さんは順風満帆だったと言ってましたけど、壮絶な人生だったのは容易に想像できる。義賊ギルドのトップに簡単になれる訳はない。


 彩音さんが呼び鈴を鳴らすと、すぐにあの魔族の女性が入って来た。



「お呼びですか? 大奥様」


「ネロ君、この子はレティーツィア。私が最も信頼している子です。本来であれば娘のミストレティシアの片腕にするつもりでしたが、気が変わりました。この子をネロ君にあげましょう」


「あげましょうって……物じゃないんですから」


「ネロ君はそう言う言い方は嫌いのようね……その気持ち忘れては駄目ですよ。私はもう、忘れてしまったけど……。ネロ君の仲間が優秀なのは聞いています。正攻法なら問題はないと思いますが、闇の者達では話は別です。その為にもこの子をネロ君の傍に置く必要があります」


「ですが……」


「こう考えてもらえませんか。この子は幼き頃より義賊ギルドで育てられ技を仕込まれ、機械のように忠誠を誓わされて来ました。それを解放するのだと……ネロ君ならこの子を奴隷のようには扱わないでしょう?」


「それは……そうですが……」


「レティ。これが最後の命令になります。この命令の後はあなたは自由の身。何をするも自分の考えで動きなさい。わかりましたね」


「はい、大奥様」


「ネロ君に全てを捧げなさい」


「!?」


「承りました」


「ちょ、ちょっと! なに言ってるのかな?」


「レティをよろしくお願いします。この子に陽の光を見せてあげてください」


「み~」


「神の眷属様はお優しいのですね。安心しました」


「ぐっ……」



 ま、また、任せなさ~いってミーちゃんの悪い癖が……今回の件はそんな安易に引き受けられる事じゃないよ。



「よろしく頼む。少年」


「だから……十八だって言ってるでしょう!」



 あれ? 彩音さん? 息してます? 神託スキルで神様に確認取ってもらえると助かるんですけど。この頃、自分でも自信がなくなってきてるので……。



「みぃ……」





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