172神猫 ミーちゃん、ネロの同郷の者に会う。

 飲んでるお茶はとても美味しく、香りも良いので高級品だとわかる。プリンはすぐに食べ終わってしまったので、ミストレティシアさんの方で用意していたマフィンを食べながらお茶を飲んでいる。


 味もとても良くバターの風味が効いていて、ふっくらとしている事からベーキングパウダーを使っているんじゃないのかな。重曹だとここまで味を調えるには相当綿密な計量が必要になってくると思う。ベーキングパウダー、今度探してみよう。



「ネロ君はこのプリンで商売する気はないの?」


「材料を大量に仕入れるのが困難なのでやりません」


「そう、残念ね。これは売れるわよ」


「面倒なのでいいです。それに自分で作って食べるより、誰かに美味しく作ってもらい食べる方が良いですから、レシピは知り合った料理人の方々に渡してあるのでみなさんの腕に期待です」


「自分で独占して儲けようとは思わないのかしら?」


「料理のレシピなんてものは、料理人によって洗練そして発展していくものです。独占したら新しい味に出会えなくなり、逆に多くの人に広めれば多くの味に変化して楽しめます。俺は多くの味を楽しみたいですね」


「噂通り商人らしくないのね」


「噂ですか?」


「薬師ギルドに喧嘩を売ったとか、貴重な新鮮な魚を安く売ったとか、一番は闇金融ギルドの支部を襲撃した事とハンターギルドに喧嘩を売った事かしら。フフフ……」



 ジンさんが睨んでいますね。怖いです。ミーちゃん、我関せずって感じでミーちゃんクッキーをカリカリ食べてます。



「そろそろ、本題に入ってもらいてぇな」


「本題ですか? 今話題の商人のネロ君と王国の手先になった竜爪のジクムント殿と友好を深めたいだけですけど」


「あんたら義賊ギルドはどっち側についてんだ?」


「今はどちらにもついてませんわ。女帝は権力抗争になんて興味はないですから、その抗争によって弱者が虐げられる事を危惧なされているだけですわ」


「白々しいな。事が起これば、諸手を上げてこれ幸いと仕事をするんだろうぜ」


「否定はしませんわ。それが我々の稼ぎですから。ですが、今回はそうも言ってられません。貴族の背後にロタリンギア王国がいて、偽勇者まで居るとなるとただの権力抗争では済まないと女帝はお考えです」


「ほう。そこまで調べてやがるか……で、どうしたい?」


「我々が陛下側にお味方しましょう」


「何故だ?」


「こちらにもいろいろ事情があるのですわ。多くの闇ギルドはヴィッテルスバッハ候に付きました。貴族との繋がりは深いですから勝ってもらわねば困るのでしょう。ですが、我々義賊ギルドは関係ありません。我々は弱者救済を主として活動する組織。貴族は消えれば良いと思ってるくらいですから」


「理由としては薄いな」


「それではもう一つ、過去の闇落ちした勇者討伐は我々義賊ギルドが請け負ってきたと言えば納得して頂けますか」


「「「!?」」」



 勇者が闇落ちした場合討伐対象になり、ハンターギルドや闇ギルドに討伐依頼が出されると言うのは聞いていた。闇ギルド側で依頼を受けるのは義賊ギルドと言う事らしい。


 確かに今回背後に勇者が居るとなると、義賊ギルドとしても単独で動くよりどこかと手を組みたいと言うのも頷ける。頷けるけど、じゃあ俺が呼ばれた理由ってなんなの?



「み~?」



 ミーちゃんもわかる訳ないよねぇ。俺もわかんないし……。



「良いだろう。宰相様に繋ぎは付けてやる。俺達では判断できねぇからな」


「感謝しますわ」


「だが、何故ネロを一緒に連れて来た? そこが解せねぇ」


「ネロ君にはこの後、女帝に会って話を聞いてもらいます。もちろん、身の安全は保障します。どうしても女帝に会って頂かねばなりません」


「それを信用しろってか?」


「ネロ君は陛下、王妃と懇意の間柄。我々が陛下側に付くのにネロ君を害する事は得策ではありませんので、信用して頂くしかありません」


「何故、ネロだけなんだ?」


「女帝のご命令ですのでとしか……それ以上は申せません」


「どうすんだ、ネロ?」


「行くしかないんでしょうね……」



 そして、目隠しをされた状態で歩かされてます。ミーちゃんは目隠しされてませんよ。しっかりと俺にしがみついてます。階段を何度か降りてひんやりした地下通路を抜けたと思う。また階段をのぼりどこかの屋敷の中に入って目隠しを取られて、とある部屋に連れて来られた。


 目の前にはベッドに横たわる女性の姿がある。部屋にはその女性と俺とミーちゃんしかいないようだ。



「こんな姿でごめんなさいね。こちらに来て頂けるかしら」



 ミーちゃんとベッドの脇に移動する。そこにはやつれているけど上品な老婆が横になっていた。



「私は、神崎彩音と言います。あなたと同じ日本から来た者です」



 あらま、同郷の方でしたか。


 神崎彩音さんは何度か咳き込みながらも、体を起こして俺とミーちゃんを見る。



「これを飲んでください。少しは楽になると思います」



 ミーちゃんのミネラルウォーターをベッドの脇にあったコップに注ぎ渡す。


 神崎彩音さんはゆっくりとだけどちゃんと飲んでくれた。



「これが神水ですね。だいぶ気分が良くなりました。これでちゃんとお話ができます。ありがとう」



 ミーちゃんが神崎彩音さんを気遣いベッドの上に飛び乗り、神崎彩音さんの手をペロペロ舐めてあげてます。



「この子が神の眷属様なのね。なんて、可愛らしいのかしら」


「み~」



 どうやら、この神崎彩音さんいろいろ知ってそうだ。これは聞く価値ありだと思う。



「み~」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る