160神猫 ミーちゃん、ギルドで待機中。代わりにレアがネロに甘えます。

 うん。乗れてます。馬もちゃんと言う事を聞いている。何気に乗馬スキル覚えたのかなと思って自分を鑑定してみたけどついてませんでした……。ギルドのお馬さんが優秀なだけのよう……。


 門の前でジンさんが手形を見せる。今日はジンさんについて来たので自分の手形は見せない。見せるとニーアさんが来ちゃうからね。


 兵士に連れられジンさんと俺は宰相様の執務室に案内された。



「ジクムント殿か。ほう、君も居たのか、珍しいな」


「ジンちゃん。おひさー!」


「て、てめぇがなんでここに居やがる!」


「久しいな。ジクムント殿」


「絶剣殿……あんたまで……」



 宰相様の執務室には先客が居たようです。どうやら、ジンさんとお知り合いのようですね。

 一人は若くも見えるし老練にも見える、おそらくエルフ族の女性。もう一人の絶剣と呼ばれた人はロマンスグレーの渋い男性。二人共只者でないことは纏った空気でわかる。鑑定してみたいけど、した瞬間切られそうなので止めときます。そして最後の一人は若い金髪の男性がジンさんに話掛けてきた。



「あなたが、ジクムント様ですね。お初にお目に掛かります。グレンハルトが弟子のジークフリートです。お見知りおきを」


「絶剣殿、弟子取ったのか……」


「うむ。私の力は今が絶頂期。後は老いさらばえるのみ。ならば今のうちに、我が剣術を誰かに残したくてな。そう言うジン殿も弟子を取られたか?」


「あん? こいつか? こいつは弟子なんかじゃねぇよ。強いて言うならダチだな」


「へぇ~、ジンちゃんにそこまで言わせるなんて。お姉さん興味あるわぁ~」


「ネロと申します。ジンさんからは過分な言葉を頂きましたがただの若輩物。皆様と肩を並べられる者ではございません」


「ふむ。確かに君は体を使うより、頭を使う我々寄りの人間。わかっているなら、私の仕事を手伝いに来たまえ」


「謹んでお断りさせて頂きます。代わりにあれをお譲りしましょう」


「あれか?」


「あれです」


「よかろう。今回はそれで手を打とう」



 あれ、とはミネラルウォーターの事です。以前、お疲れのようだったので差し入れしたらもっと寄こすか、入手先を教えろと散々聞かれ煩かったので妖精族の秘薬と言ったら流石に諦めてくれた。が、買えるなら今度は手に入れて来いと言われていたのを今思い出したので使わせて頂きました。宰相様の仕事なんか手伝ったら寝る暇も無くなりそうだよ。


 ふと周りを確認すると、ジンさんと宰相様以外の目が点になってます。何故?



「こう言う奴だから、いちいち驚いてたら身が持たねぇぞ」



 なんか知らないけどお三方が俺を凝視してるんですけど……。



「して、ジクムント殿。今日来られた要件は、旧知の者に会いに来た訳ではあるまい」


「へ、へい。実は……そのう……なんと言うか……なあネロ」


「はぁ……代わりに申し上げます。東辺境伯ヴィッテルスバッハ候の後ろにロタリンギアがいるようです」


「真か? 動きは?」



 そこまでは知りませんので、ジンさんを見る。



「正規の兵を傭兵に化けさせ、今回の反乱軍に参加させているらしいでございますです……」


「いか程かな?」


「三千人。不確かな情報ですが英雄とか勇者とか言うのが混じっているそうですぜ。ございますです」



 宰相様が眼鏡をずらしてギロリと俺を睨んでくる。だから、怖ぇーよ。



「どうやら、君の出番のようだ。行って来たまえ」


「行って来ます……」



 宰相様が呼び鈴を鳴らして人を呼び、何かを指示する。その後に俺を見て、ついて行けと目力で指示される。執務室の扉から宰相様付き侍従の方の後をついて行く姿は、さながら市場に売られていく子牛のようだった……と後でジンさん達に聞かされた。俺も悲しいメロディが聞こえていたよ……。



「あら、ネロ君。ミーちゃん達は?」


「連れて来ていません。今日はこちらに来る予定はなかったもので」


「ペロしゃん……」



 レーネ様が残念そうな顔をしている。ルカはそんなレーネ様の顔をペロペロして慰めてるようだよ。レアは王妃様の膝の上で可愛らしい欠伸をしている。ノアは見当たらないので、王様の所にでも行ってるのかな?



「それで、ここに来ないでどこに行ってたのかしら」



 王妃様、怖いですよ。お美しい笑顔なのに目が笑ってませんって。



「ジンさんと宰相様の所です」


「何かあったのかしら?」


「東辺境伯の後ろにロタリンギアがいるそうで、反乱軍に傭兵と見せかけ三千の兵を送ったそうです」


「そう……一番望んでいなかった筋書きが現実になったわね」


「更に悪い知らせがありまして……」


「これ以上の悪い知らせってあるのかしら?」


「その三千の兵の中に今回召喚された勇者がいるみたいです」


「……」



 いくつかのパターンとしてある程度は予想していたのだろうけど、ここまでは予想していなかったようだ。流石に、二の句が出てこない。


 しばらくして、なんとか声を絞り出したかのような声で



「最悪ね……正直、不味いわね」



 俺だって対オークキングの切り札として、召喚されたものだとばかり思っていましたからね。まさかの国盗りの切り札だったとはねぇ。ロタリンギアの王様って頭ぶっ飛んでる人なんだと思う。うん、マジで。



「ですが、不味い反面。向こうの国に行く手間が省けました」


「会いに行くつもり?」


「いえ、待ってれば来てくれるのですから、近くに来るのを待ってます」


「決戦は王都と言う訳ね……」


「最初の筋書き通りなんですよね?」


「勇者以外は……そうなるわ」



 レアが王妃様の膝からぴょんと一旦テーブルの上に乗り、今度は俺の胸に飛び込んで顔をすりつけて来る。レア、愛い奴じゃ。ムニュムニュしてくれようぞ。



「戦いが始まる前に会って説得して来ます。ですが、説得できるとは確約はしませんよ」


「えぇ、わかっています……」


「勇者五人の今現在の力はオークキングに遠く及ばないと牙王さんが言ってました。おそらく、経験を積ませる為に今回の戦いに組み込まれた可能性がありますね。百聞は一見に如かず、実践に勝る経験無しって言いますから」


「至言ね」


「ロタリンギアの筋書きとしては、この戦いで勇者として覚醒させついでにこの国を奪い、勇者にゴブリンキングとオークキングを倒させるってとこでしょうか」


「あながち間違ってはいないと思うけど、不確定要素が多すぎるわ」


「まだ、何かあるんでしょうか?」


「何も無い事を祈るしかないわ……」



 俺もそう思います……。




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