152神猫 ミーちゃん、宮廷料理長と意見が合う。

 ニーアさんに先導されています。場所は覚えてるけど、一人で王宮を歩いていたら即刻不審者として捕まると思う。


 薬学機関の受付でパトリック所長に面会を申し込むと所長室に案内された。



「どうした? 依頼した素材が見つかりでもしたか?」



 人を小馬鹿にした言い方ですが、嫌いじゃないです。この人にはこんな感じが似合っている。



「見つかったと言ったら、ご褒美を貰えますか?」


「ふむ。よかろう。成果次第ではそれなりの物を用意しようじゃないか」



 その言葉、頂きました!


 ニヤリと笑って見せパトリック所長の机の上に素材の入った袋を置くと、秘書のヒルデさんが中身を取り出して机に並べだした。



「し、信じられん……」


「全部、本物のようです。所長」


「数は取れませんが、依頼された物全てです」


「まさか、本当に見つけてくるとは……」


「ネロさんはこれがどれほど貴重な素材かご存知ですか?」



 前回も殆ど無表情を崩さなかったヒルデさんが、今回は興奮気味に話掛けてくる。



「いえ、全く」


「ここにある殆どの物が、ここ五十年の間採取されたと言う記録がありません。もちろん、闇市場にも出たと言う事も聞いた事がない物です。既に絶滅したと思われていた物ばかりなのです」



 おいおい、そんな代物を依頼してたんかい! ってツッコミを入れたくなったのは、俺が悪い訳じゃないと思う。



「言っておきますが、生息数は少ないです。今、生息地を整備して増やそうとしてますがすぐには無理でしょう。それでも、少しなら採取は可能です」


「褒美は何が良いのだ?」


「植物などの本が欲しいです。育て方、増やし方、生息地、効能などの書かれた本が欲しいです。まあ、本なら何でも欲しいですね」


「よかろう。多少古くなり買い替えようと思っとた本は多数ある。それを持って行くが良い。古いと言っても十分に読める本ばかりだぞ」


「本来は街の図書館や専門書を扱う本屋などに卸される物です。少々の傷や汚れはありますが、どれも貴重な本ばかりです」


「それは嬉しいですね」


「この素材は買い取って良いんだな?」


「もちろんですよ」



 買い取りのお金は帰るまでに用意しておくとの事、本は整理し準備しておくので後日となりました。


 一旦テラスに戻ると、若干打ち解けた感じの女性陣が話をしている。今度はミーちゃんを連れて王宮の厨房に向かった。



「お土産と珍しい調味料を持って来ました」


「み~」


「ほう。見せてみろ」



 ギルベルト宮廷料理長の前に味噌と醤油の入った瓶を出す。宮廷料理長は瓶の中を覗き香りを嗅ぎ、スプーンに少し取り味をみる。



「大豆か? こっちは魚醤に似てるな」



 魚醤ってあったんですね。知らなかったよ。



「どちらも大豆から造られた物です。使い道は様々ですね」



 厨房の一画を借り、持って来た魚を三枚におろしてアラで出汁を取り味噌を加える。三枚におろした魚を一枚は味噌を塗って、もう一枚はそのまま焼き醤油を掛けて宮廷料理長の前に出す。小皿に少し味噌汁をもらい、ニーアさんが抱っこしているミーちゃんにも出してあげる。


「ほう。スープか、なんとも深みのある味だな」


「み~」



 焼いた魚も宮廷料理長が味見をする。



「味噌を塗った方は魚の味と相まって深みを出し、醤油の方は魚の本来の味を引き立てているな」



 もう一匹魚をおろして刺身にして小皿に醤油を入れ添える。宮廷料理長は知っていたかのように、刺身を醤油に少し付け食べる。



「魚醤と違い、癖がないので素材の味を堪能できる。これなら煮ても焼いてもかけるだけでも良い、素晴らしい調味料だな」



 流石、宮廷料理長わかってらっしゃる。



「どの位ある? 言い値で買うぞ」


「み~?」



 言い値ですか……じゃあと言いたい所ですが、ヴィルヘルムで売った金額に運搬料を加えて一瓶九千レトで良いよね。



「み~」



 まだ、大量に作れないのでと断りを入れ、味噌と醤油を十瓶ずつ渡す。



「これは良い物だ。世間に広めるべき調味料だな」


「み~」



 宮廷料理長もそう思いますよね。ミーちゃんも常々そう思っているようです。村長さんに増産してもらうように頼んでみよう。不安がるなら、全て神猫商会で引き取る契約を結んで増産分を出資しても構わないからね。



「み~」



 ミーちゃんも味噌汁に満足したようなので、テラスに戻ると先程とは打って変わって姦しいです。テーブルの上で自分の飼い猫の可愛さをアピールして、飼い主馬鹿っぷりを見せています。テーブルの周りには侍女さん達が観客になりキャーキャー言って囃し立てています。


 仕方ない、ここは一つビシッと言ってやらねば。ニーアさんからミーちゃんを受け取って侍女さん達を掻き分けテーブルに着き、ミーちゃんをテーブルに乗せる。



「言っておきますが、ミーちゃんの可愛さは別格ですからね!」


「みぃ……」



 ミーちゃん恥ずかしがらない、でーんと構えていれば良いんだよ。嘘偽りなく事実だからね。



「ネロ君の飼い主馬鹿っぷりは別格ね……」



 侍女さん達だけでなく、パミルさんもユーリさんも頷いている。解せぬ。



 時間もお昼なので、王妃様は昼食にみんなをご招待してくれました。さっそく、宮廷料理長はお土産に持って来た魚をメインに持って来たようです。


 具のしっかり入った味噌汁も出てきてとても美味しく、メインは白身魚のしゃぶしゃぶ風を味噌ダレで頂く料理。流石、宮廷料理長です、感服しました。


 ミーちゃんも味噌汁を美味しく頂いたようです。



「み~」





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