113神猫 ミーちゃん、塩を撒く!?

 道中、セッティモでお昼にしてセストに向かう途中で、ルミエール王国の旗を掲げた一団が見えた。歩兵部隊ではないようなので、第二陣の騎士団だと思う。流石に、素通りは不味いかなと思いスミレにスピードを落としてもらう。


 向こうもこちらに気付いたようで、三人程の騎士がこちらに馬に乗ったまま走ってくる。



「失礼だが、貴殿は何者かな? 騎士には見えないのだが」



 そうでしょう、騎士じゃないからね。巡察使の手形を渡した。三人の顔に驚きの色が見られる。



「団長にあってもらえるかね?」



 って、言われたのでおとなしくついて行く事にした。



「私が第二騎士団を預かるウォルフガングだ。巡察使殿の事はアーデルベルト殿より伺っている。王都に戻られる途中か?」


「はい、やれる事はやりました。情報は第三騎士団の団長ベルンハルト殿にお渡ししています」


「ふむ。情けない話だが、第三騎士団と我々第二騎士団は確執があるとは言わないが、決して仲が良いとは言えない。改ざんされる恐れがないとは言えない。この場で我々にも情報を開示して頂けないだろうか」



 どこでも、派閥争いってあるんだね。でも、改ざんってそこまでするのだろうか……。



「うーん、構いませんが、セッティモに行きませんか? 情報を渡すにしても時間が必要ですし」


「巡察使殿がそれで良いのであれば、それに越した事はないですな」



 と言う事で、セッティモに逆戻りです。すぐ近くだけどね。


 宿をとってスミレの世話をしてたら、ウォルフガングさんがお供を連れてやってきた。


 騎士団のみなさんは、領主の館や衛兵さんの宿舎、宿などに分散して泊まってるそうです。


 部屋のテーブルに用意してもらった紙を置き、マップスキルから描き写していく。ちなみにユーリさんは同室です。部屋に空きがありませんでした。ミーちゃん達はユーリさんが相手をしてくれている。なんか楽しそう。


 地図を描き終わり、前と同じ説明をする。軍規に新しく一文を加えた事も話した。



「西側の情報が無いのが怖い所だが、そちらはこちらで何とかするしかないな。 して、巡察使殿はどうお考えかな」


「私の考えを聞いた所で、何の役にも立ちませんよ?」


「そうかもしれませんが、我々騎士とは違った目で見たうえでの考えをお聞きしたい」


「そうですねぇ。一番手前の集落は急いで落とすべきかと、と同時にヒルデンブルグ大公国に援軍を要請して騎竜隊で本拠地を空爆ですかね。これで時間が稼げます」


「稼いだ時間で何をしますかな?」


「戦場作りでしょうか」


「戦場作り?」


「今の白亜の迷宮付近は、圧倒的にこちらが不利な戦場です。せっかくの騎馬隊が全く活かせない状況。これを何とかしないと、白亜の迷宮はさほどの時間を持たず落ちるでしょうね」


「ふむ。で、戦場を作ると?」


「手前の集落まで、森を切り開くしかないでしょう。或いは、最初から白亜の迷宮を捨ててクイント、クアルトで迎え撃つかですかね」


「村を見捨てろと」



 如何にも不愉快と言う顔をしている。



「それも選択の一つと言う事です」


「どちらも、厳しい選択ですな」


「素人考えですから」


「いや、大変参考になりました。巡察使殿には貴重な時間を割いて頂き感謝しています。本来であれば、手の者を護衛に付けたい所ですが状況が状況ですのでお許し頂きたい」



 あたかも、納得したかのような顔をして話してるけど雰囲気は全く逆だね。こっちが不愉快になってくるよ。



「構いませんよ。護衛を付けられても、どうせついて来れないでしょうから」



 ウォルフガングさんは怪訝な顔をしてこちらを見ている。



「明後日の昼には王都に着きますので」


「本気ですかな?」


「本気ですよ」


「あのバトルホースを殺すおつもりか」


「自由に好きなように走らせているだけですよ」


「信じられませんな」



 信じる信じないは、そちらの勝手。もう、用はないでしょう。どうぞ、お帰りください。


 ウォルフガングさんは一応礼をとってからお供を連れて帰って行ったけど、不機嫌な顔を隠す事はなかったね。



「騎士とはみんな、ああ言う者ばかりなのでしょうか?」


「あんなものじゃないですか。第三騎士団は貴族の集まり、第二騎士団はエリート意識が強そうな感じ、第一騎士団は会った事ないですけど」


「それで上手くやっていけるのでしょうか?」


「何とかするしかないんじゃないですか? あれにハンターが加わり、傭兵も加わるんですから」


「あれがニャイトだと思うと幻滅だにゃ」


「み~」



 ミーちゃんも、もう来なくて良いよ~って顔してる。結構、怒ってた?



「み~!」


「塩を撒くにゃか? なんでにゃ?」



 ミーちゃん、塩を撒くなんて言葉知ってたんだね。じゃあ、軽く撒いておきますか。



「ネロ君、何故塩を撒いてるのですか?」


「俺とミーちゃんの住んでた所では、その場を穢された場合、塩で穢れを清めるって風習があるんですよ。って事は、アンデッドにも効くのかな?」


「アンデッドって何ですか?」


「えっ? スケルトンとかゾンビとか……」


「???」


「にゃんにゃそれ?」



 にゃんですとー!? ファンタジーのような世界なのにアンデッド居ないの? 言葉が違うだけかも、ちゃんと説明してみる。



「ネロ君の住んでた場所では死体が歩き回るんですか……怖いです」


「骨だけでどうやって歩くにゃ? ご飯食べないにゃよ?」



 おぉ……なんてこったい。この世界にはアンデッドが居ないそうだぜ、ミーちゃん!



「み~?」



 ミーちゃんは、なんの事かさっぱりって顔で首を傾げてるね。興味ないみたい。


 ユーリさんとペロの話を聞くと、そもそも人は死んだら強制的に神様の元に行くと考えられ、そこで生きてる間におこなってきた事によってその後の行先が変わると考えられている。日本の閻魔様みたいなものだね。


 なので、幽霊っと言った概念が無い。スケルトンもゾンビも居ない。似たようなモンスターは居るようだけど、ちゃんとした種族だそうです。ヴァンパイアと言う言葉はないけど、魔族と呼ばれる人族の一部に吸血する一族は居るらしい。魔族の国はこの大陸の北にあるらしく、この辺で見かける事は殆どないそうです。どうやら、暑いのが苦手な人達のようですよ……。


 なんか、この世界の現実を垣間見た気がするね。



「み~」





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