80神猫 ミーちゃん、飛竜に乗る。

 街の門まではトボトボと、スミレを歩かせます。



「ネロ、気にするにゃ。男は愛嬌にゃ!」


「み~」



 それを言うなら、男は度胸じゃないの?



「あ、愛嬌は大切にゃ。ペロを見るにゃ、愛嬌の塊にゃ。愛されるペロにゃ!」


「みぃ……」


「にゃ……」


「がぅ……」


「にゃんですとー!」



 君達はいつも楽しそうだね、羨ましいよ。


 街の門に着き外に出る。さあ、スミレの本領発揮です。マーティンさんとエレナさんの飛龍は上空に居る。気にせず走ってくれと言われているので、スミレの自由にさせる。また、速くなったんじゃない、スミレさん。数時間でウーリの街を横目に通り過ぎてひた走る。


 途中でお昼にする為に止まり、上空に向かって手を振る。二人とも降りて来た。



「どうした、問題でも起きたか?」


「いえ、お昼にしようかなと」



 マーティンさんとエレナさんは顔を見合わせている。何か変な事言いました?



「ネロ君は余裕があるわね……こんな草原の真っ只中でお昼にしようなんて」



 じゃあ、どこで食べろと仰るのでしょう?


 スミレの水と飼い葉を用意してから、いつものようにシートを敷いてお昼にする。


 マーティンさんがどかっと地面に座って



「君を見ていると、神経を張り詰めさせてるのが馬鹿らしくなる」


「どうぞ」



 マーティンさんとエレナさんにもお昼ご飯を差し出す。



「頂くわ……」



 飛龍は伏せの状態でおとなしくしている。ミーちゃんはご飯を食べながらも飛龍が気になって仕方ないようだね。チラチラと飛龍を見ている。



「近寄ったら駄目ですか?」


「やめた方が良い。威嚇されるのがおちだ」


「そうね。私達以外には世話係くらいにしか近寄らせないわよ」



 それでも、ご飯を食べ終えたミーちゃんは果敢にアタックするようだ。二頭の飛龍に睨まれながらも近寄って行き、二頭の飛龍の顔に顔を寄せる。スミレの時のように鼻と鼻をくっつけ合わせた。



「み~」



 ミーちゃんはぴょんと飛龍の頭に飛び乗り、ドヤ顔です。


 流石にマーティンさんとエレナさんも驚いてる。



「信じられん……」


「バロンがおとなしくしてるなんて……」



 ペロとセラ、ルーくんも近寄ってみたけど威嚇された。けど、ミーちゃんが間に入った事で触るくらいは許してくれたようだ。俺は怖いからやめとくね。



「夢でも見てるのか……」


「副隊長、事実ですよ」



 昼食も終わり出発しようとすると、ミーちゃんが赤い飛龍から離れない。



「あら、子猫ちゃんは飛龍に乗りたいの?」


「み~」


「じゃあ、一緒に乗りましょうか」



 エレナさんはそう言って、ミーちゃんをご自身の豊かなお胸に入れてしまった。なんて羨ましいんだろう。ミーちゃんじゃなかったら嫉妬してるね。ミーちゃんはエレナさんの胸から顔を出して、嬉しそうにしている。



「ミーちゃん、おとなしくしてるんだよ」


「み~」


「姫だけずるいにゃ……」



 さあ、出発しましょう。飛龍が翼を広げ羽ばたき舞い上がる。スミレは飛龍など眼中に無しとばかりに加速していく。途中何度か飛龍がスミレと並び飛ぶ。スミレは気にしてない素振りを見せながらも負けじと走ってるようだ。無理しないでね。


 湖の湖畔の街ニクセにも寄らず走り続け、夕方になったのところで野営の場所を探す。マーティンさんが良い場所を見つけてくれたようだ。草原に大きな岩がある場所で見晴らしも良い。


 スミレがだいぶ疲れてる。念入りに体を洗って水の桶にミネラルウォーターを一本分入れておいた。美味しそうに飲んでるので大丈夫だろう。


 ペロと一緒に買ったばかりのテントを張る事にする。最初はやっぱり四苦八苦しながら組み立てた。苦労した甲斐があり中はみんなで寝るには十分な広さだ。


 マーティンさんとエレナさんは飛龍の鞍を外すと飛龍はどこかへ飛んで行ってしまった。


 ミーちゃんがエレナさんから俺に飛びついて来る。楽しかった?



「み~」


「子猫ちゃんと仲良くなれたと思ったけど、やっぱりネロ君の方が良いかぁ……」


「み~」


「残念。ふられちゃったね」



 飛龍は食事に行ったそうです。マーティンさんとエレナさんはテントは必要無いと言っている。飛龍が布団代わりだそうです。便利だ。


 暗くなる前にミーちゃんバッグから薪を出してもらい、火をつける。火を見てると落ち着くんだよねぇ。


 夕食の準備をしよう。しようと言っても、皿を出すだけだけどね。セラとルーくんの分のお肉は焼いておく。



「我々の野営が惨めに見えるな……」


「副隊長、我々は軍人ですから……」



 食事をしながら、夜の見張りはどうするのか聞くとエレナさんが笑いながら



「好き好んで飛龍が二頭もいる場所を襲うモンスターなんていないわよ」



 って、言われた。成程、ごもっともなご意見です。もし、襲って来たとしてもその前に飛龍達が気付くから、安心してとも言われたね。飛龍超便利。うちのセラも同じだけどね。


 飛龍も戻ってきて、焚き火を囲むように伏せている。マーティンさんは飛龍の羽根に包まり寝てしまった。


 エレナさんはミーちゃん、セラ、ルーくん、ペロに包まれご満悦状態です。



「思った以上にその子速いわね。びっくりしたわ」


「飛龍に対抗意識を持って走ってましたからね。だいぶ疲れてましたよ」



 ぶるるっと、そんな事ないわよって文句を言ってるようだ。



「ブロッケン山には明日には着きそうね」


「そうなると思いますね」



 エレナさんと他愛もない話をしながら、みんなをモフっていると急に飛龍も含めミーちゃん、セラ、ルーくん、ペロ、スミレが一点見つめだす。とても緊張した様子。


 流石に、マーティンさんも起きてきた。


「何が起きてる?」


「わかりません」


「ペロ?」


「何か恐ろしい気配が生まれたにゃ……」



 みんなが見つめた方向はクイント、クアルトの方角……。




 時は少しだけ遡る。ここは、とある山中。多くのゴブリンジェネラル、ゴブリンナイト、ゴブリンリーダーが見つめるものは黒い霧。


 それが徐々に形を成していく……。



「我、第六天魔王。現世に降臨せり……」





 第一章  異世界でギルド職員になりました。 完



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る