76神猫 ミーちゃん、公都に着く。
プンスカ怒ってるセラを宥めながら、ペロを正座させている。
セラは女の子だ。女の子を後ろから羽交い締めにしたペロに弁護はできないなぁ。それでも、セラには情状酌量の余地はあるんじゃない? とだけ言っておいたよ。
「セラにゃん。許してにゃ~」
セラはプイっと横を向いてしまった。あぁ、ペロが完全に落ち込んじゃったね。
朝食を済ませて出発する。この後は何事もなく次の街ウーリに着き、次の日の昼前に公都ヴィルヘルムの門をくぐった。途中、何度か上空を飛龍が飛んでいるのを見かけたけど、旅人や行商人さんが気にした様子がなかったのであれが有名な騎竜隊だったのかもしれないね。
公都ヴィルヘルムは海に面した都市、たまに風に乗って潮の香りがしてくる。買い物が楽しみだよ。
着いたばかりだけど、王宮に向かおうと思う。面倒な事はさっさと済ますに限ります。
王宮の門で止められたので、手形を渡すと兵士の待合室のような場所へ連れてこられた。スミレおとなしく待っててね。
俺はミーちゃんとセラを抱っこして、ペロはルーくんを抱っこして待っていると、他の兵士より明らかにきらびやかと言うよりは質の高い実用性に富んだ鎧を着た方が目の前に座った。
「私は近衛隊のカールと言う。手形を確認させてもらったが、正式なルミエール王国の物だった。しかし、君がルミエール王国の使者にはどうしても見えないのだよ」
髭を生やした偉丈夫と言える程の人が困った顔をしている。確かに使者には見えないだろうね。ミーちゃんから王妃様から預かった短剣を出してもらい、カールさんの前におく。途端にカールさんは目を大きく開き、まじまじと短剣を見ている。
「大公様にお取次ぎを」
「承知した」
結構、長い間またされルーくんが動きたくてウズウズし始めた時、カールさんがお供二人を引き連れて現れた。
「陛下がお会いになるそうだ。ついて来たまえ」
カールさんが先頭で間に俺達、後ろに兵士さん二人、連行されてるみたい。立派な中庭を抜け王宮の奥にあたる場所の一際立派な扉のある部屋に着いた。
カールさんが扉をコンコンコンとノックすると、低く威圧感のある声で入れと聞こえた。
カールさんが扉を開けて俺達を中に入れるけど、二人の兵士さんは入らないようだ。
「カール下がってよい」
「しかし……」
「下がれ」
カールさんは渋々と言った感じで部屋を出ていく。
「こっちに座りなさい」
執務室のような部屋だけど立派な応接室セットが揃っている。遠慮なく座らしてもらいましょう。
一通りの挨拶を済ませると、大公様は呼び鈴を鳴らして執事さんのような方を呼び何か指示をしている。あのう、お構いなく、すぐ帰りますので。
「アンネリーゼは息災か?」
「はい。とてもお元気です。レーネ様も」
「レーネは可愛い盛りであろうな……」
「とても愛らしく、それでいてとてもお優しい姫様です」
「そうであろう……」
いかつい顔の大公様も孫には弱いようで、目尻が下がっている。
部屋がノックされ執事さんと侍女さん達が現れ、お茶の用意がされていく。
ミーちゃんとセラ、ルーくん用に牛乳もお皿に用意してくれたようだ。ミーちゃんは飲まないけど、セラとルーくんを降ろしてやり、飲んで良いよと言うとペロペロ飲み始めた。侍女さん達がそれを微笑ましく見てるね。ミーちゃんは俺の腕の中で周りを興味深そうに観察している。
「その子は飲まんのか?」
「申し訳ありません。ミーちゃんは私が用意した物しか口にしないので」
「み~」
「賢いのだな」
ペロは出されたお菓子をパクパク食べては、ウマウマと言ってお茶をがぶ飲みしている。少しは遠慮と言うものを知って欲しいよ。
「それでここまで来た用件はなんじゃ?」
大公様に王妃様の手紙を渡した。
侍女さん達はとうとう誘惑に負けセラとルーくんをモフり始める。執事さんはペロの世話を焼いている。大公様はそれを見ていても何も言わないので、結構ラフな職場なんだね。
「ほう。いろいろ動いとるようじゃな。しかし、大戦とはな……」
大公様は険しい顔をなさっている。
「アンネリーゼは君を高く買っとるようだな」
「たまたま、王宮でお会いしレーネ様がペロをいたく気に入って頂けたようで」
「ケットシー族か……初めておうたのう。そっちは白狼族だな。ブロッケン山で見た事がある」
「ルーくんはブロッケン山の白狼族の長の末子です」
「なんと! それは真か……」
「がう」
どうせ、後でお願いしようと思ってた事なので事情を説明した。
「そこまで高い知能を持つと言う事は魔王級か……」
「ですが、彼らは人との争いを望んでいません。共存共栄が彼らの願いです」
「ブロッケン山が安全に通れるのは、嬉しい限りじゃが……すぐには信用できん」
「それはお互い様だと思います。せっかく開いた共存共栄の道、人族側から閉ざさないで欲しいです」
「ルミエールとも話さなければなるまい」
その後は他愛もない話をした。大公様はセラを気に入ったらしくずっと撫でていたので、元の黒豹の姿も見せたけど驚くより感心していたね。
そう言えば、お土産のエールとワインを出したらとても喜んでくれたよ。
帰り際、今夜は泊まる場所は決まっているのかと聞かれたので、まだですと言ったら王宮に泊まるように言われたけど、ご辞退させてもらう。俺のメンタルが持ちません。侍女さん達は残念そうな顔をしているけど、敢えて何がとは聞かないよ。
大公様に明日も来るように言われてお暇すると、門の所で執事さんが紙を渡してきた。宿を紹介してくれるようだ。ありがたいね。
スミレも王宮の馬丁さんに良くしてもらったのか、終始ご機嫌だった。
明日は、港に行ってお魚を一杯買おうね。
「み~」
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