68神猫 ミーちゃん、慄き逃げる。
翌朝、いや朝ではないね。宰相様にもらった時計を見ると十一時を指している。昨夜、寝るのが遅かったのでこんな時間になってしまった。
「み~」
「おはよう」
ミーちゃんも、起きたようだ。ペロは? キャリーバッグはテーブルの上にあるけど、中に居ない。ベッドの下も見たけど居ない。既に、起きて外にでも出たのかな?
「み~」
ミーちゃんが洗面台に乗って俺を呼んでいる。寝癖でもついたの? と思ったら、洗面台に丸くなって猫姿のペロが寝てました。器用としか言いようがない……キャリーバッグからどうやってここまで移動したんだろう?
「み~?」
ミーちゃんも不思議そうな顔をしてるね。
「おはようにゃ?」
ペロはまだ、自分がどこに居るか気付いていない。
「なんにゃー! なんでこんにゃ所に居るにゃ! ネロは酷い奴にゃ、いたいけなペロをこんな場所に寝せるにゃんて悪魔にゃ!」
「違うからね……」
「みぃ……」
「にゃ? 違うにゃ?」
ペロに真実と言う苦悩と悪夢を伝えてやる。ペロは話を聞いた後、部屋の片隅でイジけてる。
「み~」
ミーちゃんがペロの背中をテシテシ叩いて慰めてるね。ミーちゃんは優しい子だよ。
ペロに、お昼ご飯食べに行くよって言ったら、普通に復活したけど現金過ぎません?
スミレの世話をしに馬舎に行くと、スミレがまたプンスカ怒っている。朝の世話をしなかったせいだ。いやいや、俺達も昨夜遅かったよね? 勘弁してよ、スミレさん。それならそうとちゃんと言っておいてよね、だそうだ。ごもっともでございます。はい。
宿の食堂に行くと、昨日の夕食と今日の朝食をとらなかったので、お昼をタダにしてくれると言ってくれた。助かります。
お昼を食べながら、ミーちゃんの赤い宝石の付いたネックレスについて考えてみた。
最初に鑑定した時は鍵とは出ていたけどAFとは出ていなかった。なのにだ、今鑑定するとAFになっている。AFって何なの? 一つだけ推測できるのが神様が関わっているんだろと言う事。AFから神様の力みたいなものが抜けかかっていた時に、ミーちゃんが手に入れてずっと持っていたから神様の力が補充されたと考えるのが一番理に適っていると思う。真実はわからないけどね。機会があれば検証したいところだな。
この後は王宮に行く。昨日手に入れたマフィアの書類を王妃様に渡す為だ。こう言うのは早めに手を打たないと、相手に準備する時間を与えてしまいかねない。
スミレに乗って王宮に行き、手形を見せるとすぐにニーアさんがやって来た。スミレも我が物顔で自ら馬丁さんの所に向かって行く。うちの女性陣は大物です。
「あら、ネロ君。こんなに早く来てくれるなんて嬉しいわ」
「ねこしゃん!」
「みゃ~」
「ねこしゃんじゃにゃくて、ペロにゃ」
「……ぺろしゃん」
「それで良いにゃ……」
「ぺろしゃん!」
ペロはレーネ様とルカに抱きつかれ、スリスリ、ペロペロされている。
ニーアさんは暗黙の了解とばかりに、俺からミーちゃんを奪い王妃様の元に連れて行ってしまったよ。何故……。
「ミーちゃんは今日も可愛いわね。青いリボンもお似合いよ」
「み~」
ニーアさんが王妃様の対面の椅子を引いてこちらを見ているので、座れと言う事でしょうね。王妃様の前って緊張するんだよねぇ。
ニーアさんがお茶を入れてくれて、一息ついたところで王妃様が話掛けてきた。
「昨日は、大活躍だったようね。ネロ君」
「もうご存知なのですか?」
「フフフ……これでも。個人的な耳や目は持っているのよ」
成程、伊達に王妃の肩書を持っている訳ではないと言う事ですね、逆に安心しました。
「ギルド職員がギルドに喧嘩を売るなんて、初めて聞きましたがとても爽快で心が晴れ渡る思いでしたわ」
「第三者が見ればそうかもしれませんが、ここに一人そのせいで職を失いそうな者が居るんですけど……」
「あら、ネロ君。ハンターギルド辞めちゃうの?」
「まだ、わかりませんが、ハンターギルド本部に喧嘩売ったようなものですから」
「なら、私が雇って差し上げましょう。ネロ君を雇えばミーちゃんとペロちゃんも、もれなく付いてくるでしょうしね。フフフ……」
本命はどう見てもそっちのような気がする。でも、それもありかな。その時はよろしくお願いします。
「それで、今日来たのは他に何か困った事があったからではなくて?」
ミーちゃんバッグから昨日の書類を出してもらい、王妃様に渡す。
「これを私に見ろと?」
「昨日、マフィアのアジトで見つけた物です」
王妃様が内容を確認していく度に、お美しい顔が険しくなっていく。ミーちゃんはそんな王妃様の雰囲気を感じ取ってか、レーネ様の所に居るルカの元に行ってしまった。逃げたね、ずるいぞミーちゃん!
「これをハンターギルドの本部に渡せば、幹部間違いなしよ」
「残念ながら、本部に喧嘩を売った身ですし本部の幹部連中がどんな方達か知りません。私が今までにあった中で、これを有効に活用できるのは王妃様と判断させて頂きました」
「誉められてるのよね?」
もちろんです。俺の直感スキルは宰相様と比べものにならない程、王妃様に逆らうなと警鐘を鳴らしています。俺は小心者ですが馬鹿ではありません。長い物に巻かれるなら、より長い物に巻かれたいです。はい。
「アーデルベルトを大至急呼びなさい。王妃命令です」
ニーアさんが控えて居る侍女さん達に指示を出している。
「褒美は何が良いかしらね? ルカちゃんの分を受け取ってくれなかったようだし。お金じゃ気に入らなかったかしら?」
なんて、人が悪い言い方でしょう。微笑んでるけど、目が笑ってませんよ。わざとそうしてるのが見え見えなんですけど……試されてるのかな?
「ルカは売り物じゃありません。あの子は母猫を亡くして、兄弟もどこに居るかわからない可哀そうな身の上でした。レーネ様も王宮では友達も少なく寂しい思いをなさっておいでだと思い、お互いに寂しさを知った者同士仲良くなれると思いお連れしました。ですので褒美など不要です。ですので、ルカを可愛がってください」
「そう……では今回の褒美はどうしましょうか?」
「そちらはお任せします。ですが、ここに名を連ねた者には正しき裁きを与えて頂きたいです。多くの力無き者を泣かせ、死に追いやり食い物にしてきた奴らです。死罪でも軽いくらいです」
「善処はしますが、どこまでやれるかは……。それでもよくて?」
「王妃様に無理なら誰がやっても無理でしょう」
「その思いに報えるよう、努力致しますわ」
やはり、この方は恐い人だ。
気を付けよう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます