69神猫 ミーちゃん、ペロに剣を授ける。

 宰相様が侍女に伴われてやって来た。



「至急のお呼びとか……如何なさいましたかな?」



 宰相様が立っていて自分が座っているのもあれなんで、立とうしたら王妃様に手で止められた。



「ネロ君は座っていて構いません。わたくしの友人なのですから」



 宰相様が眼鏡の脇からギロリと俺を見てくる。怖いんですけど。



「アーデルベルト、これを見なさい」



 王妃様が俺が持って来た書類を宰相様に渡した。



「ほう。これはこれは……使えますな。アンネリーゼ様はこれをどうやって?」



 また、宰相様がギロリと俺を見ながら言ってくる。



「それは、あなたが知る必要はありません。それを使ってすぐに手の者を動かしなさい」


「承知しました。影を動かすだけでよろしいのですかな?」


「そこに書かれた貴族、全て潰しなさい」


「ふむぅ。これだけでは難しいですな」


「ですから、影を動かすのです。その者達に召集は掛けません。代わりに揺さぶりを掛けなさい」


「謀反……ですか。軍を動かす事になりますが、構いませんですかな?」


「騎士団を陽動で動かせます」


「陽動ですか……ですが諸刃の剣になりませんかな?」


「軍を動かさなければ、その者達は動きません。少なくなった分は父上に兵をお借りしますので安心しなさい」


「竜騎隊を動かすおつもりか?」


「何か問題でも?」


「……大公様への使者は如何なさいます? 正使は使えませんが……」


「極秘に進める以上、わたくしやあなたの手の者を使う訳にはいきません。ですので、わたくしの友人に頼もうと思います」



 何故、そこでお二人は俺を見るのでしょうか? 俺に行けと仰るんですね……。



「……謹んで、お受け致します」


「流石、わたくしが見込んだ友人です」



 王妃様、アンネリーゼ様のご実家はルミエール王国の南にある、ヒルデンブルグ大公国。ルミエール王国の十数代前の国王様の弟が魔王を退けて建国した国で、親戚の国って事になるのかな。


 海を持ち二つの魔王領と隣接していて、ルミエール王国としては南の防御を全て任せていると言いって良い程、お互いに背後を任せあっている親密な関係の国。大公(国王)以外、世襲する貴族の居ない珍しい国で、どちらかと言えば軍人が力を持つ国らしい。


 そこの現大公ルッツ・ヘルツォーク・フォン・ヒルデンブルグ様に会いに行く事になってしまった訳です……。



「ネロ君はクイントから王都まで四日間で着いたのよね? 今乗って来てるバトルホースでかしら?」


「はい。スミレと言います。もの凄く脚の速い子です」


「王宮のバトルホースでも四日でクイントは無理よね……」


「寝ずに走らせれば着くかと」


「乗ってる者もバトルホースも死ぬ覚悟がないと無理よ」


「第一、第二騎士団の者であれば、皆その覚悟は持っておりますが」


「その必要はないでしょう。ここに余裕を持ってそれを遂行できる人が居るのですから」


「……」


「七日と言う所かしら? 夜はちゃんと寝てたの?」


「セッティモ、セスト、テルツォで宿に泊まって寝てました」


「……これがネロ君じゃなければ、信じられない話ね。そのスミレちゃんは疾風持ちなのかしら?」


「はい。それと、剛脚と言う異能も持ってます」


「とても優秀な子なのね」



 病気が治ってからは、走るのが楽しくてしょうがないって感じだよね。後は体重が増えて体力が付いたらどうなっちゃうんだろう。スミレ、末恐ろしい子……。



「出発は明日のお昼。それまでに全て用意しておきます」


「ギルドの方はどうすれば良いですか?」


「そちらは、私が何とかしよう。私が個人依頼を出したとでも言えば問題なかろう」



 はぁ……じゃあ、明日の昼前にまた来ますね。ミーちゃん、ペロ帰るよ。



「み~」


「お姫様、ルカ。また明日にゃ」


「みゃ~」


「ぺろしゃん、またあしゅね!」



 ミーちゃんは、ルカをペロペロ舐めている。やっぱり寂しかったのかなぁ。




 翌朝、ペロに顔を蹴られて起きた……。何故、ペロがここに居る? ここまで、寝相の悪さでやって来たのか? もう、アメイジングとしか言い用がないね。今日からアメイジング・ペロだ。


 朝食をとって、スミレの準備をして宿を出る。そう言えば、修繕に出したAFを取りに行かないと。



「うむ。できとるぞ」



 黒光りする鞘が妖しさを醸し出させている。あの時は感じなかったけど、これはまさしく妖刀じゃない?



「磨けば磨くほど、この儂が魅了されて行く程の名刀じゃ。大事にするんじゃな」



 妖刀ではなく名刀のようです。外に出てからペロに渡す。



「本当に貰って良いにゃ?」


「大事にしろよな」


「み~」


「姫、ネロ、ありがとにゃ。格好良いにゃ~。ペロの愛刀ににゃったからには名前を付けにゃければにゃらぬ!」



 ちなみに今まで使っていた剣はマタタビだそうだ。なんて、ネーミングセンス……。



「ネロ、なんか格好良い名前にゃい?」



 その剣には見えざる爪って名前みたいのがあるんだけど、うーん。



「虎徹って言うのはどう?」


「虎徹。おぉー、強そうにゃ。どんな意味があるにゃ?」


「ある弓の達人がある日草むらの中に虎を見つけて、襲われる前にとっさに虎を弓で射て矢は見事に命中したんだ。だけど、実際に近まで行って見てみるとそれは虎ではなく岩だったんだよ。でも、岩に矢尻が見えないほど食い込んでいたんだ。……ようするに、一心不乱に努力すれば、一念によって石をも徹すことが出来るって意味」


「うーん、難し過ぎてよくわからないにゃ。虎徹、気に入ったにゃ!」


「みぃ……」



 ミーちゃんわかってるよ……敢えて何も言わないよ。ペロだし。


 ペロにはその分頑張ってもらおうよ。



「み~」





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